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29 王弟の勝手な願い
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ブーディカからファリアーナに連絡があったのは、国王との謁見を終えた次の日の朝だった。三日後にはまたエンジェと会う約束をしているため、その前にどうしても話しておきたいことがあると書かれていた。
「二人きりで会いたいと書かれているのですが、やめておいたほうがいいですよね」
「そうだな。二人きりになるのは、エンジェ様が知った時にどう思われるか考えたほうが良いと伝えてみたらどうだ?」
「そうします」
一人で考えて行動することも大事だが、相談することも大事だと思ったファリアーナは、明らかにくだらない内容以外は、アシュに相談することにしていた。
異性と、しかも自分に危害を加えるかもしれない相手と二人きりで話そうと思う人間はそういないだろう。元々、二人で会うつもりはなかったが、アシュの同意を得たことで、ファリアーナは自分の判断に自信を持つことができた。
ファリアーナが返事をするとすぐに、ブーディカからアシュの同席も許すので、話を聞いてほしいと連絡があった。
日時はブーディカに合わせるが、場所はレイン公爵家にしたいと伝えると、すぐに了承したとの返事があり、初めてファリアーナはブーディカと対面することになったのだった。
******
当日の約束の時間はブーディカの気持ちを表しているかのような大雨だった。屋敷にやって来たブーディカはやつれた様子で、案内した応接室のソファに倒れ込むように座った。
「王弟殿下、ご気分が優れないのですか?」
理由はわかっているが、気にしないわけにもいかない。ファリアーナが尋ねると、ブーディカはゆっくりと顔を上げて懇願する。
「助けてくれないか」
「助ける? 私が王弟殿下をですか?」
ファリアーナが驚いて聞き返すと、ブーディカは頭を抱えて訴える。
「私とキッファンの事情は知っているのだろう!? 私は認知していない息子に脅されている! 私にとって、妻や妻との間に生まれた子供たちが大事なんだ。キッファンが生まれたのは私が犯した罪のせいだとわかっている! だが、彼のために自分の人生を犠牲にしたくない! だから、キッファンのことが家族にバレないようにしてほしいんだ」
ブーディカはファリアーナがエンジェに真実を話すかもしれないと考え、夜も眠れずにいた。
こんな人の息子に生まれたのかと思うと、キッファンが少し気の毒に思えたファリアーナだったが、すぐに思い直す。
(王弟殿下が悪いことは確かだけど、キッファン様だってもう大人なんだから、してはいけないことくらい、自分でわかるはず)
「王弟殿下にお尋ねします」
「……なんだ?」
「私に助けてほしいとおっしゃいましたが、具体的に何をお望みなのです? そして、あなたの願いを叶えることで、私にどんなメリットがあるのでしょうか」
不敬な発言に取られる可能性はあったが、今回の話を公にしたくないのはブーディカのほうだ。彼は、ファリアーナの発言に気分を害することなく答える。
「キッファンはシルフィーナのために、君を傷つけることを望んでいる。このまま、野放しにしていたら、いつか君に危険が及ぶかもしれない。そうなる前に、キッファンとシルフィーナを排除する」
物騒な言葉を聞き、ファリアーナは思わずアシュを見つめた。動揺している彼女の代わりにアシュが質問する。
「そんなことをすれば、あなたの秘密をバラされてしまうのではないですか」
「……それで、助けてほしいと言ったんだ」
ブーディカがこちら側に寝返る予想をあまりしていなかったために、ファリアーナたちが国王とブーディカについて話をした時間は無駄になってしまった。それでも、いつ終わるかわからない戦いに終止符を打つことができるのならそれで良い。
(ブーディカ様の秘密をエンジェ様に話すかどうかは、国王陛下の判断に任せることにしましょう)
「私は何をすれば良いのでしょうか」
ファリアーナが尋ねると、ブーディカの目が輝いたのがわかった。
◇◆◇◆◇◆
ファリアーナたちが話し合いをしている頃、キッファンは中々動いてくれない父親に対して苛立ちを覚えていた。シルフィーナもファリアーナに何かあってからではないと自分には触れさせないと言って、相変わらず部屋に閉じこっている。
ブーディカに対してもっと脅しをかけないといけないと思い、新たな手紙を書き上げた夜、ブーディカから『五日後の晩に動く。時間と場所を書いておくから、上手くいったかどうかの確認をしてほしい』という連絡がきた。
手紙を読んだキッファンはこれでまた、ブーディカに対する脅しの材料が増えたと高笑いした。裏切られることなどないと思い込んでいたキッファンは、確認をしてほしいという言葉の意味を、一切疑うことはなかった。
「二人きりで会いたいと書かれているのですが、やめておいたほうがいいですよね」
「そうだな。二人きりになるのは、エンジェ様が知った時にどう思われるか考えたほうが良いと伝えてみたらどうだ?」
「そうします」
一人で考えて行動することも大事だが、相談することも大事だと思ったファリアーナは、明らかにくだらない内容以外は、アシュに相談することにしていた。
異性と、しかも自分に危害を加えるかもしれない相手と二人きりで話そうと思う人間はそういないだろう。元々、二人で会うつもりはなかったが、アシュの同意を得たことで、ファリアーナは自分の判断に自信を持つことができた。
ファリアーナが返事をするとすぐに、ブーディカからアシュの同席も許すので、話を聞いてほしいと連絡があった。
日時はブーディカに合わせるが、場所はレイン公爵家にしたいと伝えると、すぐに了承したとの返事があり、初めてファリアーナはブーディカと対面することになったのだった。
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当日の約束の時間はブーディカの気持ちを表しているかのような大雨だった。屋敷にやって来たブーディカはやつれた様子で、案内した応接室のソファに倒れ込むように座った。
「王弟殿下、ご気分が優れないのですか?」
理由はわかっているが、気にしないわけにもいかない。ファリアーナが尋ねると、ブーディカはゆっくりと顔を上げて懇願する。
「助けてくれないか」
「助ける? 私が王弟殿下をですか?」
ファリアーナが驚いて聞き返すと、ブーディカは頭を抱えて訴える。
「私とキッファンの事情は知っているのだろう!? 私は認知していない息子に脅されている! 私にとって、妻や妻との間に生まれた子供たちが大事なんだ。キッファンが生まれたのは私が犯した罪のせいだとわかっている! だが、彼のために自分の人生を犠牲にしたくない! だから、キッファンのことが家族にバレないようにしてほしいんだ」
ブーディカはファリアーナがエンジェに真実を話すかもしれないと考え、夜も眠れずにいた。
こんな人の息子に生まれたのかと思うと、キッファンが少し気の毒に思えたファリアーナだったが、すぐに思い直す。
(王弟殿下が悪いことは確かだけど、キッファン様だってもう大人なんだから、してはいけないことくらい、自分でわかるはず)
「王弟殿下にお尋ねします」
「……なんだ?」
「私に助けてほしいとおっしゃいましたが、具体的に何をお望みなのです? そして、あなたの願いを叶えることで、私にどんなメリットがあるのでしょうか」
不敬な発言に取られる可能性はあったが、今回の話を公にしたくないのはブーディカのほうだ。彼は、ファリアーナの発言に気分を害することなく答える。
「キッファンはシルフィーナのために、君を傷つけることを望んでいる。このまま、野放しにしていたら、いつか君に危険が及ぶかもしれない。そうなる前に、キッファンとシルフィーナを排除する」
物騒な言葉を聞き、ファリアーナは思わずアシュを見つめた。動揺している彼女の代わりにアシュが質問する。
「そんなことをすれば、あなたの秘密をバラされてしまうのではないですか」
「……それで、助けてほしいと言ったんだ」
ブーディカがこちら側に寝返る予想をあまりしていなかったために、ファリアーナたちが国王とブーディカについて話をした時間は無駄になってしまった。それでも、いつ終わるかわからない戦いに終止符を打つことができるのならそれで良い。
(ブーディカ様の秘密をエンジェ様に話すかどうかは、国王陛下の判断に任せることにしましょう)
「私は何をすれば良いのでしょうか」
ファリアーナが尋ねると、ブーディカの目が輝いたのがわかった。
◇◆◇◆◇◆
ファリアーナたちが話し合いをしている頃、キッファンは中々動いてくれない父親に対して苛立ちを覚えていた。シルフィーナもファリアーナに何かあってからではないと自分には触れさせないと言って、相変わらず部屋に閉じこっている。
ブーディカに対してもっと脅しをかけないといけないと思い、新たな手紙を書き上げた夜、ブーディカから『五日後の晩に動く。時間と場所を書いておくから、上手くいったかどうかの確認をしてほしい』という連絡がきた。
手紙を読んだキッファンはこれでまた、ブーディカに対する脅しの材料が増えたと高笑いした。裏切られることなどないと思い込んでいたキッファンは、確認をしてほしいという言葉の意味を、一切疑うことはなかった。
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