価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

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1  家族と初恋の思い出

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 私、ルリ・トニアがセイン様と出会ったのは、10歳の頃だった。

 2つ年上のセイン様は、その当時は優しくて王太子である気品があり、本当の王子様に出会えたと驚いたものだった。

 婚約が決まった当時、私には仲の良い友人がいた。

 アズという名の男の子で、学園に入学した時からの付き合いだった。
 その子の事を密かに好きだったのだけれど、政略結婚は私の気持ちなどおかまいなしなので、私は家の為にアズを忘れる事に決めた。
 セイン殿下は見た目も素敵だったし、何より、優しかった。
 だから、この人となら幸せになれるのだとその時は思っていた。


 私が11歳の時、事故でお母様が亡くなった。
 そして、お母様が亡くなった1年後に現在の母親であるソート元侯爵夫人のノーラル様がルピノを連れて我が家にやってきた。

 お母様を忘れられなかったお父様は、再婚を拒んでいたけれど、兄や私に母が必要だという周りの声と、ノーラル様が私や兄の母になりたい、父の愛は求めないという条件を自ら提示した為に、それが受け入れられての再婚となった。

 ノーラル様がなぜ、ソート侯爵と離婚をしたのかは未だに知らない。
 その時の私もそうだったけれど、離婚理由を知っても、どうしようもないので、ノーラル様の口から言われない限り、聞かない事にしたのだった。

 お父様はノーラル様に対して恋愛感情を持たないかわりに、その分、とても大事に扱った。
 ルピノの事も本当の娘の様に可愛がり、私やお兄様と差別する事はなかった。

 そんなお父様にノーラル様は恋をした。

 ノーラル様から気持ちを伝えられた、お父様は、自分からの愛は求めないという事が条件であったという事を再度伝えられ、ノーラル様の事を大事にしていたのは、それが人として当たり前の行為だからだと伝えた。

 けれど、ノーラル様は諦めなかった。
 お父様の寝室に勝手に入り込んで、しつこく関係を迫ったりする様になった為、困り果てたお父様はノーラル様と距離を置く様になった。

 すると、ノーラル様は私に冷たい態度を取る様になった。

 なぜなら、私には亡きお母様を思い出させる特徴が多くあった。
 だから、ノーラル様は、私を見る事により、お父様はお母様を思い出すから余計に忘れられないのだと思い込んだ。

 軽くウェーブのかかったダークブラウンの長い髪に、紺色の瞳はお母様譲りのものだったし、二重のぱっちりした目など、顔立ちも成長するにつれ、お母様によく似ていると言われる様になったから、余計にそう思ったのかもしれない。

 けれどお父様に言わせてみれば、私はお母様に似ていると言われれば似ているけれど、それは容姿だけで、性格は全然違うし、ふと思い出す事はあっても、そのせいでお母様が忘れられないわけではないと話してくれた。
 
 そして、その事をノーラル様に話をしてくれたみたいだけれど駄目だった。

 昔は優しくしてくれていたノーラル様は、私を陰でいじめるようになった。

 それを私がお父様に伝えるから、余計に仲は険悪になっていった。

 その事もあり、15歳になる頃から、私は敷地内にある別邸に住む事にした。
 お父様は本邸で暮らしてはいたけれど、屋敷にいる時は必ず、私に一日に一度は会いに来てくれたから、特に寂しくもなく、これで、ノーラル様にいじめられずに、日々を過ごしていける様になった。

 けれど、ある事がきっかけにより、いじめが再開するようになる。

 それは私が15歳になったある日の昼休みの事、食堂でアズを含む友人達と話をしている時だった。

「お姉様! その人は誰!?」

 いきなり、私達のいるテーブルにルピノがやって来たかと思うと、アズを指さして叫んだ。

 アズは金色のストレートの髪に赤色の瞳を持つ、目鼻立ちの整った少年で、他の学年の女性にも人気があったのだけれど、ルピノがアズを知ったのは、その時が初めてだったらしい。

 ルピノはその時に、アズに一目惚れをして、猛アタックを開始した。
 ルピノは顔も可愛くて男性に人気があったから、すぐにアズは自分の事を好きになると思ったようだったけれど、アズは彼女に見向きもしなかった。

 そういうところが余計にルピノの心を刺激した。

「お姉様、アズは婚約者がいないのよね? 私の婚約者になってもらえないかしら?」

 ルピノはわざわざ別邸にやって来て、アズの話を聞きたがった。
 アズについて話す事はないと断ったけれど、ルピノは諦めなかった。

 誰かから、私とアズが昔からの付き合いである事を聞いたみたいだった。

 ルピノが別邸に通うようになった事で、ノーラル様からまた疎ましく思われるようになった。 

 なぜなら、ルピノはアズの事に夢中で、アズの事を知る為に、ノーラル様と過ごしていた時間を私との時間に費やすようになってしまったからだ。

 ノーラル様はお父様だけでなく、ルピノまで私が奪ったと思われたのだと思う。

 ルピノがやって来る事は、私としてはいい迷惑だったのに、ノーラル様はそんな事を考える様な人ではなかった。

 ノーラル様はルピノと一緒に別邸にやって来ては、私を罵って帰る様になり、いつしか、それが日課になっていた。

 私が17歳になった時、アズが突然、学園を辞める事になった。

 アズは学園の最終日の放課後、二人きりになった教室で私に言った。

「俺は君の事が好きだった」
「……ありがとう」

 この時、アズは思いを過去形にしてくれていたから、私も困らずに済んで、素直にお礼を言えた。

「ルリ」
「……何?」
「もし、君に婚約者がいなかったら、僕と一緒に来てくれてたか?」
「………」

 何と答えたら良いのかわからなかった。

 この頃の私は、セイン様と共に生きていくのだと思っていたから。

「変な質問してごめん。幸せになってくれ」
「あなたもね…」

 私達は、この時から会っていない。

 ルピノはアズがどこに行くのか必死に調べたけれど、アズは行先を教えなかったし、お父様の力をもってしてもつかむ事は出来なかった。

 もしくは、知っていたとしても、伝えられない事情があったのかもしれない。

 ルピノは、アズの事を忘れられず、婚約者を作る事はなかった。
 それなのに、私からセイン殿下を奪って、自分の婚約者にしようとしている。

 少し前から、ルピノとセイン様の距離が近付いた事には気付いていた。
 かといって、談笑するくらいだけだったから、まさか、こんな事になるとは思わなかった。

 先程の中庭での出来事を思い出して、私は大きなため息を吐いた。

 3日後には、セイン様のところに行き、いつもの様に彼が溜めている仕事を、私が代わりにするつもりだった。

 だけど、もうやめる事にした。

 あんな事を言われて、彼の仕事をする気にもならなかった。

 ルピノがやればいいのよ。

 悔しくて涙が出そうになるのをなんとかこらえて、他の事を考える事に決めた。

 隣国の王太子殿下に嫁げと言われていたけれど、隣国は4カ国ある。

 その中で、婚約者がいないのは、1カ国だけ。

 ソラウ国の王太子殿下の名前は、アズアルド・フィノン様。

 ルピノの事をご所望だと思うけど、私で許してくださるかしら…?
 
 アズアルドという名前でアズの事を思い出して、なぜだか胸が痛くなった。
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