幸せなお飾りの妻になります!

風見ゆうみ

文字の大きさ
21 / 69

21 旧友との再会

しおりを挟む
「アイリスは街に着いたら、行きたいお店とかはあるのかな?」

 嫌な話題を変えるために、リアム様が明るい話題を振ってくれた。

「そうですね。リアム様が予定してくださっている店でかまわないのですが、普段使うものを買いたいです。お小遣いもいただいていますので、そちらのお金を使って買い物したいと思います」
「アイリスがお金の心配をする必要はないよ。ただ、今考えたら、誰か女性を連れてくるべきだったな。女性しか入れなかったり、男性が入りづらい場所もあるからね」
「そう言われてみればそうですね」

 トーイがリアム様の言葉に頷いた。

 実は、今までどうしようか悩んでいたことがあった。

 誰かに頼んでもいいのだけれど、下着はなぜか自分で選びたかった。

 だから、いつか買いに行こうと考えながらも、言い出せなくて今に至る。

 それを今、伝えても良いかしら?

 でも、今日はデートの日なんだから、リアム様と一緒に行動したほうが良いわよね。

 女性の下着を一緒に選ぶ男性もいるけれど、私とリアム様はそういう関係でもない。

 1人で納得していると、リアム様が不思議そうな顔で私を見つめているのに気が付いた。

 馬車が停まっていて、目的地に着いていて、降りようとしない私を不思議に思ったみたいだった。

「あ、あの、申し訳ございません。考えてみましたが、今日はリアム様と一緒に出かけられるなら、それで良いです」
「本当に?」

 街の中央にある噴水の前で馬車からおりて、リアム様に尋ねられた時だった。

「アイリス!」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこにいたのは、男爵家時代ではただ1人の友人と呼べる子爵令嬢のサマンサがいた。

「え? サマンサ!?」
「やっぱり、アイリスね!」

 サマンサは赤毛の腰まであるウェーブのかかった長い髪とピンク色のドレスのすそを揺らしながら、こちらに向かって手を振っている。

 彼女とは学園に通っていた頃に知り合い、もう10年以上の付き合いだ。

 幼い頃、何も考えずに彼女にした悪戯をきっかけに、そんな事をするなんておかしいと、私に気付かせるきっかけを作ってくれたのも彼女だった。

「久しぶりね、アイリス! あなたが突然いなくなったって、お父様から聞いた時は本当にビックリしたのよ!」

 サマンサは駆け寄ってくると、愛らしい笑顔を見せて言った。

「ごめんね。急遽決まったものだから、すぐには連絡が出来なかったの」
「本当に心配したのよ! でも、すぐに社交界であなたとマオニール公爵閣下が結婚したって話が流れてるって聞いたの。連絡を取りたかったけれど、あなたから連絡が来るまで待とうと思って待っていたのよ。手紙を送って、友達じゃないなんて言われたらショックだから」

 サマンサが私の手をつかんで冗談ぽく笑った時だった。

「アイリス。お友達に時間があるのなら、せっかくだし、2人で美味しいものを食べにいっておいで」

 リアム様が微笑んで私に話しかけてきた。

 その時に、やっとサマンサは、リアム様の存在に気が付いたようで、飛び跳ねるようにして後退り、カーテシーをする。

「マ、マオニール公爵閣下!? お目にかかれて至極光栄に存じます」
「アイリスの友人に会えて僕も嬉しいよ。アイリスとはこれからも引き続き、仲良くしてあげてほしいな」
「はっ! はい! もちろんです!」
「ありがとう。あ、アイリス、ランチだけじゃなくスイーツも食べられる店を予約してるから、そこで2人で好きなものを食べればいい。友人と久しぶりにゆっくりしたらいいよ」
「で、ですが!」

 サマンサと話せるのは嬉しいけれど、今日はリアム様とデートの日なのに!

「いいから。その間、僕はトーイと一緒に仕事をしてくるよ」
 
 リアム様は焦っている私の頭を優しく撫でて言ったあと、今度はサマンサに言う。

「僕の妻の相手をお願いできるかな? 予約している店があるんだ。僕の妻と仲良くしてくれる、お礼になるかはわからないけど、好きなものを遠慮なく食べてくれたらいいから」
「あ、ありがとうございます!」

 サマンサがぺこりと頭を下げると、リアム様は私達に向かって微笑んでから、私達を予約している店まで連れて行ってくれたあとは、3時間後に迎えに来ると言って、トーイ様と護衛の騎士を2人だけ連れて行ってしまわれた。

「本当にマオニール公爵閣下と結婚していたのね」
「う…、うん、そうなの」

 頷くと、サマンサは目をキラキラさせる。

「馴れ初めを聞かせてくれるわよね!?」
「……う、うん」

 お飾りの妻だとは言えないから、話せることだけ、正直に話そうと思った。

しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

【完結】ご期待に、お応えいたします

楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。 ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。 小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。 そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。 けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

処理中です...