酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ

文字の大きさ
22 / 25

6−2 (ビアラ視点)

しおりを挟む
「ロンバート…、どうして」

 オルザベートは横腹をおさえながら、ロンバートを睨む。

 切り裂いたといっても傷は深かった様で、ポタポタと彼女の脇腹から流れる血がカーペットを汚していく。

「君が僕を見てくれないからだ!」

 ロンバートはナイフを持ったまま叫ぶ。
 切っ先からロンバートの手までオルザベートの血が流れていくのがビアラの目にも見えた。
 
(これはまずいわね)

「ロードウェル、もういいでしょう。ナイフを置いて!」
「嫌だ! このまま僕はオルザベートと一緒に逃げるんだ!」
「あなた、彼女を刺しておいて、この状態でどうやって逃げるって言うのよ!?」
「馬車を手配してある。そこに乗せるんだ!」
「馬鹿なの!? 手当しないと失血死するわよ!」

 ビアラの言葉を聞いた、ロンバートの身体がびくりと震えた。

「し、失血死?」
「血を止めなかったら流れ続けるのよ!? 深く考えなくてもわかる事でしょ!?」

(トゥッチなんか、本当は助けたくなんかないけど、見捨てるわけにもいかない)

「トゥッチ、傷を見せて」

 横腹をおさえてしゃがみこんだオルザベートに、ビアラが声を掛けると、オルザベートは彼女を睨みつける。

「嫌よ、誰があんたなんかに!」
「あんたに死なれたら困るのよ。死ぬならエアリスとエドワード様の結婚式を見てからにして」
「…そうよ! …エアリスの結婚式!」
「でしょう?」

 ビアラがオルザベートに近付いていこうとすると、ロンバートが間に立ちはだかる。

「連れてなんて行かせないぞ! そんな事をするならお前を殺してやる!」
「ロードウェル、あんたは本当に馬鹿ね。刑務所に入って、ちょっとは更生したのかと思ったら全然じゃないの」
「うるさい! 大体、この計画はカイジス公爵から認められている」
「…どういう事?」

 聞き返したのはオルザベートだった。

「僕がオルザベートを見つけて、素直に僕と逃げない場合は、無理矢理連れて逃げても良いと言われてる!」
「殺しても良いって言ってたの?」
「僕はオルザベートを殺すつもりなんてない! 本気だって事をわかってほしかったんだ!」

 ビアラが尋ねると、ロンバートはそう言ってから、ソファーに座ったまま、呆然としているオラエルを見て叫ぶ。

「おい、お前! オルザベートを治せ!」
「…っ!」

 オラエルはロンバートの声にハッと我に返った様だったが、すぐに大きく首を横に振る。

「無理だ! 僕は回復魔法は使えないんだ!」
「なんだって!?」

 驚くロンバートを見て、ビアラは頭を抱える。

(馬鹿だとは思ってたけど、ここまで馬鹿だったなんて)

「ロードウェル、あなたは魔法使いに興味がなかったから知らないかもしれないけれど、回復魔法を使える人間なんてごく一部よ。オラエルには使えない」
「そ、そんな!」
「そんな事も調べずに、愛する女性を傷付けたってわけ? 聞いて呆れるわね」

 ビアラは着ていたカーディガンを脱ぐと、ロンバートに向かって投げる。

「早く止血してあげなさいよ。その間に回復魔法を使える人間を呼ぶから」

(まあ、私が回復魔法を使えるんだけどねぇ?)

 そう言って、ビアラが家から出ようとすると、ロンバートが叫んだ。

「止めろ! 人なんて呼ぶな!」
「あら、いいの? 可愛い彼女が死んじゃうわよ?」
「くそ! 殺してやる!」

 ロンバートが怒りの形相でビアラに向かってきた時だった。
 家の扉が蹴り破られ、澄ました顔のエドワードが家の中に入ってきた。

「ビアラ、君は結構、性格が悪いな」
「あら、そうですか? トゥッチよりかはマシだと思いますけど」
「そういうところだ」
「こういう性格なんですよ」

 ビアラが笑うと、エドワードは呆れた様な顔をして彼女を見たあと、外に出る様に促す。

「エアリスが心配してる。元気な顔を見せてやれ」
「はーい!」

 明るい声でビアラは返事をすると、オルザベートの方に振り返って言う。

「残念だったわね。エアリスの結婚式での友人のスピーチは私とノノレイがやらせてもらうから」
「駄目よっ!!」

 オルザベートは叫んで立ち上がろうとしたが、出血が多かったからか、体をふらつかせた。

「オルザベート!」

 ロンバートがナイフを床に置き、彼女の身体を支えて言う。

「悪かったよ! こんな事になるなんて思わなかった! だけど、どうしても君に僕を見てほしかったんだ!」

(これじゃあ、いつまでたっても止血しそうにないわね…)

「エドワード様、ロードウェルをお願いできます? トゥッチの止血をします」
「ああ」

 エドワードは頷くと、オルザベートを支えていたロンバートの横にしゃがんで言う。

「大人しくしてろ。余計な事をすると、お前は子供に会えずに人生が終わるぞ」
 
 エドワードの言葉にロンバートが頷くのを確認してから、ビアラはオルザベートの横にしゃがむと回復魔法をかけた。
 
「傷は塞いだけど、血は戻らないからね」
「あんたなんかに…、助けられるなんて…」
「はいはい。恨むなら、ロードウェルを恨んでね」

 ビアラが立ち上がった時だった。

「あんたなんて殺してやる!」

 ロンバートが置いていたナイフを手に取り、ビアラの足にナイフを突き立てようとしたが、ビアラには避けられ、エドワードに体を床におさえつけられた。

「放しなさいよ!」
「オルザベート!」

 オラエルとロンバートが叫んで、彼女を助けようとしたが、家の中に入ってきた騎士に取り押さえられた。

(わざとナイフを放置しておいたんだけど、上手くひっかかってくれたわね)

「短絡的で助かったわ。あなたには殺人未遂の現行犯で捕まってもらうわね?」

 中に入ってきた警察官にエドワードがオルザベートの身を任せたのを確認した後、ビアラはオルザベートにそう言うと、外で待っているエアリスの所へ向かう事にした。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

処理中です...