酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ

文字の大きさ
21 / 25

6−1  狂気 (ビアラ視点)

しおりを挟む
 ビアラが外出したのは、もちろんオルザベートを誘い出す為だった。

(大人しく待ってるのは性に合わないのよね…)

 動きやすい膝上丈の水色のワンピースに紺色のカーディガンを羽織ったビアラは、何か動きがあるまでは買い物でもしようかと、店を物色しながら歩いていた。
 けれど、ビアラが一軒目に入らない内に、ロンバートが近付いてくるなり、ビアラに向かって言った。

「一緒に来い。オルザベートが話をしたがってる」
「何よ、偉そうに。一緒に来て下さいじゃないの?」
「偉そうにしているのはお前だよ。いいから、大人しく付いてこい」
「構わないけど、どこに行くわけ?」
「一々うるさい!」
「ロードウェル、あなた、自分の置かれてる状況はわかってるの? 私に何かあったら、あんただけじゃなく、トゥッチの人生も終わりよ?」

 ビアラはロンバートの後ろを付いて歩きながら続ける。

「トゥッチと子供と一緒に暮らしたくないの?」
「暮らしたいに決まっているだろ! だから、オルザベートの所へ来たんだ」
「その割に、トゥッチの言いなりで、幸せな生活を送りたいというより、トゥッチの側にいられれば良いみたいになってるけど?」

 ロンバートは立ち止まり、ビアラを睨み付けて言う。

「それの何が悪い? エアリスに近付けさせなければ…。オルザベートが僕の事だけをみてくれればそれでいいんだ」
「子供の事は?」
「二人での生活が落ち着いたら迎えに行く。もしくは…」
「もしくは?」

 ビアラが先を促すと、ロンバートは何か思い詰めた様な顔をしただけで、その先の言葉は発さなかった。

(何か、ロードウェルの様子がいつもと違う感じがする。何でかしら?)

 頭の中で警鐘が鳴った気がして、ビアラは歩みを止める。
 けれど、そこで引き返す事を、ロンバートは許さなかった。

「おい、何をしてるんだ。早く来い」
「何をしたいわけ?」
「お前なんかに答える筋合いはないだろう!」

 怒鳴り散らしてきたので、ビアラはため息を吐いてから、ロンバートの後ろを、また付いて歩き始める。
 しばらくすると静かな住宅街に入っていき、その中の一軒の家の前でロンバートは足を止めた。

「こっちだ」
 
 家の鍵はかけられていない様で、ロンバートは扉を開くと、中へ入るように促してきた。
 用心しながら中へ入ったビアラは、入ってすぐにある右側の扉が大きく開け放たれているのに気が付いた。

 扉の向こうはリビングダイニングらしく、ピンク色のカバーがかけられたソファーに、オルザベートとオラエルが寄り添って座っているのが見えた。

「よく来てくれたわね」
「あなたからのお誘いだから来たんじゃないの」

 立ち上がって言うオルザベートに、ビアラは部屋の中には入らず、エントランスに立ち止まったまま、言葉を返した。

(逃亡生活がこたえてるのか、もしくはエアリスに会えない事がこたえてるのか、同じ年だとは思えないわね)

 ビアラがそう思ってしまう程に、オルザベートの髪は傷んで乱れ、肌荒れもすごかった。

「ティンカー、あの女を殺してよ!」
「無理だ! 僕は人殺しなんかしたくない!」
「私の為じゃない! どうして出来ないのよ!?」
「それはこっちのセリフだよ、オルザベート! どうして、君はいつまでたっても、エアリスの事が忘れられないんだ!」

 オラエルの悲痛な叫びが部屋中に響き渡る。

「私にはエアリスしかいないからよ」
「僕がいるだろ!」
「いや、違う! 僕がいる!」

 オラエルの後にロンバートが叫んだ。

(何を見せられてるのかしら? そこまで暇じゃないんだけど…)

「そんなに私を好きなら証拠を見せてよ! この女を殺してちょうだい! そうしたら、エアリスの次に好きになってあげるわ」

(意味がわからない)

 ビアラがそう思った時だった。

「僕がやる」

 そう言って、ロンバートが着ていたジャケットの内ポケットからナイフを取り出した。

「そうよ、ロンバート! 私とエアリスの為に、その女を殺して!」

 オルザベートがビアラに近寄り、彼女の身体を捕まえようとした時だった。

「ああああああっ!」

 叫び声と共に、ロンバートがナイフを両手でつかみ、ビアラの方に向かってきた。

 避けようとしたビアラだったが、すぐに動きを止めた。

 なぜなら、ロンバートがナイフを向けた相手はオルザベートであり、ナイフの切っ先がオルザベートの脇腹を切り裂いたからだった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

処理中です...