元聖女になったんですから放っておいて下さいよ

風見ゆうみ

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 それからは、あっという間に話がすすめられていった。
 話し合いはリュークや私だけでなく、当主様や宰相も巻き込み、力を貸してくれそうな貴族達にも内密に連絡を入れ、多くの貴族から賛同の意を得れた時期に、国王陛下から私に対して、召致の連絡があった。

 これについては、宰相から事前に連絡をもらっていたので、特に驚きもしなかった。
 追放された身だけれど、今回に関しては王都だけでなく、入城も許可された為、魔道具を使い、私と当主様とリュークは、指定された日に王城にやって来た。

 私は会議に出席しないといけなくて、その会議に当主様も参加するからだ。

 リュークは会議の中に入れないけれど、少しでも近くにいたいからと一緒に付いてきてくれて、私もぎりぎりまでリュークと一緒にいれるのは心強かったので、とても有り難かった。

 国王陛下が私を呼び出した内容については、宰相から教えてもらっていて、やはり、私を聖女に復帰させるという話をしようと思っているらしい。

 もちろん、私はお断りする。
 そこからが、私だけでなく、他の人達にとっても正念場になる。
 私が上手く誘導していかないと、次のチャンスはいつになるかわからないし、何より、私は聖女にもどる気はない。
 あと、約一年後にはリュークと新婚生活を送るんだから!

 もちろん、結界を張ったりする活動は続けるけど。

「ミーファ?」

 久しぶりに城の敷地内に入り、会議室のある別邸に向かっていると、背後から声を掛けられた。
 振り返ると、キュララとトリスが立っていて、私と目が合うと、とても満足そうな顔をして言う。

「やっと帰ってきてくれるのね!」
「あなたがサボっていた分、私達は休ませてもらうから!」
「あなた達って本当に馬鹿なのね。どうして、こんな人達に聖女の力が宿ったのかわからない」

 二人に言い返すと、満足そうな顔から一変して怒り始める。

「失礼ね! 私達には王族になる器があるから聖女の力が宿っただけよ。あなたはせいぜい辺境伯の妻止まりで満足していればいいわ」
「ええ。次期辺境伯の妻でも十分幸せだわ。辺境伯って知ってる? 他の国ではどうかわからないけれど、少なくともこの国では、重要な役割を果たしてくれているのよ? 彼らがいなかったら、魔物や魔族が王都に押し寄せてくる可能性だってあるかもしれないんだから」

 北の辺境伯の時だって、結界が破られた後すぐに、騎士さん達が応対してくれたから、すぐに対処できた。
 だけど、その地を統括している人間がいなかったら?
 結界の穴をふさぐまでに時間がかかり、魔物や魔族は前回の時なんかに比べ物にならないほどに多く入ってくるだろうし、その分、人は亡くなり、王都への被害も出てくるだろう。

 聖女達はそれをわかっていない。
 その事がわからないから、辺境伯の事を甘くみる様な発言が出来るんだわ。

「そ、そんなの知らないわ! それに、魔族が王都に入るなんて無理よ。私が結界を張っているんだから」

 キュララが自分の胸に手を当てて続ける。

「聖女にもどってくれるのは有り難いけど、王太子殿下の妻の座は私のものよ。やっぱり王太子殿下がいいだなんて言い出して、離縁なんてしないでよね。あなたも、ちゃんとミーファを見張っていなさい!」

 キュララがリュークを指差して叫んだ。
 リュークは小さく息を吐いてから、笑顔を作って答える。

「聖女様にご心配いただかなくても、私は妻を愛していますから、離縁なんてするつもりはありません」

 妻を愛して…!! 
 
 その言葉に動揺した後、嬉しくなって思わずにやけてしまいそうになったけれど、何とかこらえて、真面目な顔でキュララとトリスに告げる。

「これだけ言っておくわ。私はあなた達の思う通りにはならない! 私の事は放っておいて!」
「何を言ってるのよ、ミーファ。あなたを聖女に戻そうとしているのは国王陛下よ? あなたに拒否権はないわ」
「そうね、そうかもしれない」

 だけど、それを何とかする為に、私はここにいる。

 それを彼女達に教えてあげる必要もないので、素直に頷いた後、待ってくれていた当主様とリューク、それから案内係のメイドに謝る。

「お待たせしました。行きましょう」

 私達がキュララ達に背を向けて歩き出すと、彼女達の笑い声が聞こえた。

「ああ、やっと休みがとれるのね! 五日に一回しか休みがないなんて辛すぎるわ」
「ちょっと止めなさいよ、ミーファに聞こえたらどうするの! あの子、半年に一日二日しか休みをとってないのよ! まあ、あの子は私達の奴隷みたいなもんだけどね」

 二人の会話が聞こえたリュークが振り返って何か言おうとするのを慌てて止める。

「いいのよ、リューク。馬鹿は相手にしないでおきましょ」
「だけど、言わせておいたままでいいのか?」
「リューク、あんな人達でも王族と同じ扱いなのよ? あなたよりも立場が上の人達なの」
「頑張ってる人間をあんな風に言うだなんて信じられない。ミーファから話を聞いてわかってたつもりだったけど、やっぱり腹が立つ」
「ありがとう、リューク」

 私の事で怒ってくれるのが嬉しくて、左隣を歩く彼の右手を握ると、優しく握り返してくれた。

 人前で手をつなぐのはちょっと恥ずかしい気もするけれど、今は、人に見られてもいいから繋ぎたい気分だった。

 これから、大勝負に挑むから、勇気を分けてほしかったのかもしれない。

 メイドは私達を別邸の前まで案内すると、そこからは、別邸から出てきた違うメイドに交代した。
 エントランスホールで私達とリュークは別れ、リュークは談話室に案内される事になった。

「無理はするなよ」
「大丈夫。頑張ってくるわ」

 握っていた手をはなすと、リュークが私の頬に手を当てて、親指で優しく撫でてくれた。

「父上、よろしくお願いします」
「大丈夫だ。今回は味方も多いしな」

 当主様はリュークに頷いた後、私を促し、案内するために待ってくれていたメイドの方に顔を向けた。

 名残惜しいけれど、会議が終わればすぐに会えるのだからと自分にいいきかせて、リュークと別れて、当主様と一緒に決戦の地へと向かった。

 部屋に入ると、開始時間よりもだいぶ早い時間なのに、多くの人が席に着いていた。
 知り合いの貴族の姿もパラパラと見えて、ギークス公爵は目が合うと手を振ってくれたので、笑顔で会釈を返した。

 爵位が上である人から順番に座っている様で、当主様が扉側に近い椅子に座ったので、私もその隣の椅子を引いて座った。
 しばらくして、国王陛下が側近や宰相達と一緒に入ってくると、開け放たれていた扉が閉められ、部屋の中は沈黙に包まれた。

「今日の議題については、皆、聞いておるな?」
 
 貴族全員と私が立ち上がって国王陛下に挨拶した後、早速、国王陛下は口を開いた。

 一番奥の椅子に腰掛けた国王陛下は、貴族達を満足げな顔で見つめてから続ける。

「今日は、そこにいる元聖女を聖女に復帰させるかどうかの議論をしたい」

 国王陛下はなぜか機嫌良さげに、私の方を見て言う。

「ミーファと言ったな? 聖女に戻りたいと聞いたが?」
「……」

 発言の許可を得ていないので黙っていると、それに気が付いた陛下が言う。

「ミーファも含め、ここにいる全ての者に発言を許す」
「ありがとうございます」

 立ち上がり陛下に頭を下げてから、笑顔で続ける。

「先程のご質問に対してですが、恐れながら陛下、私はそんな事は一言も申し上げておりません」

 陛下からの手紙には自分に恥をかかせぬ様に、私自らが聖女への復帰を望んだと発言する様にと書かれていたけれど、そんな事はおかまいなしに正直な気持ちを答えた。
 この答えをする事については、協力者全員が知っている。

 協力者ではない貴族達は、私の方を見て、なんと無礼なと言わんばかりの顔をしている。
 だけど、そんな事は気にしない。

 国王陛下も呆気にとられた顔をしていたけれど、すぐに苦虫を噛み潰したような顔になって、再度、問いかけてくる。

「聖女に戻りたいとお前が言っているという話を聞いて、わざわざ、この場を開いたんだぞ? それを違うと言うのか?」
「失礼ですが、どなたから私が聖女に戻りたいとお聞きになったんでしょうか」
「わ、わからん、そんな事。覚えておらん」

 陛下は焦った様に答えたあと、宰相の方を見て言う。

「おい、お前じゃなかったか?」
「いいえ。私は逆にミーファ様は聖女に戻りたくないのだと思っておりました」
「おい!!」

 国王陛下が慌てた顔で、大きな声を出した。

 たぶん、宰相にも私と同じ様に口裏を合わせるように頼んでいたんだと思われる。
 きっと、私と同じ様に彼も言われただけで、返事はしていなかったはずなので、裏切った訳ではない。

「お前達が忘れてしまったというのなら、しょうがない。ただ、聖女が一人、失踪したという噂は皆も知っておるだろう!?」

 陛下の言葉に、貴族たちが静かに首を縦に振る。
 それを確認した後、陛下は続ける。

「五人いた聖女が現在は三人になってしまった。こうなると、元聖女だったミーファを復帰させざるを得ないと思うのだが、皆はどう思う?」
「私はその意見に賛成です」

 手を挙げたのは北の辺境伯だった。

 けれど、彼の意見に賛成する人は他にはおらず、協力者以外の人達も、どうすれば良いか悩んでいるといった感じだった。
 そこへ、ギークス公爵が声を上げてくれる。

「私はミーファ嬢の考えに従いたいと思います」
「私もギークス公爵と同意見です。ミーファは私にとっては娘です。ギークス公爵と同じく、私もミーファが復帰したいというなら賛成致しますが、復帰したくないというのであれば、こんな状況ではございますが、陛下のご意向には沿えないかと思われます」
「私も同じ意見です」

 当主様の言葉に他の一人が同意すると、協力者の人達も、同じく同意だと手を挙げてくれた。
 そして、協力者以外のどちらにつくか迷っていた人達も、当主様の意見に同意すると言ってくれた。

 その答えを聞いた国王陛下の表情が歪み、陛下は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「国の一大事なんだぞ! 大人しく命令を聞いて、聖女として働けばいいんだ! 聖女なんて、それ以外に何の役にも立たんだろうが!」

 しん、と室内が静まり返り、国王陛下も暴言を吐いてしまったという事に気が付いたのか、私に向かって、声のトーンを下げて言う。

「ミーファ、声を荒らげて悪かったな。どうすれば、聖女に戻る気になるんだ?」

 待っていた言葉が飛び出し、頬が緩みそうになるのを必死に堪え、厳しい表情で国王陛下に告げた。

「お願いをきいていただけるのなら、聖女に復帰する事を考えようと思います」

 さあ、ここからが正念場よ。
 
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