あなた方には後悔してもらいます!

風見ゆうみ

文字の大きさ
3 / 45

2   誕生日プレゼント

しおりを挟む
 誕生日の朝は、特にいつもと変わりはありませんでした。
 私は一年に2ヶ月しかない、寒い時期の生まれで、この時期は外に雪が積もっているのが当たり前の国で暮らしています。
 そんな時期でも、私の誕生日パーティーは、毎年開かれはするのですが、主役はなぜかお姉様です。
 もちろん、そんな事になったのは、お父様が寝たきりになってしまわれてからですけれども。
 それまでは、私も盛大に祝っていただいておりました。

「リサ様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう!」

 私に付いてくれている侍女やメイド達、お母様とお姉様に密かに不満を持っていたり、二人と関わりのない使用人達は、差別を受けている私を不憫に思ってくれていて、その分とても優しいんです。
 なんと、使用人一同からといって、私が欲しかった、市政で人気の恋愛小説をたくさんプレゼントしてくれました。
 今日は花瓶に活けられている花も、いつもよりゴージャスな感じがします。
 彼女達の存在があるから、お母様やお姉様に無視され続けていても何とか、心が折れずにやってこれました。

 考えてみたら、無視だなんて子供みたいですね。
 しかも、もう10年も続いているんですから、逆に話しかけられでもしたら怖くなってきます。

「誕生日パーティーが終わりましたら、ケーキを用意しておりますので、お部屋にお持ちしますね」
「いつもありがとう。料理長達にもお礼を言わないといけませんね」

 お姉様には侍女が五人、メイドは十数人いるのですが、私には侍女が一人、メイドが五人しかいません。
 少ない中で交代で休みをとって働いてくれています。
 もっと休みが欲しいはずなのに、文句を言わずに頑張ってくれる彼女達に感謝です。

「いつも通り、すぐ帰ってくる事になると思うから、よろしくね」

 そう。
 この時はそう思っていました。
 いつもなら、来てくださった方々に挨拶を終えたら、すぐに引っ込む様に、お母様の侍女を介して言われていましたので、今回もそうなるはずだったのです。
 
 なのに…。

 パーティーが始まり、挨拶という任務を終えた私は、さっさと自分の部屋に戻ろうとしていました。
 ですが、お姉様の侍女に呼び止められ、付いてくる様に促されたので、嫌々ながらも付いていくと、人が争っている声が聞こえてきました。

 そして、その中にはお姉様の声もありました。

 こんな事を言ってはなんですが、お姉様の地声はとても低いのです。
 ですが、男性を前にすると、恐ろしく甲高い声になります。
 まさしく、聞こえてきたのは、その声でした。

「やめて! 喧嘩なんてしないで! あなたはリサの婚約者じゃないの!」
「俺はリサよりもブランカが好きなんだ! ブランカ、俺と結婚してくれ!」
「駄目よ、オッサム! 私にはアールがいるのよ!」
「そうだぞ! ブランカは僕の婚約者だ!」

 ブランカは姉の名前。
 オッサムは私の婚約者の名前。
 アールはお姉様の婚約者の名前です。

 この寒い中にわざわざ外に出て、パーティー会場の建物の裏側にある外灯の下で、私の婚約者とお姉様の婚約者がつかみいの喧嘩をしていました。

 ああ。
 嫌になります。
 今日は私の誕生日なんですよ?
 なんでこんな場面を見ないといけないんです?
 しかも、この寒い中に!
 喧嘩するなら、せめて中でやって下さいよ!

「リサ! あなたは来ちゃ駄目よ!」

 お姉様は主役の私よりも派手なドレスに身を包んでいて、鳶色の長い縦ロールの髪を揺らしながら私に近付いてきたかと思うと、耳元で囁きます。

「オッサムの気持ちを知れて良かったでしょう? これがわたしからの誕生日プレゼントよ!」

 悪趣味すぎます。
 お父様はあんなに優しい方なのに、お姉様は本当にお父様の血が流れているんでしょうか?
 それとも、お母様の性格が悪すぎるのですか?
 だから、お姉様の性格も最悪なんですか?

 今までは誕生日プレゼントはおろか、話しかけてくる事もなかったのに、久しぶりに妹に話しかけてきた言葉がそれですか!
 しかも、こんな所にまで呼び出して、何を考えてるんでしょう。

「リサ…。すまない。君の事も可愛いと思っているし、可哀想だとも思っている。だけど、僕は王配になりたいんだ!」

 オッサムは私の前にやって来て、整った顔を歪めてから、深々と頭を下げた。
 彼の茶色の肩まであるストレートの髪が大きく揺れる。

 ああ。
 もう、どうでもいいです。
 好きなようにすればいいんですよ。
 私だって、別にあなたを好きだったわけではないですから。

「私の事は気にしないで下さい」
「君の誕生日だっていうのに、こんな事になって、本当に申し訳ない」
「良いんです。婚約破棄が誕生日プレゼントですか? たとえそうだとしても、慰謝料はいただきたいです」
「もちろんだ」
「では、明日にでも連絡を入れさせていただきますね」

 カーテシーをしてから、私はくるりと踵を返した。

 本当に惨めです。
 私はなんのために生まれてきたんでしょう?
 お母様やお姉様のストレス発散の道具なのでしょうか?
 
 去り際、お姉様がにやりと笑ったのを見て、こんな人間が私の家族なのかと泣き出したくなりました。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

【完結】優雅に踊ってくださいまし

きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。 この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。 完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。 が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。 -ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。 #よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。 #鬱展開が無いため、過激さはありません。 #ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

カナリア姫の婚約破棄

里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」 登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。 レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。 どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。 この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。 ※他サイトでも投稿しています。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

私を愛すると言った婚約者は、私の全てを奪えると思い込んでいる

迷い人
恋愛
 お爺様は何時も私に言っていた。 「女侯爵としての人生は大変なものだ。 だから愛する人と人生を共にしなさい」  そう語っていた祖父が亡くなって半年が経過した頃……。  祖父が定めた婚約者だと言う男がやってきた。  シラキス公爵家の三男カール。  外交官としての実績も積み、背も高く、細身の男性。  シラキス公爵家を守護する神により、社交性の加護を与えられている。  そんなカールとの婚約は、渡りに船……と言う者は多いだろう。  でも、私に愛を語る彼は私を知らない。  でも、彼を拒絶する私は彼を知っている。  だからその婚約を受け入れるつもりはなかった。  なのに気が付けば、婚約を??  婚約者なのだからと屋敷に入り込み。  婚約者なのだからと、恩人(隣国の姫)を連れ込む。  そして……私を脅した。  私の全てを奪えると思い込んでいるなんて甘いのよ!!

謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...