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2 職場での婚約破棄宣言
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次の日、寝不足ではあったけれど、昨日の事を報告する為に、少しだけ早起きして、お父様に手紙を書こうとしていると、逆にお父様の方から手紙が届き、あと15日程で家に帰ってくるとの事が書かれていた。
思ったよりも日にちがかかる様な気がしたけれど、仕事がお忙しいのだろうと考えた。
だから、私からは手紙を書くのをやめて、少し早い時間だけれど、身支度と食事を済ませてから仕事に出かける事にした。
職場は王城の敷地内にあり、城のすぐ横にある大きな屋敷の中にある。
小さなダンスホールくらいの部屋に、たくさんの机が並べられていて、チームごとにパーテーションによって仕切られている。
私の仕事は政務官見習いで、圧倒的に女性が少ない職場だ。
というより、政務官自体が少ないので、職場内での女性は私と年配の女性1人しかいない。
貴族社会は未だに女性の社会進出を嫌っているから、肩身が狭いかと思っていたけれど、事務作業に関しては女性が比較的向いている人が多く、私の職場では重宝されている。
というよりかは事務官になってしまっているといった方がしっくりくるのかもしれない。
こんな事を言うのはなんだけれど、この国の貴族の男性は書類仕事が苦手な人が多いのだ。
書類仕事をしながら、色んな凡例を覚えて知識にしていくのが、見習いの役目でもあるのだけれど、手続きには書類仕事は必要なので、この国の政務官になるには必要な仕事でもあるから、雑用と他の部署の人から揶揄される事があっても苦にはならない。
そして、私の頑張りをチームの人達は理解してくれているから、私に対して偉そうにする訳でもなく、処理し終えると、とても有難がってもらえるので、私にしてみれば良い職場である。
もちろん、私が公爵令嬢でセイン様の婚約者だから優しいというのもあるのかもしれないけれど…。
婚約破棄されたりしたら、皆、私に冷たくなってしまうのかしら…。
それは、ちょっと悲しい…。
そう思って、昼休みにまずは職場で唯一の同性であるニコさんに、昨日の話をしてみると、私のお祖母様の年齢に近い年の見た目は気の強そうなニコさんは、丸メガネを手で押し上げて、それはもうセイン殿下の悪口を名前は出さずに言い始めた。
「ちょっと可愛い子に誘惑されてコロリと落ちる様な婚約者なんていらないでしょ。前々から常識が欠けてそうだと思っていたけれど、やっぱりだったわね!」
「……そんな事を思われてたんですか?」
「ええ、そうよ。その事については良識のある人間は口に出さないだけで思っていたわよ。だけど、あなたに気を遣って言わなかっただけ。実際、国王陛下も見限ってらっしゃらるという噂があるわ。だけど、仕事はしっかり出来ているから、様子を見ていらっしゃるのよ」
「その仕事、私がやってるんですが…」
「はあ?」
聞き返してきたニコさんに事情を説明すると、彼女は、飲んでいたコップをテーブルに叩きつけるようにして置いてから言う。
「もう殿下の仕事はしなくても良いと思うわ! それで、国王陛下だって気付かれるはずよ!」
「……ですよね! まだ、婚約破棄したり、されたりしていませんが、元々は殿下の仕事なんですから、私がやる必要はありませんよね!」
「そうよ。殿下のやる仕事なんて、機密の高いものでしょう? それを婚約者だからって、国王陛下の許可もなく仕事をさせるなんて…。それにしても、本当にあなたは仕事が好きなのね。普通は休みの日まで仕事をしようとは思わないわよ」
ニコさんに呆れ顔で言われてしまった。
仕事は嫌いじゃない。
セイン様の仕事も誰かの役に立つのだと思うと頑張れた。
セイン様にも喜んでもらえると思っていたし…。
でも、私に対してあんな事を言ったんだもの。
私に仕事をやらせようだなんて、さすがに思っていないわよね?
今までは婚約者だから、国王陛下も知っておられるからと思っていたのだけれど、国王陛下は知らないみたいだし、余計に仕事を手伝う事は出来ない。
だから、いつもならセイン様の所に行って仕事をする予定だった日は、ゆっくりと自室で過ごした。
それから2日後の事だった。
仕事をしていると、セイン様が私の席までやって来て、いきなり、私の頭に書類をぶちまけてきた。
唖然としてセイン様を見上げると、彼は目を細めて叫ぶ。
「どうしてやってくれてないんだよ!?」
「……どういう事でしょうか?」
「仕事だよ! いつもなら何も言わずにやってくれていただろ!」
「それは昔の事です。現在のセイン様の婚約者は誰なのでしょうか…?」
散らばった書類が私のものと混ざらない様に確認して拾いながら尋ねた。
すると、セイン様は静かになった室内に響き渡る様な大きな声で叫ぶ。
「俺の婚約者はルピノだ!」
「……そうだと仰っておられましたわね…。でしたら、仕事はルピノに頼まれてはいかがでしょうか?」
「どうしてルピノに頼まないといけないんだ!? 彼女は学生だぞ!?」
「私は学生の時から、あなたのお仕事のお手伝いしておりましたが?」
「う、うるさいな! そんな大きな声で言うな! 皆が見ているだろう!」
自分の方が大きな声を出しているのにも関わらず、セイン様はそんな事を言ってきたので呆れてしまう。
周りを見ると、職場の人達が驚いた表情で私達を見ていた。
ここで騒ぐのは良くないと思い、場所を変えようと進言しようとした時だった。
「もういい!」
セイン様は叫ぶと、私が拾い集めていた書類を奪い取ったかと思うと、その紙の束で私の頬を叩いた。
枚数があった為、痛みを感じて頬をおさえると、セイン様は私を睨む。
「仕事をしない君なんて、なんの価値もない。いや、生きている価値さえもない! 存在だけで迷惑だ!」
「生きている価値さえもない…?」
あまりの言われように思わず聞き返すと、セイン様は私の机を蹴った。
激しく机が揺れて、机の上に積まれていた書類が崩れ落ちた。
「殿下!」
私の直属の上司が慌ててやって来て、間に入ってくれる。
「いくら殿下でもやり過ぎだと思われます。周りをご覧ください」
言われて、セイン様は周りを見回す。
非難の目が自分に集まっていることに気が付いたセイン様は八つ当たりの様に私を睨んでから言う。
「恥をかかせるなんて酷いじゃないか! こんな女性と結婚しようとしていただなんて…! 婚約破棄を君からしてもらおうと思ったが止めだ! 今、ここで俺は君との婚約の破棄を宣言する! 仕事はルピノにやってもらう! 君なんて必要ない!」
セイン様はつばを撒き散らしながら私を指差して叫んだ後、当たり散らす様に私の頭を持っていた書類で何度か叩いてから部屋を出ていった。
「大丈夫か?」
セイン様が去っていった後、他の部署の人までもが心配して声を掛けてくれた。
「あの方が王太子殿下だなんて、この国、このままだと終わるわね…」
私の背中をさすりながら、ニコさんが私の耳元で呟いた。
思ったよりも日にちがかかる様な気がしたけれど、仕事がお忙しいのだろうと考えた。
だから、私からは手紙を書くのをやめて、少し早い時間だけれど、身支度と食事を済ませてから仕事に出かける事にした。
職場は王城の敷地内にあり、城のすぐ横にある大きな屋敷の中にある。
小さなダンスホールくらいの部屋に、たくさんの机が並べられていて、チームごとにパーテーションによって仕切られている。
私の仕事は政務官見習いで、圧倒的に女性が少ない職場だ。
というより、政務官自体が少ないので、職場内での女性は私と年配の女性1人しかいない。
貴族社会は未だに女性の社会進出を嫌っているから、肩身が狭いかと思っていたけれど、事務作業に関しては女性が比較的向いている人が多く、私の職場では重宝されている。
というよりかは事務官になってしまっているといった方がしっくりくるのかもしれない。
こんな事を言うのはなんだけれど、この国の貴族の男性は書類仕事が苦手な人が多いのだ。
書類仕事をしながら、色んな凡例を覚えて知識にしていくのが、見習いの役目でもあるのだけれど、手続きには書類仕事は必要なので、この国の政務官になるには必要な仕事でもあるから、雑用と他の部署の人から揶揄される事があっても苦にはならない。
そして、私の頑張りをチームの人達は理解してくれているから、私に対して偉そうにする訳でもなく、処理し終えると、とても有難がってもらえるので、私にしてみれば良い職場である。
もちろん、私が公爵令嬢でセイン様の婚約者だから優しいというのもあるのかもしれないけれど…。
婚約破棄されたりしたら、皆、私に冷たくなってしまうのかしら…。
それは、ちょっと悲しい…。
そう思って、昼休みにまずは職場で唯一の同性であるニコさんに、昨日の話をしてみると、私のお祖母様の年齢に近い年の見た目は気の強そうなニコさんは、丸メガネを手で押し上げて、それはもうセイン殿下の悪口を名前は出さずに言い始めた。
「ちょっと可愛い子に誘惑されてコロリと落ちる様な婚約者なんていらないでしょ。前々から常識が欠けてそうだと思っていたけれど、やっぱりだったわね!」
「……そんな事を思われてたんですか?」
「ええ、そうよ。その事については良識のある人間は口に出さないだけで思っていたわよ。だけど、あなたに気を遣って言わなかっただけ。実際、国王陛下も見限ってらっしゃらるという噂があるわ。だけど、仕事はしっかり出来ているから、様子を見ていらっしゃるのよ」
「その仕事、私がやってるんですが…」
「はあ?」
聞き返してきたニコさんに事情を説明すると、彼女は、飲んでいたコップをテーブルに叩きつけるようにして置いてから言う。
「もう殿下の仕事はしなくても良いと思うわ! それで、国王陛下だって気付かれるはずよ!」
「……ですよね! まだ、婚約破棄したり、されたりしていませんが、元々は殿下の仕事なんですから、私がやる必要はありませんよね!」
「そうよ。殿下のやる仕事なんて、機密の高いものでしょう? それを婚約者だからって、国王陛下の許可もなく仕事をさせるなんて…。それにしても、本当にあなたは仕事が好きなのね。普通は休みの日まで仕事をしようとは思わないわよ」
ニコさんに呆れ顔で言われてしまった。
仕事は嫌いじゃない。
セイン様の仕事も誰かの役に立つのだと思うと頑張れた。
セイン様にも喜んでもらえると思っていたし…。
でも、私に対してあんな事を言ったんだもの。
私に仕事をやらせようだなんて、さすがに思っていないわよね?
今までは婚約者だから、国王陛下も知っておられるからと思っていたのだけれど、国王陛下は知らないみたいだし、余計に仕事を手伝う事は出来ない。
だから、いつもならセイン様の所に行って仕事をする予定だった日は、ゆっくりと自室で過ごした。
それから2日後の事だった。
仕事をしていると、セイン様が私の席までやって来て、いきなり、私の頭に書類をぶちまけてきた。
唖然としてセイン様を見上げると、彼は目を細めて叫ぶ。
「どうしてやってくれてないんだよ!?」
「……どういう事でしょうか?」
「仕事だよ! いつもなら何も言わずにやってくれていただろ!」
「それは昔の事です。現在のセイン様の婚約者は誰なのでしょうか…?」
散らばった書類が私のものと混ざらない様に確認して拾いながら尋ねた。
すると、セイン様は静かになった室内に響き渡る様な大きな声で叫ぶ。
「俺の婚約者はルピノだ!」
「……そうだと仰っておられましたわね…。でしたら、仕事はルピノに頼まれてはいかがでしょうか?」
「どうしてルピノに頼まないといけないんだ!? 彼女は学生だぞ!?」
「私は学生の時から、あなたのお仕事のお手伝いしておりましたが?」
「う、うるさいな! そんな大きな声で言うな! 皆が見ているだろう!」
自分の方が大きな声を出しているのにも関わらず、セイン様はそんな事を言ってきたので呆れてしまう。
周りを見ると、職場の人達が驚いた表情で私達を見ていた。
ここで騒ぐのは良くないと思い、場所を変えようと進言しようとした時だった。
「もういい!」
セイン様は叫ぶと、私が拾い集めていた書類を奪い取ったかと思うと、その紙の束で私の頬を叩いた。
枚数があった為、痛みを感じて頬をおさえると、セイン様は私を睨む。
「仕事をしない君なんて、なんの価値もない。いや、生きている価値さえもない! 存在だけで迷惑だ!」
「生きている価値さえもない…?」
あまりの言われように思わず聞き返すと、セイン様は私の机を蹴った。
激しく机が揺れて、机の上に積まれていた書類が崩れ落ちた。
「殿下!」
私の直属の上司が慌ててやって来て、間に入ってくれる。
「いくら殿下でもやり過ぎだと思われます。周りをご覧ください」
言われて、セイン様は周りを見回す。
非難の目が自分に集まっていることに気が付いたセイン様は八つ当たりの様に私を睨んでから言う。
「恥をかかせるなんて酷いじゃないか! こんな女性と結婚しようとしていただなんて…! 婚約破棄を君からしてもらおうと思ったが止めだ! 今、ここで俺は君との婚約の破棄を宣言する! 仕事はルピノにやってもらう! 君なんて必要ない!」
セイン様はつばを撒き散らしながら私を指差して叫んだ後、当たり散らす様に私の頭を持っていた書類で何度か叩いてから部屋を出ていった。
「大丈夫か?」
セイン様が去っていった後、他の部署の人までもが心配して声を掛けてくれた。
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