【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ

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3 他に方法はないものか

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 野菜ジュースやパンなどをもらって、私とユウヤくんがやって来たのは、一ヶ月程前から主がおらず寂しくなった、ラス様の執務室だった。
 ラス様は普段は外交担当の仕事を担っていて、個人部屋が用意されている。

 部屋の中は毎日掃除はされているようで、ホコリなど一切なく、執務机の横にある大きな本棚もピカピカだ。
ユウヤくんは飲み物や食べ物を部屋の一角にある応接セットのテーブルに置くと、疲れたのかソファに沈み込んだ。

「大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇけど大丈夫」
「何それ」

 心配して聞くと、反応しにくい答えが返ってきたから、苦笑しながら窓際に立ち、外の様子を眺めながら言う。

「私達は行かなくて良かったのかな?」
「何が」
「アレンくん達を迎えにいかなくて」
「ああ、まあいいだろ。まずは報告とかもあるだろうしな」

 リアがアレンくんをどうにかしてくれれば良いけど、たぶん無理だろうな。
 頑固なところがあるようだし、彼はまだ13歳になるところで、まだ子供だから自分の願いがどれだけの人に迷惑をかけるか理解できていない。
 だから、リアの気持ちも考えずに、あんな事をお願いしちゃうんだろうな。

「もし、アレンの話が実行されるとなったら、オマエやリアちゃんの所には求婚の手紙が数え切れないくらいくるだろうから、それをなんとかしないとな」
「そうなる前にラス様にお願いして、婚約者なり未来の旦那様のふりをしてもらうって事?」
「そのほうが虫除けになる」

 そりゃそうかもしれないけど・・・・・。

 ラス様は返事もいらないし、聞いたことは忘れるように、と私にお願いしてから告白してくれた。
 私がユウヤくんの事以外、好きにならないとわかってたから、気持ちの区切りをつけるために言ってくれたんだと思う。
 
 そんなラス様にこんな話、どうしても出来ない。

「ラス様以外に誰か」
「他に誰がいるんだよ」

 言われて、言葉に詰まる。

 いないですよ。
 大体、貴族にそう大して友達もいませんから。
 いるとしても女性ばかりだし。
 それにラス様以上の人なんて、私にはユウヤくんしかいないし。
 ただ、裏を返せばユウヤくん以外はとなると、ラス様しかいないのも事実。

「オマエがそう言う気持ちはわかる。できるなら、ラスの事を思えば、そんな頼み事なんてしたくない」
「なら、ラス様に相談して他の道を」
「でも、オレはオマエを誰にも渡したくない。どうしても、って考えて、思い浮かぶのはラスだけだ。ユウマもいるけど、リアちゃんがいるからな」

 ユウヤくんが大きくため息を吐く。
 彼とラス様は小さい頃からの幼馴染みで、ユウヤくんはラス様の事を友人としてもそうだけど、本当の兄のように慕っている。

 ラス様が私に告白してくれる前に、彼はユウヤくんにその話をしてるから、ラス様だってきっと、こんな話を聞かされても嫌なはず。

 かといって知らない人となんて、正直、手をつなぐのも嫌だ。

「悪いな」
「え?」
「オレの弟のせいだし」
「別に、それはしょうがないし」

 それだけ、アレンくんがリアを好きって事なんだろうし、迷惑といえば迷惑だけど、アレンくんはお友達みたいなもんだし言いにくい。

「結婚しなきゃ、こんな事は考えなくてもいいんだろうけど」

 ユウヤくんは私を見つめて続ける。

「だけど、ちゃんとオレはオマエを自分のものにしたい」

 その言葉に私の体温は一気に上昇する。
 真剣な眼差しに鼓動が早くなって、目を合わせていられず、私が目をそらした、その時だった。

「ラス様、お待ち下さい!」

 部屋の外から慌てる声が聞こえたと思ったら、この部屋の主の名前が聞こえ、私とユウヤくんは顔を見合わせる。

 ラス様、帰ってきたんだ!

「自分の仕事部屋に行くのに止められる筋合いはないと思いますが?」
「中にユウヤ殿下と」
「ユウヤ殿下?」

 久しぶりのラス様の声が聞けて嬉しくなった私は、待ちきれなくて内側に開く扉を開けた。

「ユーニさん?!」
「ラス様、おかえりなさい!」

 満面の笑みで迎えてみたが、ラス様はどこか疲れた表情をしている。

 う。
 やはり、帰ってきたばかりのとこに迷惑だったかな。
 そりゃそうだよね。
 片道でさえ何日もかかるとこまで行ってたんだし。

「迷惑なんかじゃないですよ。いるとは思ってなかったので驚いただけです」

 ラス様は優しく笑うと、部屋の中に入った。
 
 紺色の髪と瞳、肩より少し長いくらいの髪を、おばあさんの形見のリボンで一つにまとめた、美少女かと見間違うくらいの眉目秀麗であるこの人が、ラス・イッシュバルド。
 私よりも3つ年上で人の表情から思っている事を読み取る特技がある。
 いつも眼鏡をかけていたのだけど、今日はかけてないからか、それとも一ヶ月ぶりだからか、なんだか雰囲気が違って見える。

「お疲れ」
「人の部屋で食べ物や飲み物を持ち込んで何やってんですか」
「オマエが帰ってくるって聞いて待ってたんだよ」
「女性を立たせてですか」
「あ、ラス様、私は立ったままで大丈夫です」
「座られたくなったら座って下さい」

 私が手を横に振ると、ラス様はそう促してくれたあと、ユウヤくんに向かって言う。

「本当に疲れましたよ。サナトラの王太子は女性の話しかしませんし、マヌグリラの姫はあなたの話しかしませんから」
「まだ言ってんのか」

 ラス様は背負っていた荷物を執務机の椅子に置きながら、ユウヤくんと会話を続ける。

 ユウヤくんの話しかしない、って、どういう事なんだろ?

「ワガママに育ったんでしょうね」

 そこまで言って、ラス様は私を見てからユウヤくんに言う。

「ユーニさんにそのお話は?」
「関係ないかな、と思ってしてない」
「そういう事はいつか喧嘩のもとになります。話しておいたほうがいい」

 ラス様の言葉を聞いて、ユウヤくんはソファに背中を預けると、ため息をついて言った。

「そういうとこなんだよな」 
「なんですか」

 机の上にたまっていた書類らしきものを片付けながら、ラス様が訝しげに聞くけれど、ユウヤくんはそれを無視して尋ねる。

「アレンの話、聞いたか?」
「アレンの話? さっき、ユウマやリアさんともめていたようですが、それと関係ありますか」

 ラス様にはまだ連絡がいってないようで、ユウマくんの質問に質問で返す。

「実はな」

 私はユウヤくんがラス様に一連の話をするのを、静かに立ったままで聞いていた。
 そして、本題の義務化の件のところで、ラス様の表情が変わった。

「彼は何を考えてるんですかね」

 ため息を吐いたあと、彼は言葉を続ける。

「リアさんへのフォローは?」
「一応、大丈夫だよな」

 ユウヤくんが私に向かって聞くので、頷いてからラス様に答える。

「だいぶショックを受けてたけど、アレンくんがユウヤくんとユウマくんの兄弟って考えたらって、納得してました」
「そうですね。兄二人がこうですからね」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味です。あなたもユウマも、ユーニさんとリアさんの事ばかり考えて、周りの迷惑なんて考えてないでしょう」

 ラス様の言葉にユウヤくんは押し黙る。
 そこは否定してほしいような。
 だって、周りの迷惑を考えてないなんて事はないだろうし。

「そこまでわかってんなら、次にオレが何を言おうとしてるかわかってるよな?」

 ユウヤくんが開き直るような言い方をする。
 何を言おうとしているか、私にもわかったので、口を挟もうとすると、ユウヤくんに目で止められた。

「何が言いたいんですか。どうにかしてアレンの考えを屈させる、または、新たに違う女性を好きになってもらうしかないでしょう」
「そんな簡単にできるのかよ」
「考えるしかないでしょう」

 ラス様はそう言ってから、ユウヤくんの元へ行き、座っている彼を見下ろして尋ねる。

「言いたいことがあるのならどうぞ」
「じゃあ言うぞ」

 ユウヤくんは立ち上がり、ラス様に向かって言った。

「問題が解決するまででいい。ユーニのもう一人の夫候補になってくれ」
「は?」

 ラス様の困惑の声が重苦しい空気の部屋に響き渡った。
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