あなた方には後悔してもらいます!

風見ゆうみ

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3    国花

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「リサ様、どうされたのですか?」

 泣くのをこらえていたせいか、いつも以上に不細工な顔になっていた様で、部屋の前で待ってくれていたメイド達に心配されましたが、無事に涙を流さずに、部屋の中に入る事ができました。

 人前で泣くのは好きではありません。
 もちろん、嬉し涙は別です。
 あと、嫌な思いをさせられたら、その相手の前でなんか、絶対に泣きたくなんかありません。
 今、メイド達の前で泣いたら、心配をかけてしまいますし、それも出来ません。
 弱音を吐けると言ったら、お父様にだけです。
 お姉様のせいで、私にはお友達もいませんから。

 だって、お姉様と友人になってしまえば、私と友達になる必要なんてないと言われ続けてきましたので、自分からお友達を作ろうとも思いませんでした。
 今、思うと、やはりお友達は必要でした。
 でも、もし、誰かが私のお友達になってくれたとしても、お母様やお姉様から圧力がかかって、連絡がこなくなっていたかもしれませんね…。

 部屋の中に一緒に入ってこようとするメイド達に、一人にしてほしいとお願いしてから、部屋の灯りをつけて、化粧台の前に立ち、鏡に映る自分を見たら、涙があふれてきました。

 私はどうすれば良かったんでしょうか。
 お母様やお姉様に、幼い頃の内に我慢などせずに、もっと私にかまってくれと叫べばよかったんでしょうか。
 オッサムにだってそうです。
 何を言えば良かったのでしょうか。
 ひどい。
 私を捨てないでだとか、そういう事を言うのが女性としての姿なのでしょうか…。

 何にしてもオッサムの目的は王配になる事。
 お姉様の婚約者のアール様もオッサムも公爵令息で、しかも兄弟です。
 アール様は公爵家の次男で、オッサムは三男なので、順番的にアール様がお姉様の婚約者におさまったわけですが、あの感じだとどうなるかわかりません。
 お姉様が決めるまで、二人が婚約者争いを続ける可能性があります。
 オッサム達と、これからも顔を合わせないといけないと思うと嫌になりますが、でも、しょうがありません。

「はあ…。最悪の誕生日です…」

 涙をぬぐってから、ため息を吐いてから呟きます。
 すると、ティーテーブルの上に何か置かれているのに気が付き、近寄って見てみると、赤いリボンのかけられた手のひらサイズの小さな箱の上に、メッセージカードが付いていたので手にとってみると、お父様からのメッセージでした。

 誕生日を祝う言葉と、私の事を愛してくれているという事が書かれてありました。

 涙がまた何粒かこぼれ落ちて、頬や顎を伝い、胸元に落ちました。
 じわりと生温かい感覚が肌に染みていきます。

 そういえば、今日はバタバタしていて、お父様に会いに行けていませんでした。

 お礼を伝えるためにも会いに行きましょう。
 婚約破棄についても、お話しないと。
 そう思い、ハンカチを取り出し、目元の涙を拭い、同じ様に胸元に流れ落ちた涙を拭こうとした時でした。

 何か違和感を感じました。
 今までなかったものがあるような?

 視線をもう一度、胸元に落とすと、なんと、私の身体に黒い線で描かれた、国花の模様が浮き出てしまっているじゃないですか!

「う、嘘ですよね?」

 鏡に近寄り、胸元を近付けて確認します。
 全体的に10cm程度の大きさで、ピンク色の8枚の花弁の可愛らしい花が浮き出ていて、まるでタトゥーの様です。
 お父様の胸元にあるものと大きさは違えど、見た目は一緒です。

 これは大変な事になりました!
 こんな事をお母様に知られたらどうなるかわかりません!
 お母様はお姉様至上主義です。
 私に後継者の証が浮かび上がったなんて事を知ったら、私に優しくなるどころか、私に危害を加えようとするに違いありません!

 これはお父様に相談しにいきましょう。

 泣いている場合ではなくなり、私はショールで胸元を隠し、部屋を飛び出しました。
 そんな私をメイド達が心配そうに気遣ってくれましたが、今は話をしている余裕がありません。

 お父様の部屋は私の部屋から、そう遠くはなく、すぐにたどり着きました。
 少し遅い時間ではありますが、部屋の中から明かりが漏れているので起きている事がわかり、扉をノックしました。

「誰だ?」
「私です、お父様。リサです」
「ああ、リサか、今は来客中なんだ。後でもいいかな?」
「それは失礼いたしました。出直します」

 そう言って、踵を返そうとした時でした。
 扉が開き、綺麗な顔立ちの男性が顔を出されました。
 そして、それが誰だかすぐにわかり、私は頭を下げます。

「お目にかかれて光栄でございます。ロンバルディー国王陛下」
「久しぶりだな、リサ。大きくなったな」

 部屋から顔を出されたのは、隣国の国王であり、お父様の古くからの友人である、ロンバルディー国王陛下でした。
 年齢は40歳を過ぎたはずですが、まだとても若々しい見た目で、身長は高く美丈夫である陛下は、人懐っこい笑みを浮かべて、私を部屋の中へ招き入れて下さいました。

「陛下はお若いまま、おかわりないですわね」

 ロンバルディー国王陛下には、お父様がまだ病にふせっておられない時に、何度も遊んでもらった経験があります。
 王妃様も女のお子様がいらっしゃらないので、私の事をとても可愛がって下さっていたのを覚えています。

「ありがとう。ああ、大事な事を忘れていた。リサ、誕生日おめでとう。プレゼントは侍女に渡しておいたよ」
「ありがとうございます、陛下に祝っていただけるなんて光栄ですわ」

 婚約者にフラれるという最悪な日でしたが、良い事もあって良かったです。

「で、どうかしたのか?」

 大きなベッドに横たわったお父様は、相変わらず顔色が悪く、少し辛そうな表情をしておられましたが、私の方を見て優しい笑みを浮かべて下さいました。

「実は…」

 国花が浮き出る件については、隣国でも有名な話ではありますが、国に関わる問題のため、陛下の前でするのもどうかと思い躊躇っていると、お父様が促して下さいます。

「他言無用という事だな? ロンバルディー、頼むよ」
「もちろんだ」

 陛下が頷いて下さったのを確認してから、私は国花が胸元に現れた事を、お二人に話をしたのでした。
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