価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

文字の大きさ
9 / 50

8  父の考えと妹の誤算

しおりを挟む
「ど、どうしてアズがここにいるの…?」

 ルピノは驚愕の表情で、挨拶をすると言っていた事も忘れて、アズアルド殿下に向かって尋ねた。

「やあ、ルピノ嬢、久しぶりだね」

 アズアルド殿下はトーリ様とソファーに並んで座っていて、特にルピノが現れて驚いた様子もなく、笑顔で彼女に向かって言った。

「本当に久しぶりだわ…。ああ、アズ! 私、ずっと、ずっとあなたに会いたかったのよ! どんなに調べてもあなたの行方がわからなくて、本当に辛かった…!」

 ルピノは目に涙を浮かべながら、アズアルド殿下の所に行こうとしたけれど、お父様が慌てて止める。

「ルピノ、落ち着きなさい。相手は隣国の王太子殿下だぞ。馴れ馴れしく話しかけてはいけない」
「え…? 嘘でしょう? 王太子殿下は横にいらっしゃる方なのでは…?」

 ルピノは口をぽかんと開け、キョトンとした表情で、お父様に尋ねた。
 すると、お父様が何か言う前に、アズアルド殿下が口を開く。

「横にいるのは僕の側近だよ。改めて自己紹介するけど、僕の本当の名前はアズアルド・フィノン。隣国の王太子だよ」
「アズアルド…、フィノン…?」

 ルピノは声を震わせて聞き返した後、慌ててカーテシーをする。

「殿下にお会いできて光栄です。ですが…」
「何かな」
「どうして…、身分を隠していらっしゃったんですか? もっと早くに言っていただけていれば…」
「身分を隠してないと、人質にとられたりする可能性があるだろ? それに、周りの皆だって萎縮する。あと、誰にも話をしてなかったなんて事はないんだ。君の国の国王陛下にはお伝えしてあったし、高位貴族は知っていたと思う。君のお父上のようにね」

 お父様の方を見て、アズアルド殿下は言った。

 やはり、お父様は前々から知っておられたのね。
 アズアルド殿下の行き先もわかっていて教えなかったんだわ。

 すると、ルピノはアズアルド殿下に声を震わせて尋ねる。

「……そんな…、殿下は…、私を騙していたんですか?」
「騙す? まあ、そう言われてみればそういう事だけど、そんなに気に入らない? 僕としても心苦しかった事は確かだし、事情を理解してもらえると有り難いんだけど」
「……そういうわけではございません…」

 ルピノは必死に考えを巡らせているようだった。
 あんなにも会いたかった人と再会できた上に、相手は王太子殿下だった。

 彼女が焦っているのは、自分とセイン殿下の婚約の話が進んでいる事でしょうね。

 本来なら自分が婚約者になるはずだったと思っているのかもしれない。

 ルピノを見ていると、私の視線に気が付いたのか、彼女と目があった。

 だから、意地悪かもしれないけど言ってみる。

「ルピノ、アズアルド殿下と会えて良かったわね。あんなに会いたがっていたじゃない」
「……お姉様、この事を知っていたの…?」

 ルピノは表情を歪め、私を睨んでくる。

「知らなかったわ。知っていたら、アズだなんて恐れ多くて呼べなかった」
「僕だって騙したくて騙したんじゃない。自分の身を守るためだ。父からの命令で自国では学べない事を学びにこさせてもらっていただけだよ」
「……信じられない…」

 ルピノは叫び、今度はお父様に怒りをぶつける。

「どうして、私の婚約者候補の相手がアズアルド殿下だと教えてくださらなかったんですか!?」
「アズアルド殿下じゃなかったからだ」

 お父様があまりにもさらりと答えたので、ルピノは呆気にとられた顔をする。

「……え?」
「元々、ルピノの婚約者は別の人物にする予定だった。だけど、ルピノがセイン殿下を誘惑していると国王陛下から連絡が入り確認すると、セイン殿下はルリに仕事を押し付けて、ルピノと2人で会っている事がわかった」

 お父様の言葉に衝撃を受けた。

 いつから、そんな事になっていたのかしら…。
 私もどれだけ気付かないのよ…。
 まあ、仕事をしている時は他の事なんて目に入らなかったのもあるし、私の前ではそんな素振りを見せなかっただけなのかしら?

 セイン殿下の部屋に何度もルピノが来ているのはメイド達はわかるから、怪しいと思って、私には言わずにメイド長に報告して、そこから上の方に報告をしてくださったのかもしれないわね。

「その事について調べようと思っていた時に、ルピノからセイン殿下と婚約したいと言われてな。それじゃあルリが可哀想だから、以前、ルリとの婚約を望まれていたアズアルド殿下に声を掛けさせていただいた。アズアルド殿下には、婚約者がいらっしゃらなかったから、まだルリを思ってくださっているのかもしれないと思ったから」
「そ…そんな…」

 お父様の言葉を聞いて、ルピノは悔しさで顔を歪めて、唇を噛んだ。

「お前の思う通りにしてやっただけなのに、何が不満なんだ?」

 尋ねられたルピノは顔を真っ赤にして、お父様を睨んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

処理中です...