価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ

文字の大きさ
45 / 50

35 現れた元妹②

しおりを挟む
 アズに一緒に行ってもらおうかと思ったけれど、彼を連れていけば、ルピノを喜ばせるだけのような気がしてやめておいた。

 アザレアも一緒に行くと言ってくれたので、ルピノに見えないところで、話を聞いていてほしいとお願いした。
 
 地下牢に続く石造りの階段をおりていくと、独房がいくつかあった。
 今のところ、使われているのはルピノがいるところだけだった。

 きっと、ここは一時的に入れられて、あとは違う場所に移されるか、処刑されてしまうか、どちらかなんだと思われる。

 一番奥にルピノはいた。

「ルピノ」

 私が名を呼ぶと、鉄格子の向こうのベッドの上で、膝を抱えていたルピノは、びくりと体を震わせたあと、こちらに振り返った。

 ルピノの顔は、誰かに殴られたのか、鼻は曲がり、目の上は腫れて、口の周りには青あざが出来ていて、思わず、目を背けたくなった。

「お姉様……! いいえ、ルリ様! 私とお母様を助けてください!」

 ルピノは立ち上がり、こちらに向かってくると、鉄格子をつかんで叫んだ。

「一体、何があったの?」

 ルピノを助けるつもりはないのに、あまりの彼女の変わりように驚いて、つい聞いてしまった。

「シイナレンラジ家の令息が、私のことを好きみたいで服従させようとしてくるんです!」
「……それで、殴られたの?」
「伯父様を殺そうとしたから、殺さないでほしいとお願いしたんです! そうしたら……」
「暴力をふるわれたのね」
「はい」

 ルピノは首を縦に振ったあと、曲がってしまっている鼻を軽く触って、痛みのせいか眉を寄せた。

「あの……、鏡を見ていなくて、今の私はどうなっていますか?」
「それよりもあなた、よく、その状態で逃げ出せたわね?」

 素直に話してくれている間に、聞き出せるものは聞き出すことにして聞いてみた。

「伯父様もシイナレンラジ家の別邸にいるので、伯父様と公爵令息が喧嘩をしたすきに逃げだしたんです。二人共、私がお手洗いに行きたいと言ったら信じてくれて……」

 本当にその言葉を信じたというのなら驚きだわ。

 お二人共、そんな嘘に簡単にひっかかるかしら?

「お願いです、ルリ様! お母様と私を助けてください!」
「ノーラル様はどうなっているの?」
「私を逃がす時にも手伝ってくれたんです。だから、元気だと思います」
「そんなことは聞いていないわ。ノーラル様はどうしたの?」
「わかりません。私が考えることでもないと思ったので」
「あなた、ノーラル様は自分の母親でしょう? 心配じゃないの?」

 驚いてしまい、大きな声で尋ねると、ルピノは苦笑する。

「ここに来たから安心したんです。それに、お母様のことを考えなくてもいいかなって。お母様も自分のことは気にしなくて良いと言ってましたし」
「あなた自身の気持ちの話をしているのよ。助けてほしいと言っていたじゃない」
「……そんな事よりも早く、私をここから出してください! あ、あと、アズを返してください!」
 
 ルピノの発言を聞いて、自分の耳を疑った。

 けれど、それは聞き間違いではなかったと、ルピノの口から語られる。

「さっきまではお母様のことを心配だったんですけど、お母様に何かあっても、私が幸せなら、お母様は幸せですよね?」

 笑顔で聞いてくるルピノに、私は首を横に振る。

「ノーラル様はそれで幸せなのかもしれないけれど、私があなたの立場なら、そんなことは絶対に言えないわ」
「そんなものでしょうか?」
「人それぞれだから、絶対だとは言えないけれど、私は絶対に言わないし、そうとは思わない。助けに行くと思うわ」
「だから、助けてくださいってお願いしているんです!」

 最初は大人しかったルピノの態度が、今までと変わらなくなってきたように感じた。

「わかったわ。ノーラル様に関しては調べましょう」
「ありがとうございます! で、私はいつここから出られるんです?」
「出してはあげるけれど、あなたをレブルンに戻すと決まってからよ」
「レブルンに……? お祖母様達、迎えに来てくれるかしら?」

 呑気なルピノを見て、少しだけ気の毒に思えた。

 可愛い自慢の顔も、今では見る影もない。

 今までのように、彼女にチヤホヤしなくなるでしょう。
 
 もしかしたら、可愛くなくなったから捨てられて、簡単に逃げることができたのかもしれない。

「さあ、どうかしら。ヤイネバ家は警察にマークされているから難しいかもしれないわ」
「でも、お祖父様なら、怪しいくらいならもみ消せるはずです」
「私はそんな事をさせるつもりはないけど」

 ルピノは私の言葉を聞いて眉を寄せた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

処理中です...