幸せなお飾りの妻になります!

風見ゆうみ

文字の大きさ
22 / 69

22 契約違反?

しおりを挟む
「さっきまではアイリスについての話は半信半疑だったんだけど、マオニール公爵閣下との結婚は本当の話だったのね! しかも、仲良くやっているみたいだし、本当に良かったわ!」

 興奮冷めやらぬといった感じで、サマンサが自分の胸を両手でおさえながら言った。

 白い頬がピンク色に染まっていて、とても可愛らしい。

 リアム様が予約をしてくださっていたお店は、貴族しか入れない、セキュリティのしっかりした店で個室しかない店だった。
 予約時間よりも早く着いてしまったけれど、お店の人は歓迎してくれた。

 公爵夫人相手に嫌な顔が出来ないだけかもしれないので、申し訳なく思った。

 個室に案内され、サマンサと私は、手渡されたメニューに書かれた金額を見て、注文を躊躇していたけれど、毒見をしてくれる人がリアム様のオススメを教えてくれたので、大人しくそのコース料理を頼んだ。

 オーダーを終えたあと、食事が運ばれてくるのを待っている間に、サマンサに謝罪する。

「ごめんね、サマンサ。なんて連絡すれば良いのか迷っていたのよ」
「かまわないわ。公爵夫人って、とても忙しそうだものね。そうだわ。公爵夫人に、こんな態度を取るなんて失礼ですよね。申し訳ございません」
「やめてよ。公の場ならまだしも、ここには私とサマンサしかいないんだから、今までと態度は変えないで」

 サマンサは細かいことは気にしない、おおらかな性格なので、いつも精神的に助けてもらっていたのを思い出す。

 だから、今まで通りは難しくても、せめて2人きりの時は友人として接してほしかった。

「では、今はお言葉に甘えるわね。それにしても、一体何があったの? いきなり、マオニール公爵閣下と結婚だなんて。それに、あなたの事で、色んな噂が流れてるわよ?」
「色んな噂って、どういう事?」

 聞き返すと、サマンサは困った顔をして聞いてくる。

「アイリス、何が本当なのかわからないし、これは聞いた話であって、私が言ったわけじゃないから怒らないでね?」
「もちろんよ」

 私が頷いたのを確認してから、サマンサが教えてくれたのは、私とリアム様の結婚について社交場で流れている、いくつもの噂だった。

「社交場では、色々な噂が流れてるわ。1つはアイリスの両親や婚約者が、マオニール公爵閣下のパーティーで閣下に迷惑をかけたから、迷惑料を請求された。その迷惑料を支払えないかわりに、マオニール公爵閣下が、あなたを妻にしたと」
「……」

 間違ってはいない。
 あの時、たくさんの人がいたから、誰かが話をしてしまったんでしょうね。

「でもそれは、マオニール公爵閣下があなたに一目惚れをしたから、という前提でもあるみたいだけれど」

 リアム様は、そういう風に噂を流すと言われていたから、事実に嘘を混ぜられた感じかしら。

「他にはどんな噂があるの?」
「元婚約者のロバート様はあなたの両親があなたをお金目当てでマオニール公爵閣下に売りに出そうとしたから、自分はそれを拒んだって。そうしたら、マオニール公爵閣下に脅されたって言っていたみたいよ」

 サマンサはそこで言葉を区切って苦笑する。

「それに関しては、マオニール公爵閣下から苦情がきたみたいで、ロバート様はそれ以降は何も言わなくなったらしいけれど」
「間違っているような、そうでないような話ね」

 小さく息を吐いて答えると、サマンサは苦笑したまま話を再開する。

「あなたの両親は自分達のやったイタズラをマオニール公爵閣下が気に入って、その血を継いでいる自分の娘を欲しいと言い出したって言っているわ。アイリス、どれが本当なの? あなたの両親が言っていることだけは真実ではないと、私は勝手に思っているけど」

 サマンサが言い終えたところで、ちょうど料理が運ばれてきた。
 だから、料理を美味しくいただきながら、サマンサに答える。

「私の家族が言っているのは本当の嘘ね。どうして、そんな嘘が平気でつけるのかしら。そんな事をしたらどうなるかってことがわからないの?」
「あなたのご両親も妹も本当に変わっているものね。こんなことを言っては失礼だけれど、あまり常識もなさそうだし」

 サマンサが大きく息を吐いて続ける。

「あなたの家族のことも気になるけれど、プリステッド公爵令嬢の話も気になるのよね」
「プリステッド公爵令嬢が何か言っているの?」

 慌てて尋ねると、サマンサは首を縦に振る。

「マオニール公爵閣下は自分と結婚するつもりだったのに、アイリスに奪われてしまったって。でも、その話に関しては、信じている人は少ないわ」
「そうなの?」
「ええ。どちらかというと、アイリスに奪われたのではなく、フラれただけなんじゃないかと陰で言われているわ」

 私達以外、誰もいないのに、サマンサは小声で言った。

「ごめんね、サマンサ」
「……どうしてアイリスが謝るの?」
「色々と心配させてしまって……。もっと早くに連絡すべきだったわよね?」

 肩を落とした私に、サマンサは笑顔で言う。

「……そうね。でも、今は気にならないわ。だって、あなたはとても幸せそうだし、私はそんなアイリスと美味しいご飯を食べれて幸せよ」
「ありがとう、サマンサ」
「良いのよ。アイリスは本当に綺麗になったわ。マオニール公爵閣下に恋をしているのね、って、夫婦なのだから、当たり前なのかしら?」

 サマンサの言葉を聞いて、私は動きを止める。

「どうしたの、アイリス?」
「あ、あの、恋って、どういうこと?」
「え? もしかして、自覚してないの? それとも本当に恋じゃないの?」
「え? 恋?」

 動揺してしまい、上手く答えることが出来なかった。

 サマンサから見たわたしは、リアム様のことを好きなんだとわかったと言われて、どうしたら良いのかわからなくなった。

 恋なんてしてしまったら、契約違反じゃないの?

しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

【完結】ご期待に、お応えいたします

楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。 ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。 小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。 そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。 けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

処理中です...