幸せなお飾りの妻になります!

風見ゆうみ

文字の大きさ
23 / 69

23 妹の襲撃

しおりを挟む
 動揺もしたけれど、サマンサとの時間は本当に楽しくて、時間は、あっという間に過ぎてしまった。

 名残惜しいし、まだ話し足りないけれど、今度はどちらかの家で、もっとゆっくり話そうと約束して別れた。

 リアム様はまだ仕事中のようで、護衛騎士の人と一緒に待ってくれていたトーイに、話が終わった旨を伝えた。

 トーイがリアム様を呼びに行ってくれるというので、その間に下着を見に行きたくて、店の名前だけ伝えると、トーイはその名前を聞いただけで察してくれたようだった。

「では、どうしましょうか。リアム様には、ゆっくり向かうようにしていただきましょうか?」
「そうですね。待っておられると思うと、ゆっくり選べないので」
「承知しました」

 トーイは頭を下げると、護衛騎士は私に付けたまま歩いていく。
 その姿を見送ったあと、ここからそう遠くない女性用の下着専門店に向かった。
 
 店に入り、自分好みの下着を物色しつつ、店内にいる他のお客さんを見てみると、夫婦なのだろうか、男性と一緒に下着を選んでいる若い人達が何組かいた。

 高位貴族ともなると、個室に良さそうなものを持ってきてもらうみたいだけれど、そうでない場合は、こうやって2人で選ぶのが今は人気らしかった。

 仲が良いのは羨ましいけれど、私は自分一人で選びたいタイプだわ。
 というよりか、私には選んでくれる人もいないので、そういう人が出来ていれば違ってくるのかしら?

 そんな事を思うと、先程の、サマンサとの会話を思い出す。

 サマンサのおかげで、自分の気持ちには気付けたけれど、それでは駄目だということも自覚した。

 リアム様は私が彼を好きにならないと思ったから、私を選んでくれたんだもの。
 この気持ちは、これ以上大きくさせてはいけないし、忘れていかなければいけない。

 下着を選びながら、そんなことを考えていた時、とんとんと誰かに肩を叩かれた。

 無意識に振り返り、相手が誰だか確認した瞬間、驚きで一瞬、声が出せなかった。

「お姉様、お久しぶりね!」

「コ、ココル…。どうしてここにいるの?」
「じゃーん、驚いた!? お姉さまを驚かせようとして待っていたの! マオニール公爵領の繁華街で下着専門店はこの店しかないから!」
「どういう事…? どうして、ココルがそんな事を知ってるの?」
「彼が教えてくれたのよ」
「……彼? ロバートのこと?」

 尋ねると、ココルは胸を張り、笑顔でそれを否定する。

「違うわ! 実はね、私、恋人ができたの」
「恋人!?」

 初耳だったので、驚いて尋ねると、ココルはうっとりした表情で言う。

「ええ。昨日くらいに、この街に家族でやって来たのよ。その時に、とても良い人がいたの。だから付き合ってあげようとかと思ってるのよ」
「付き合ってあげようって……。恋人ができたわけではないのね?」

 眉を寄せて聞き返すと、ココルは頬をふくらませる。
 
「私が狙っているんだから、恋人になるに決まっているじゃない。それにしてもお姉様だけずるいわ。こんな良いお店に来れるなんて。私も贅沢したい! だから、恋人が出来たお祝いにお金をくれない? あ、お祝いをもらえないなら、お姉さまのお家に住まわせてよ!」
「馬鹿な事を言わないで!」

 元々、常識知らずな子だとは思っていたけれど、今回については酷すぎる。

「ココル、あなた、自分が何を言ってるのかわかってるの? 私がいなくなってから、あなたはお父様達にどんなことを吹き込まれたのよ!?」

 彼女のイタズラには困ってはいたけれど、ここまで訳のわからないことを言う子ではなかった。

 そう思って聞くと、ココルは首を傾げる。

「うーん。そうね。別に、お父様に何か言われたとか、そんなことではないわね。ただ、ずーっとお姉様のことが羨ましいって思い続けていたくらい」

 ココルはそこで言葉を区切り、私の耳元に口を持ってきて続ける。

「お姉様のことを知っている人はみんな、お姉様よりも私のほうが可愛いって言うの。今回の彼だって、そう思うと思うわ。そうよ、それに、マオニール公爵閣下だって、パーティーの時にはあんなことを言っていたけれど、もう機嫌は直っているんじゃない? だから、私を見たら私を選ぶはずよ」
「リアム様は、その時の機嫌で人のことをどうこう言うような人じゃないわ。あの時の言葉がリアム様の本心よ」
「お姉様、だから言っているでしょう。お姉様と私のことを知っている男性は、皆、私のほうが良いって言うんだって」
「どうせ、あなたのことを好きだと言う男性にしか聞いていないのでしょう?」
「そんなことはないわよ! というか、お姉様、本当にマオニール公爵閣下に愛されてるの? パーティーの時はそんな風には見えなかったけど? だって、あの時に初めて会ったんでしょう?」

 ココルのくせに痛いところをついてきた。

 私がお飾りの妻だなんてことは知らないのでしょうけれど、きっと、私なんかがリアム様に愛されるわけがないと思っているからだ。

 そして、それは間違っていない。

「あなたに、どうこう言われたくないわ」
「家族なんだから、何か言ってもいいはずよ!」
「私にとってあなたはもう家族じゃない!」

 ここがお店の中だという事を忘れて叫んでしまった。

 そのせいで、店内が一斉に静まり返り、視線が私達に集まるのを感じた。

「騒がしくしてしまい、申し訳ございません。ココル、ご迷惑だから外へ出ましょう」

 店の人や店内にいる他のお客様に頭を下げたあと、ココルを促すと、彼女は首を横に振る。

「何をムキになってるのよ。もしかして、図星だった? あ、そういえば、全員ではなかったわ。ロバートはお姉様の事を未だに忘れられないみたいよ? お姉様、ロバートとよりを戻してさしあげたら? 私と彼は何もないわ。だって、本当に悪戯のために協力し合っただけなんだから」
「あんなのは悪戯なんかじゃないわ」

 ココルが一向に店から出る気配がないので、彼女が動き出すのを待たずに、店の出入り口に向かって歩き出す。

「お姉様、そんなに私にマオニール公爵閣下をとられるのが怖いの? まあ、私のほうが可愛いし、男性に人気もあるから、気持ちはわからなくはないけど」
「そんなんじゃないわ。 それに、リアム様は…、リアムはあなたなんか好きになるようなバカじゃないもの」

 リアム様がココルにバカにされている様な気がして、立ち止まってココルの方に振り返り、大きな声を出さないよう、怒りを押し殺して静かに言葉を返した。
 すると、ココルがなぜか、私の後ろを見て、ぽかんと口を大きく開けた。

「……?」

 意味がわからなくて、振り返ろうとした時だった。

「アイリス、よく出来ました」

 それと同時、後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれた声は、相手が誰だか聞かなくてもわかった

「リ……、リアム様」

 いつから、話を聞いてたの!?
 しかも、手がお腹に回されているし、それに、本当に近いです!!
しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】金貨三枚から始まる運命の出会い~家族に虐げられてきた家出令嬢が田舎町で出会ったのは、SSランクイケメン冒険者でした~

夏芽空
恋愛
両親と妹に虐げられ続けてきたミレア・エルドール。 エルドール子爵家から出ていこうと思ったことは一度や二度ではないが、それでも彼女は家に居続けた。 それは、七年付き合っている大好きな婚約者と離れたくなかったからだ。 だがある日、婚約者に婚約破棄を言い渡されてしまう。 「君との婚約を解消させて欲しい。心から愛せる人を、僕は見つけたんだ」 婚約者の心から愛する人とは、ミレアの妹だった。 迷惑料として、金貨三枚。それだけ渡されて、ミレアは一方的に別れを告げられてしまう。 婚約破棄されたことで、家にいる理由を無くしたミレア。 家族と縁を切り、遠く離れた田舎街で生きて行くことを決めた。 その地でミレアは、冒険者のラルフと出会う。 彼との出会いが、ミレアの運命を大きく変えていくのだった。

【完結】ご期待に、お応えいたします

楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。 ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。 小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。 そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。 けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...