【完結】お姉様ごめんなさい。幸せになったのは私でした

風見ゆうみ

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28  追い詰められる王弟

 エンジェの日課を調べたところ、雨の日を除き、3日に一度のペースでカフェに通っていることがわかった。空いていれば彼女が好んで座る席があり、ファリアーナはサシャと共にその席を確保することにした。

「私たちがしたように予約席にできそうなものなのに、そうしないのはなぜなのでしょうか」
「来る時間帯がはっきりしないからかもしれませんわね」

 ファリアーナとサシャがそんな話をしていると、空席が目立っていた店内も人であふれ始めた。
 確認を取ったところ、今日はエンジェが来ることは間違いない。だが、はっきりした時間まではわからなかったため、店に許可を取り別途料金を支払うことと、注文を一時間おきに必ずすることで長居することを許してもらっていた。
 仲の良い女性二人が集まれば、話は尽きることはないが、そう待たないうちにエンジェが店に入ってきた。
 エンジェは金色のふわふわの髪を持つ小柄の可愛らしい顔立ちの女性だ。

 エンジェとファリアーナは面識がないが、サシャは社交場で何度か顔を合わせていた。そのため、サシャが頭を下げると、エンジェのほうから笑顔で話しかけてきた。

「お久しぶりですわね。お元気にしていらして?」
「こちらこそご無沙汰しております。わたくしはおかげさまで元気にしておりますが、エンジェ様はお変わりありませんでしょうか」
「見ての通り元気にしているわ」

 エンジェは温和な笑みを見せたあと、ファリアーナに目を向けた。

「はじめまして、ファリアーナ・レインと申します。エンジェ様にお会いできて光栄です」
「まあ! あなたが噂の!」

 ファリアーナはいわゆる時の人であるが、彼女と関わることのできる人は少ない。エンジェは好奇心で目を輝かせた。

「良かったらご一緒させてもらってもいいかしら」

 エンジェからの申し出は、ファリアーナにとって有り難かった。

「もちろんです」

 ファリアーナが頷くと、エンジェはファリアーナの隣に座り、彼女に不快に思う質問には答えなくて良いと前置きした。そして、社交界をにぎわしている話が事実なのか、ファリアーナを質問攻めに合わせたのだった。

 

◆◇◆◇◆◇


 王弟であるブーディカの元に、キッファンから手紙が届いたのは、エンジェがカフェに出かけている時だった。
 キッファンから連絡がよく来るようになったため、怪しまれないようにエンジェにはカフェに行ってゆっくりするように勧め、その間に手紙を受け取っていた。

 キッファンからの手紙には、ファリアーナを暴漢に襲わせるなどして、彼女の人生を不幸にしてほしいと書かれていた。断りたいのは山々だが、従わなければ家族に真実を知られてしまう。

 真実を暴露されるくらいなら、ファリアーナには悪いが、痛い目に遭ってもらうしかない。そう思って覚悟を決めた時、上機嫌でエンジェが帰ってきた。
 時計を見ると、いつもよりも帰宅時間が遅い。寄り道でもしてきたのだろうかと思って尋ねようとすると、エンジェから話し始める。

「今日、噂のファリアーナさんに会ったの。とても良い人だったわ。年が離れているんだけど話が合うし、お友達になってくれたのよ」
「……そ、そうか」

 エンジェの話を聞いたブーディカは、平静を保つのに必死だった。

「一緒にいたサシャさんから、夫婦が長く仲良くいられる秘訣を聞かれたんだけど、やはり浮気をしないのが一番だと伝えておいたの」
「そ、そうだな。浮気は良くない」

 心臓の鼓動が速くなり、まるで心臓が耳の近くに移動したかと思うくらいに、大きく聞こえるようになった。

「当たり前のことだけど、あなたは浮気するような人じゃないもの。私たちが仲良くいられるのは、あなたのおかげかもしれないわね」

 ブーディカは目の前が真っ暗になった気がして、近くにあったソファに倒れるように座ったのだった。

    
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