元聖女になったんですから放っておいて下さいよ

風見ゆうみ

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15 勝手すぎますよ!

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 その日の晩は、屋敷の中にある食材を全て使い切ってくれたんじゃないかと思ってしまう程のご馳走が、テーブルの上に次々と並べられていった。
 というのも、私が皿を空にしたら、また新しい料理が運ばれてきたからだ。

 私とリュークが、何の前触れもなしに籍を入れた事に、アンナも奥様も驚きはしたけれど、王太子殿下が来られていた事は知っていたので、事情があったのだろうと納得してくれて、とても喜んでくれた。
 
「でも、ミーファさん、本当に良かったの? まあ、王太子殿下を諦めさせる為に、そうせざるをえなかったのかもしれないけれど」
「何が?」

 聞き返すと、アンナが少しだけ心配げな顔をして続ける。

「ミーファさんは、届け出を二人で出しに行く事を憧れたりはしなかったの?」
「私はそういう憧れはなかったわね。もちろん、実感がないというのもあるけど、当主様が提出しに行って下さったのは、私の為なんだから。そうしてくれたからこそ、王太子殿下も大人しく帰ってくれたのもあるんだと思うの。だから、残念だったという気持ちはないかな。もちろん、二人で出しに行く事に幸せを感じるのが普通なのかもしれないけど。人それぞれだと思うわ」
「まあ、それはそうね。結婚式も挙げない人もいるわけだし」
「私もそのタイプかなあ」
「え!?」

 アンナが驚いた顔をしたので、私は苦笑してから話題を変える。

「アンナもたくさん食べないと駄目よ?」
「私だって食べているわ! ミーファさん程、食べられないだけよ」

 アンナには悪いけど、人に価値観を押し付けられるのは好きじゃない。
 他人に言われた場合は無視すれば良いだけかもしれないけど、友人から言われると、まるで、自分の選択が間違ったと言われている様な気になってしまう。
 もちろん、アンナは嫌な気持ちで言っている事ではないくらいわかるから、変に揉めたくなくて話題を変えたけど、アンナもそれに気が付いてくれた様で、それ以上、結婚式の話題については触れてこなかった。

 籍を入れたといっても、それこそ、リュークが卒業するまでは今までと変わらない生活をしたい。

 リュークを巻き込んでしまった私がワガママを言うのも気が引けるけど、まだ未成年だという事で許してほしい。

 もちろん、リュークが卒業して、お互いが成人になる時には心構えはしておきたいと思っている。
 それまでに私は精神的にも大人になって、次期辺境伯夫人としてふさわしいと思ってもらえる様な人間にならないと。

 そんな事を考えていた私だったけれど、次の日には、呑気に構えていられる場合じゃない事がわかった。
 聖女の侍女の一人が代表して送ってくれた手紙を読んだからだ。

 その手紙が届いたのは、次の日の朝の事だった。
 
 王太子殿下が聖女達に私がリュークと籍を入れた事を話したらしく、次に聖女が侍女達に私の話をしたらしい。

 お祝いの言葉がまず書かれていた後に、聖女達の最近の様子が書かれていた。
 
 まず、一人目のエルセラは、さすがに事の重大さに気が付いたらしく、王太子殿下のお尻を追いかける事は止めて、真面目に聖女の仕事をし始めたとの事だった。

 当たり前の事かもしれないけれど、残っていた聖女の内の一人でも馬鹿じゃなかったとわかってホッとした。

 トリンとキュララはエルセラが真面目になった事をいい事に彼女に仕事を押し付けようとしたらしいけれど、そこは侍女達が阻止して仕事を振り分け、二人共に今日は朝から、ブツブツ文句を言いながらも、それぞれに振り分けられた場所に向かったらしかった。
 
 問題は残りの一人のフランソワだった。

 彼女は何日か前から、突然、姿を消してしまったらしい。

 侍女達が話し合って出した結論では、フランソワは自ら逃げたわけではなさそうという事だった。

 なぜなら、フランソワにメインに付いていた侍女が言うには、部屋の中にあるもので、彼女が大事にしていたアクセサリーや、家族との思い出の品など、全てが部屋の中に残されたままなんだそうだ。

 逃げるにしても、大事なものは持って逃げるのではという見解みたい。
 だけど、フランソワがいなくなったのは城内でじゃないかと言われているから、自分から逃げ出したという可能性も捨てきれないという事だった。
 慌てて逃げたから、何も持ち出せなかったとか?

 でも、自分から逃げるにしても、逃げてどうなるの?
 実家に戻ったって、すぐに連れ戻されるだけだし、どこかに身を隠すにしても、そんな事をする行為だけでも罪に問われる可能性がある。
 それは匿う方だって同じ事だ。

 リュークやアンナは学校に行ってしまっているので、話を聞いてもらえるのは使用人しかおらず、メイドのカーラに話をしてみた。

「たとえば、私がスコッチ邸から、いきなり姿を消したら、カーラはどんな事を考える?」
「ええ!? そんな怖いお話をしないで下さい! 当主様達にクビを言い渡されてしまいます!」
「カーラ、落ち着いてよ、例え話だから。私の姿が見えなくなったら、カーラはどんな事を考える?」

 私に聞かれて、泣きそうな顔になったまま、カーラは思案してから答えてくれる。

「まずは、リューク様やアンナ様の所に行って、ミーファ様がいらっしゃらないかや、行方を知っておられるかどうか確認をすると思います」
「屋敷内で見つからなかったら? 私が屋敷から出ていく姿を見た人もいないの」
「という事は、屋敷内にいらっしゃいますよね…」
「わからないわ。屋敷内にいないとしたら、どんな状況だと思う?」
「ありえないとは思いますが、屋敷内で誰かに監禁されている、もしくは連れ去られたとか?」
「その誰かというのは? スコッチ邸の警備はしっかりしているのでしょう?」
「そうですが、皆がみんな、関わりのない人の顔を覚えているわけではないと思うんです。私だって、騎士の方の顔を全て覚えている訳ではありません。知らない方がいても、新しい騎士の方かな、と思うくらいで」

 カーラが眉を寄せて答えてくれた。

 それはそうなのかな。

 カーラがメイドなどの使用人の中に知らない人がいるとなると問題だけど、相手が騎士の人の場合は、自分が知らなくても、知らない人がいたら騎士の人が気付くはずだから、特に興味を示したりしないのかもしれない。
 屋敷の中では多くの人が交代で働いているし、騎士の人以外は、屋敷内にいる人間をそう怪しんだりしないだろうしね。

 となると、王城なんて余計にそうよね。
 かなり大きいから、たくさんの人が働いてるし、知らない人がいてもおかしくないはず。
 フランソワを拉致しようと誰かが忍び込んでいてもわかりにくい?

 だけど、王城はスコッチ邸よりも、もっと人の出入りには厳しいはずだから、不審者なんてそう簡単には入り込めないはず。
 それに、フランソワをどこかへ連れ去るにしても、素直に彼女も連れ去られたりしないだろうから、何か手がかりが残っていそうなもんなんだけど…。

「ミーファ様…」
「どうかしたの?」 

 名前を呼ばれたので聞いてみると、カーラが不安そうな表情で尋ねてくる。

「まさか、リューク様との結婚が嫌で逃げ出そうと思われている訳ではないですよね?」
「まさか! それは絶対にないから安心して?」

 好きな人と結婚できたのに、嫌で逃げ出すはずがない。

 それに聞こえは悪いかもしれないけどリュークは私にとっては、この上ない好条件な人だもの。
 
 ただ、モテそうだから心配。
 学校では先生達には結婚の報告はするみたいだけど、後は親しい人達にしか話さないらしいし。

 本当は大々的に言ってもらった方がいいのかな?
 だけど、私の事を邪魔な人間だと思う人が現れて危険になるかも?
 あと、ライバルがすごく可愛い子だったりしたら、絶対に負ける!
 いやいや、リュークは、顔で人を選ぶ様な人ではないわよね。

「ミーファ様、どうかされましたか?」
「え? あ、ううん。話をしている最中なのにごめんなさい。少し考え事をしてたわ。話の続きだけど、私自ら失踪する事はないから安心して!」
「それなら良かったです」

 カーラはホッと胸をなでおろしたあと、真剣な表情で言う。

「という事は、先程の話に戻しますと、屋敷内に隠し通路があって、ミーファ様が迷い込んでしまって出られないとか、あとは何者かにミーファ様がさらわれたと考えるしかなくなるのでは?」
「さらわれた…か」

 呟いてから考えてみる。
 
 フランソワを誰かがさらっていったにしても、何のメリットがあるの?

 他の聖女は今は王太子殿下どころじゃないし、逆にフランソワがいなくなったら困るはず。

 やっぱり、フランソワが転移の魔道具を使って、自分で逃げ出したというのが、結論としては一番、しっくりくるのかな?
 
 カーラがいる事を忘れて考えていると、バトラーがやって来て、当主様が私を呼んでいると伝えに来てくれた。
 慌てて、当主様のいる執務室に向かうと、当主様は挨拶を交わした後、難しい顔をして言う。

「呼び出して悪かったな。ただ、ミーファにとっては面倒な事が起きた」
「…どういう事でしょう?」
「国王陛下が聖女様が一人、失踪してしまった事を理由にミーファを聖女に戻すと言っているらしい」
「そ、そんな…。勝手すぎますよ!」

 当主様に言っても無駄な事はわかっていながらも口に出してしまった。

「ミーファは結婚して、スコッチ家の人間でもあるから、私でも多少の拒否権は行使できるかもしれないが、国王陛下の事だ。無理にでもミーファを聖女に戻そうとするだろう」

 当主様の言葉を聞いて、嫌な考えが頭に浮かんだ。

 もしかして、フランソワがいなくなったのは、この為なのかもしれない。
 でもそうなると、犯人は…。

 考えるだけでゾッとして言葉をなくしてしまう。

 まさか、フランソワを殺したりなんかはしてないわよね?
 そこまで、極悪非道ではないと信じたい。

 嫌な考えが頭の中をグルグルして、パニックになりそうだったけれど、そんな私に気が付いた当主様が優しく声を掛けてくれる。

「顔色が悪いな。嫌な話をして済まなかった。一応、伝えておいた方が良いかと思っただけだ」
「いえ、当主様、私は大丈夫です。ですから、あの、聞いていただきたいお話があるのですが…」

 心を落ち着けてから口を開くと、当主様が応接のソファーに座るように促してくれた。
 私が座るのを確認してから、当主様は向かい側に座って尋ねてくる。

「聞いてほしい話とは?」
「……フランソワの件ですが、国王陛下が関わっているという事は考えられないでしょうか?」

 私の言葉を聞いた当主様の眉間のシワが、より深くなったのがわかった。
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