【完結】お姉様ごめんなさい。幸せになったのは私でした

風見ゆうみ

文字の大きさ
10 / 34

8   妻の幸せと夫の幸せ

しおりを挟む
「私との婚約を進めるくらいですから、何かあるのだろうなとは思っていましたが、ロヴァンス様が遊び人だったなんてまったく気づきませんでした。お姉様はそれを知っているのに、私から奪おうとしたのでしょうか」

 ファリアーナが首を傾げると、アシュは食事をする手を止めて答える。

「あの時の彼女は僕の妻だったから、ニーカ侯爵が自分を好きになっても、自分が彼に奪われることはないと高をくくっていたんじゃないかな」
「普通はそうですよね。となると、やはりロヴァンス様も考え方が普通じゃないということでしょうか」
「だと思う。シルフィーナの言うことをたとえ全面的に信じていたとしても、普通は僕に対してあんなことを言えるはずないんだ」

 アシュは小さく息を吐いて呟く。

「僕も舐められたもんだよ」
「私を助けなければ、もっと強く出られましたよね」
「まあね。だけど、あんな状態の君を見捨てられないだろう」
「申し訳ございません」

 ファリアーナが目に見えてシュンとしたからか、アシュは苦笑する。

「彼女が僕の妻として世に出るのを防いでくれたんだから気にしなくていい」
「ですが……」
「どうしても気になるなら、もっと自分に自信を持てるようになってくれ」
「……自分に自信、ですか?」
「ああ。君の場合は攻撃されるのを恐れているのかもしれないが、目立たないようにすることに必死になってる気がするし、自己評価も低そうだ」
「うう。それは間違っていません」

 ファリアーナが目を伏せると、アシュは眉根を寄せる。

「今すぐに強くなれとは言わない。誰かのための君じゃなく、君自身が自分を好きだと言えるような人になってくれたらいいと僕は思う」
「私自身が私を、ですか?」
「ほぼ無理矢理、君を嫁に迎えたんだ。できる限り、君には幸せになってほしいと思ってる。ただ、僕ができることは僕が考える君の幸せであって、君の望んだものではないかもしれない。違うなら違うとはっきり言えるようになってほしいんだ」

 アシュの言葉はファリアーナの心にゆっくりと染みわたっていく。

(そうよ。そうだわ。泣き言なんて言っていられない。自分自身を好きになれたら、自分に自信が持てて堂々とできるはず。そうすれば、アシュ様にかける迷惑を少しでも減らせる)

 すぐにポジティブ思考になることはできないが、彼女の中で自分を変えるきっかけができたと感じていた。

「私、頑張ります! アシュ様、私に変わるチャンスをくださり、ありがとうございます!」
「どういたしまして」

 アシュは満足したように頷いてから話題を変える。

「結婚式には君の両親を呼んだほうがいいか?」
「呼ばなくていいです」 

 即答したファリアーナに、アシュは表情を和らげて話す。

「それなら良かった。対抗するつもりかわからないけど、彼らも同じ日に式を挙げるってさ。君の両親はそっちに行くだろう」 
「公爵家と張り合うつもりなんでしょうか。信じられません!」
「いや、ただ単に高位貴族はこっちに来るから、式を挙げる貴族が少なくて、会場がすぐに準備できたんだよ」
「そういうことでしたか。……といっても普通は違う日にすると思うのですが」
「まあ、結婚式の日にちくらい自由にしても良いと思うよ」

 ファリアーナの家族は、彼女の惨めな姿を見たくて仕方がないことが調査によってわかっていた。そう考える理由はまだ調査中だが、どうせくだらない理由だろうとアシュは考えていた。

 アシュの母親は昔、陰でいじめられており、辛い学生生活を過ごしていたと話してもらったことがある。たとえ、腹が立つことをされたからって、嫌なことをしてもいいわけじゃない。

(悪意になら、少しくらいやり返すのはいいだろう)

 今のアシュはどうすれば、になるかを考えていた。

 仕返しをしたいのはアシュの考えであり、目の前で彼を見つめているファリアーナは、そんなことを考えているようには見えない。 ただ、周りに迷惑をかけないように嫌われないようにしているように見えた。

 アシュが彼女に声をかけた時は衝動的なものだった。若き日の母の姿を想像したということもあるが、泣いている彼女が雨の中に捨てられた子猫のように見えて放っておけなかったのだ。ここに来てからもまだファリアーナは弱いままだ。だが、彼女は変わろうとしている。

「あの、アシュ様どうかされましたか?」
「なんでもない。それよりも暮らしには慣れてきた?」
「はい! 毎日がとても楽しいです!」
「それなら良かった」

 ファリアーナが笑顔で答えると、アシュは満足そうに頷いた。
 
 アシュはあまり笑顔を見せない。だが、ファリアーナの目には彼が心では笑っている気がして、いつかは笑顔を見れたら良いなと心から思ったのだった。

 二人が和やかに会話をしていた頃、ニーカ侯爵家とファリアーナの実家であるソーダ伯爵家には、イクフェ侯爵家とその婚約者の家から、アシュの結婚相手がイクフェ侯爵令嬢だと嘘の噂を流したとして、謝罪と慰謝料を要求する連絡がきていたのだった。
 
しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【完結】あの子の代わり

野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、 婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。 ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。 18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、 キャリーヌにいないからという理由だったが、 今回は両親も断ることが出来なかった。 この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました

恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」 婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、 身に覚えのない侮蔑の言葉だった。 10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。 だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、 妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。 婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。 学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、 フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。 「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」 彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。 捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす! 痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...