10 / 50
9 懇願する妹と拒否する王太子
しおりを挟む
「そんな…、嘘でしょう…? 酷いわ、お父様! どうして教えてくれなかったんですか!? お父様は私よりもお姉様の方が可愛いから、私をわざと苦しめる方向に持っていったんですか!?」
「意味がわからない。私は家族に対してそこまで性格は悪くないつもりだが? ルピノの事もルリと同じ様に可愛がっているからこそ、セイン殿下と婚約したいというお前の願いを叶えようとした。それでどうして責められないといけないんだ? 私を責めるとしたらルリからだろうと覚悟していたが、まさかルピノの方に責められるとはな…」
お父様が私の方を見て言うので、首を横に振る。
「婚約者をルピノに奪われたからといって、お父様を責めたりはいたしません。私はお父様や国王陛下の判断に従うまでです。セイン殿下に恋愛の情がなかったといえば嘘になりますが、セイン殿下がルピノとの婚約を望まれている様ですし、私はセイン殿下の婚約破棄を受け入れるつもりです。それが、セイン殿下の幸せにつながるのですから。そして、お父様に許していただけるのであれば、私を必要としてくださっているアズアルド殿下との婚約を受けるつもりでいます」
公爵令嬢が王太子に対する発言とすると、少し上から目線の様な気もするけれど、別にいいわよね?
確認する様にアズアルド殿下の方を見ると、にこりと微笑んでくれた。
今は落ち着いた笑みだけれど、昔はいたずらっ子みたいな笑みだった。
その笑顔に惹かれていたのに、今は今で、落ち着いた微笑みでも心が騒いでしまうなんて、公爵令嬢として失格ね。
一礼して上手く視線をそらし、お父様の方を見ると、お父様も笑顔で頷いてくれる。
「それは良かった。これで、王太子殿下お二人共だけでなく、ルピノもルリも幸せになれる。アズアルド王太子殿下、ルリの事をお待ちいただき、ありがとうございました」
私を待っていた…?
意味がわからなくて困惑していると、トーリ様が手を挙げる。
「発言してもよろしいでしょうか」
「もちろんです」
お父様が頷くと、アズアルド殿下も無言で頷いた。
すると、トーリ様が口を開く。
「アズアルド殿下は学園の最終日に、ルリ様に」
「トーリ…」
じろりとアズアルド殿下に睨まれて、トーリ様は小さく息を吐く。
「お別れをされたと言おうとしただけですが…?」
「……なら良い」
学園に来る最後の日に私にあんな事を言っただなんて言われたくないわよね…。
アズアルド殿下が頷いたのを確認すると、トーリ様は話を続けてくれる。
「その時に殿下はルリ様を忘れるつもりでいたようですが、どうしても忘れられなかった様で、見兼ねた国王陛下が、トニア公爵に連絡を入れられたのです。ルリ様が結婚するまでは、アズアルド殿下には婚約者は作らずに待たせると」
「………待たせる?」
信じられなくて、アズアルド殿下を見ると、彼は恥ずかしげに顔を背ける。
「しょうがないだろ…。何年も一緒だったんだ。そう簡単に忘れられるわけがない」
「……嬉しいです。ありがとうございます、殿下」
心からの御礼の言葉を伝えると、アズアルド殿下はホッとしたのか、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
昔、彼を好きだった時の気持ちが思い出されて、鼓動が速くなった。
それは、ルピノも同じだった。
「アズ…、いえ、アズアルド殿下! それなら、私の気持ちも理解してくださりますよね!? 私だってずっと、アズアルド殿下をお慕いしていたんです! 本当に忘れられなくて…」
ルピノは座っているアズアルド殿下の横にしゃがみ込むと続ける。
「私は良い妻になれます。どうか、私にチャンスを下さいませんか? お姉様はまだ、セイン殿下と婚約中です。そして、私はセイン殿下との婚約を拒否いたします。そうなれば、お姉様は…」
「ルピノ、残念だけれど、たとえ、あなたがセイン殿下と婚約をしなくても、私は婚約破棄されたのだからそれを受け入れるわ」
懇願しているルピノに冷たく言うと、彼女は立ち上がって叫ぶ。
「お姉様は黙っていて! 私は今、アズアルド殿下と話をしてるのよ!」
「悪いがルピノ嬢。僕にとっては今がチャンスなんだよ。ずっと好きだった人が僕の婚約者になろうとしてくれている。なのに、わざわざそのチャンスを、君にチャンスを与える為に逃すと思うのか?」
アズアルド殿下に笑顔で聞かれ、ルピノは泣き出しそうな顔をして唇を噛み締めた。
「意味がわからない。私は家族に対してそこまで性格は悪くないつもりだが? ルピノの事もルリと同じ様に可愛がっているからこそ、セイン殿下と婚約したいというお前の願いを叶えようとした。それでどうして責められないといけないんだ? 私を責めるとしたらルリからだろうと覚悟していたが、まさかルピノの方に責められるとはな…」
お父様が私の方を見て言うので、首を横に振る。
「婚約者をルピノに奪われたからといって、お父様を責めたりはいたしません。私はお父様や国王陛下の判断に従うまでです。セイン殿下に恋愛の情がなかったといえば嘘になりますが、セイン殿下がルピノとの婚約を望まれている様ですし、私はセイン殿下の婚約破棄を受け入れるつもりです。それが、セイン殿下の幸せにつながるのですから。そして、お父様に許していただけるのであれば、私を必要としてくださっているアズアルド殿下との婚約を受けるつもりでいます」
公爵令嬢が王太子に対する発言とすると、少し上から目線の様な気もするけれど、別にいいわよね?
確認する様にアズアルド殿下の方を見ると、にこりと微笑んでくれた。
今は落ち着いた笑みだけれど、昔はいたずらっ子みたいな笑みだった。
その笑顔に惹かれていたのに、今は今で、落ち着いた微笑みでも心が騒いでしまうなんて、公爵令嬢として失格ね。
一礼して上手く視線をそらし、お父様の方を見ると、お父様も笑顔で頷いてくれる。
「それは良かった。これで、王太子殿下お二人共だけでなく、ルピノもルリも幸せになれる。アズアルド王太子殿下、ルリの事をお待ちいただき、ありがとうございました」
私を待っていた…?
意味がわからなくて困惑していると、トーリ様が手を挙げる。
「発言してもよろしいでしょうか」
「もちろんです」
お父様が頷くと、アズアルド殿下も無言で頷いた。
すると、トーリ様が口を開く。
「アズアルド殿下は学園の最終日に、ルリ様に」
「トーリ…」
じろりとアズアルド殿下に睨まれて、トーリ様は小さく息を吐く。
「お別れをされたと言おうとしただけですが…?」
「……なら良い」
学園に来る最後の日に私にあんな事を言っただなんて言われたくないわよね…。
アズアルド殿下が頷いたのを確認すると、トーリ様は話を続けてくれる。
「その時に殿下はルリ様を忘れるつもりでいたようですが、どうしても忘れられなかった様で、見兼ねた国王陛下が、トニア公爵に連絡を入れられたのです。ルリ様が結婚するまでは、アズアルド殿下には婚約者は作らずに待たせると」
「………待たせる?」
信じられなくて、アズアルド殿下を見ると、彼は恥ずかしげに顔を背ける。
「しょうがないだろ…。何年も一緒だったんだ。そう簡単に忘れられるわけがない」
「……嬉しいです。ありがとうございます、殿下」
心からの御礼の言葉を伝えると、アズアルド殿下はホッとしたのか、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
昔、彼を好きだった時の気持ちが思い出されて、鼓動が速くなった。
それは、ルピノも同じだった。
「アズ…、いえ、アズアルド殿下! それなら、私の気持ちも理解してくださりますよね!? 私だってずっと、アズアルド殿下をお慕いしていたんです! 本当に忘れられなくて…」
ルピノは座っているアズアルド殿下の横にしゃがみ込むと続ける。
「私は良い妻になれます。どうか、私にチャンスを下さいませんか? お姉様はまだ、セイン殿下と婚約中です。そして、私はセイン殿下との婚約を拒否いたします。そうなれば、お姉様は…」
「ルピノ、残念だけれど、たとえ、あなたがセイン殿下と婚約をしなくても、私は婚約破棄されたのだからそれを受け入れるわ」
懇願しているルピノに冷たく言うと、彼女は立ち上がって叫ぶ。
「お姉様は黙っていて! 私は今、アズアルド殿下と話をしてるのよ!」
「悪いがルピノ嬢。僕にとっては今がチャンスなんだよ。ずっと好きだった人が僕の婚約者になろうとしてくれている。なのに、わざわざそのチャンスを、君にチャンスを与える為に逃すと思うのか?」
アズアルド殿下に笑顔で聞かれ、ルピノは泣き出しそうな顔をして唇を噛み締めた。
147
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。
桧山 紗綺
恋愛
子爵家の長男として生まれた主人公は幼い頃から家を出て、いずれ婿入りする男爵家で育てられた。婚約者とも穏やかで良好な関係を築いている。
それが綻んだのは学園へ入学して二年目のこと。
「婚約を破棄するわ」
ある日突然婚約者から婚約の解消を告げられる。婚約者の隣には別の男子生徒。
しかもすでに双方の親の間で話は済み婚約は解消されていると。
理解が追いつく前に婚約者は立ち去っていった。
一つ年下の婚約者とは学園に入学してから手紙のやり取りのみで、それでも休暇には帰って一緒に過ごした。
婚約者も入学してきた今年は去年の反省から友人付き合いを抑え自分を優先してほしいと言った婚約者と二人で過ごす時間を多く取るようにしていたのに。
それが段々減ってきたかと思えばそういうことかと乾いた笑いが落ちる。
恋のような熱烈な想いはなくとも、将来共に歩む相手、長い時間共に暮らした家族として大切に思っていたのに……。
そう思っていたのは自分だけで、『いらない』の一言で切り捨てられる存在だったのだ。
いずれ男爵家を継ぐからと男爵が学費を出して通わせてもらっていた学園。
来期からはそうでないと気づき青褪める。
婚約解消に伴う慰謝料で残り一年通えないか、両親に援助を得られないかと相談するが幼い頃から離れて育った主人公に家族は冷淡で――。
絶望する主人公を救ったのは学園で得た友人だった。
◇◇
幼い頃からの婚約者やその家から捨てられ、さらに実家の家族からも疎まれていたことを知り絶望する主人公が、友人やその家族に助けられて前に進んだり、贋金事件を追ったり可愛らしいヒロインとの切ない恋に身を焦がしたりするお話です。
基本は男性主人公の視点でお話が進みます。
◇◇
第16回恋愛小説大賞にエントリーしてました。
呼んでくださる方、応援してくださる方、感想なども皆様ありがとうございます。とても励まされます!
本編完結しました!
皆様のおかげです、ありがとうございます!
ようやく番外編の更新をはじめました。お待たせしました!
◆番外編も更新終わりました、見てくださった皆様ありがとうございます!!
【完結】婚約者にウンザリしていたら、幼馴染が婚約者を奪ってくれた
よどら文鳥
恋愛
「ライアンとは婚約解消したい。幼馴染のミーナから声がかかっているのだ」
婚約者であるオズマとご両親は、私のお父様の稼ぎを期待するようになっていた。
幼馴染でもあるミーナの家は何をやっているのかは知らないが、相当な稼ぎがある。
どうやら金銭目当てで婚約を乗り換えたいようだったので、すぐに承認した。
だが、ミーナのご両親の仕事は、不正を働かせていて現在裁判中であることをオズマ一家も娘であるミーナも知らない。
一方、私はというと、婚約解消された当日、兼ねてから縁談の話をしたかったという侯爵であるサバス様の元へ向かった。
※設定はかなり緩いお話です。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
【完結】2人の幼馴染が私を離しません
ユユ
恋愛
優しい幼馴染とは婚約出来なかった。
私に残されたのは幼馴染という立場だけ。
代わりにもう一人の幼馴染は
相変わらず私のことが大嫌いなくせに
付き纏う。
八つ当たりからの大人の関係に
困惑する令嬢の話。
* 作り話です
* 大人の表現は最小限
* 執筆中のため、文字数は定まらず
念のため長編設定にします
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
婚約者の家に行ったら幼馴染がいた。彼と親密すぎて婚約破棄したい。
ぱんだ
恋愛
クロエ子爵令嬢は婚約者のジャック伯爵令息の実家に食事に招かれお泊りすることになる。
彼とその妹と両親に穏やかな笑顔で迎え入れられて心の中で純粋に喜ぶクロエ。
しかし彼の妹だと思っていたエリザベスが実は家族ではなく幼馴染だった。彼の家族とエリザベスの家族は家も近所で昔から気を許した間柄だと言う。
クロエは彼とエリザベスの恋人のようなあまりの親密な態度に不安な気持ちになり婚約を思いとどまる。
「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。
ぱんだ
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」
弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。
結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。
それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。
非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる