必要ないと判断したのはそちらでしょう?

風見ゆうみ

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15 天罰が下りますよ?

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「そ……、そんな! フェンリル!?」

 スカミゴ様は悲鳴を上げて、尻もちをついた。

「何っ!? 何なのっ!?」
「どうした、チーチル!?」

 サウロン陛下がチーチルの悲鳴を聞いて、部屋から出てきた。
 
「うわあああっ! 化け物!」

 勇ましく出てきたのはいいものの、チワーの姿を見て、彼も悲鳴を上げてチーチルにしがみつく。

 チワーの毛は逆立ち、つぶらだった目は細くつり上がり、牙をむき出しにしていた。

「チワー! 落ち着け! リンファは俺が守るから!」
「落ち着いてなどいられぬ!」

 ランが叫んで、わたしをスカミゴ様から守るように立ったけれど、チワーはスカミゴ様に近づこうとする。

 チワーは聖なる力のチャージが上手くいったようで、中々、チワワ化してくれない。

「ラン、聖獣が人に危害を加えたらどうなるの? 本当に魔獣化してしまうの?」

 彼の腕をつかんで尋ねると、ランは辛そうな顔をして答える。

「たぶん、そうだろうな」
「それは絶対に駄目よ!」

 叫んだあと、チワーにお願いする。

「チワー! いつもの可愛いチワーに戻って!」
「リンファ! こやつは、われの両親を死に追いやったのじゃぞ!」
「違うですのう! 死んだのは魔物に殺されたからですのう!」

 スカミゴ様は尻餅をついたまま、首を横に振る。

「こやつ! そんな嘘をっ!」
「チワー! あなたは、まだわたし達と遊んでくれるんでしょう!?」
「そうだぞ、チワー! お前が言ったんだろ!」

 わたしとランの言葉を聞いて、チワーの怒りが少しだけおさまったように思えた。
 すると、スカミゴ様が立ち上がる。

「聖獣様! 悪いのは陛下ですのう! 陛下の命令ですのう!」
「は? 何を言っているんだ!?」
「そんな話を信じるわけがないじゃろう!」

 スカミゴ様は自分の罪を当時、子供だったサウロン陛下に押し付けようとした。
 そんな話にチワーが騙されるはずもなく、また怒りが再燃してしまった。

 スカミゴ様がチワーのご両親の死に関わったのは間違いない。
 ということは……。

「ラン」
「どうした?」
「スカミゴ様を羽交い締めにしてくれない?」
「……わかった」

 本来なら聞き返してきてもおかしくない話だけど、ランはわたしに考えがあるのだとわかってくれたみたいだった。

 ランは素早くスカミゴ様を羽交い締めにし、スカミゴ様が逃げ出せないようにしてくれた。

「チワー、見てて!」

 スカミゴ様の額はかなり大きくて前髪もない。
 だから、ずっと、名前で気になっていたことを額に指で書いてみる。

「ぎゃああっ! 痛い! 痛い!」

 スカミゴ様が絶叫する。

 彼はどうやら悪い人だということは間違いないようで、彼の額に、わたしの指で書いた文字が刻印のように浮かんだ。

『ゴミカス』

「ゴミカス……」

 チワーがスカミゴ様の額に書かれた文字を見て呟いた瞬間、チワワの姿に戻った。

 わたしとランはその姿を見てホッとし、チワーは涙を流しながら、わたし達の元に走ってくる。

「ランディス~! リンファ~! われが悪かったのじゃ~!」
「大丈夫よ、チワー。あなたは悪いことはしていないわ。だけど、スカミゴ様、あなたは違うようですわね?」

 冷ややかな視線を送ると、スカミゴ様が叫ぶ。

「私が何をしたと言うんですかのう? 証拠はありませんのう?」
「何をしたかわからないが、証拠はあるだろ」

 ランの言葉に頷いてから言う。

「そうです。わたしに触れられて火傷してますでしょう? 罪人だという証です。まだ、確かめ足りないようでしたら、違うところに触れますよ?」
「ひいっ!」

 スカミゴ様は悲鳴を上げたあと、粗相をした。

 彼のズボンに染みができ、どんどん大きくなる。

「げ、最悪だな!」

 さすがのランも彼から離れて、わたしの横にやって来た。

「いやんっ! お漏らしですかぁっ!? 怖いのはわかりますけどっ、我慢しなくちゃ駄目ですよっ!」

 チーチルの緊張感のない声が廊下に響いた。



 結局、スカミゴ様は警察に捕まった。
 色々と調べれば出てきそうなので、彼とはもう二度と会うことはなさそうだった。

 スカミゴ様はサウロン陛下を亡き者にして、自分の孫を国王にしようとしていたらしい。

 わたしとラン達が国に帰ろうとすると、サウロン陛下が引き止めてきた。

「待て、リンファ! 聖女の仕事はどうするのだ!」
「セーフス国からでも出来ますから」
「待ってよっ、リンファッ! 一緒に暮らすって約束はっ!?」
「申し訳ございませんが、チーチル様、彼女は俺と結婚するんです」

 ランがわたしの肩を抱いて微笑んだ。

「嘘っ!? いつの間にっ!? リンファったらっ!」
「おい、リンファ! 裏切るつもりかっ!?」
「裏切るも何も、わたしを必要ないと判断したのはそちらでしょう?」

 にこりと微笑み、チワーを撫でながら続ける。

「チワーのこと、人には言わないでくださいね? 言えば、天罰がくだりますよ?」
「わ、わ、わかった……」

 サウロン陛下は、天罰という言葉に声を震わせて頷いた。




 そして2年後、わたしとランは結婚し、その次の年には子供が生まれた。

 そして、赤ちゃんの傍らには、もちろんチワーがいた。

「早く大きくなるのじゃぞ。そして、われのことはチワーお兄様と呼ぶのじゃぞ」

 赤ちゃんの顔に自分の顔をすりよせて言うチワーと、それに喜ぶ赤ちゃんが可愛くて、ランとわたしは頬をほころばせたのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

駆け足の終わりになってしまい、申し訳ございません!
連載を止めて、エタった?と思われるよりはいいかなということにしました。

サウロンのざまぁを書きたいのと、まだまだ、チワーとお別れするのが寂しいので、続きを書くと思いますが、一度、ここで完結とさせていただきます。
いつか、こっそり、完結を外して書いておるかもしれません。
もし、そんな時がありましたら読んでいただけると嬉しいです!


そして、新作の「こんなはずじゃなかった? それは残念でしたね」や、他作品でお会いできますと嬉しいです。

感想やエール、しおり、励みになりました。
お読みいただき、本当にありがとうございました!
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感想 26

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みんなの感想(26件)

東堂明美
2023.10.21 東堂明美
ネタバレ含む
2023.10.21 風見ゆうみ

新作と書籍作業などが落ち着きましたら、チワーを書きたいなと思っております✨
応援していただけるとのことで嬉しいです!

最後までお読みいただきありがとうございました✨

解除
深川彩琴
2023.09.25 深川彩琴
ネタバレ含む
2023.09.25 風見ゆうみ

ーがないということは、チワちゃんだしょうか(*^^*)
スムースも可愛いですよね💕
チワーはかなり昔のCMに出ていたく◯ーちゃんの外見のイメージです。

そして、チーチルへの感想、ま、まさにといった感じですね!
癒やしてくれるのは心ではなく怪我と病気だけでしょうか……(;・∀・)

チワーへのご希望があるので、何かで出そうと思っております。
その時は完結を一時外して、ご連絡させてもらいますね!

最後までお読みいただきありがとうございました。

解除
howdoyoulike
2023.08.29 howdoyoulike

あら?もう、終わっちゃったの?
面白かったです。ありがとうございます。
お疲れさまでしたー。チワー可愛かった。
勇ましいチワーももっと見たかった。

チワー、カムバック。続編期待してます。

黒猫も大好きですが、ワンコも大好きなので。
個人的な希望ですが。
そして、小型犬は男の子がよい。

2023.08.30 風見ゆうみ

他に書きたいものができてしまい、中途半端に更新を止めるよりかと思い、終わらせました。
落ち着いたら、続編を書くように頑張ります(*^^*)

楽しんでいただけたのなら嬉しいです!
他作品でも楽しんでもらえるように頑張ります!

小型犬は男の子が(*^^*)

最後まで、お読みいただきありがとうございました✨

解除

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