幸せなお飾りの妻になります!

風見ゆうみ

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第二部

7  宿屋での出来事

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 それから、なんだかんだと慌ただしくしているうちに日にちは過ぎ、私達は隣国に向かって出発した。
 元々はお飾りの妻として結婚したため、新婚旅行に行けていなかったというのもあり、新婚旅行も兼ねて、旅の道中は観光しながら向かうことになった。
 だから普段なら、5日ほどでいけるところを8日間かけて行くことにした。
 といっても、あまり、ゆっくりも出来ないので、観光というよりかは、その土地土地の美味しいものを食べることをメインにすることにした。

 宿の部屋は別々にはしてもらえず、しかもダブルベッド1つしかなかったため、否が応でも一緒に寝ないといけなかった。
 たぶん、一緒のベッドに眠れるように、リアムがわざとこういう部屋を予約しておいたのだと思う。
 だって、どの宿もツインが予約でいっぱいだなんて、おかしい気がするもの。
 その内の何日かは、私の寝相の悪さで彼を困らせたようで、朝起きると、彼がとても眠そうにしていたので、よく眠れなかったんだと思う。

 一度、彼の急所に寝てる間に踵落としをしてしまったことがあって、その時はリアムの叫び声でさすがに目が覚めて、私の寝相の悪さが発覚した。
 まあ、昔からベッドから落ちて目を覚ますは何度かあったんだけれども……。

 でも、寝不足に関しては私のせいではないと思うことにした。
 だって、そうなるとわかっているのに、ダブルの部屋を選んだのはリアムなのだから。

 私は家族のせいで警戒心が強くなっていて、ベッドに動きがあると目を覚ましてしまう。
 それなのに、自分の寝相の悪さはどうにもできないのよね……。

 そして、隣国であるアラルフェイトの城下に着いた日の朝も、リアムは眠そうにしていた。
 そんな彼に、宿で身支度をしている時に問いかける

「ごめんなさい。私、昨日も暴れてましたか?」
「昨日は大丈夫。疲れて眠ったあとのアイリスが可愛くて、ずっと見てたら寝不足に」
「信じられません! 何を考えてらっしゃるんですか! それでそんなに眠そうにしているのなら、帰りは別々の部屋にしてもらいますよ!」

 公務らしい公務ではないとはいえ、他国の王族に会う日にそんなことになるだなんて!
 
 ぷい、とそっぽを向くと、リアムが前に回ってきて言う。

「アイリス、ごめん。これからは気を付けるから、機嫌なおしてくれない?」
「機嫌は悪くなっていません。リアムのためを思って言ってるんですよ?」
「僕のことを思うなら、別々の部屋にするのはやめてほしいんだけど」
「家に帰ったら同じ部屋ですから」
「今回の旅行って、新婚旅行も兼ねてるんだよね? 別々の部屋にするのはおかしいんじゃないかな?」

 尤もなことを言ってきたけれど、良い宿に泊まっているとはいえ、声が隣の部屋に聞こえないとは限らない。
 声を我慢すれば、私が声を上げざるを得ないくらいにまで攻めてくるのだから、本当にエッチだし意地悪だ。
 だから、我慢ができない人には強硬な手段を取るしかないわ。

「では、新婚旅行はもう終わりということにしましょうか」
「……アイリス、最近、厳しくない?」
「リアムがあんなことをするからです!」

 昨日の夜のことを思い出して、恥ずかしくなって首を横に振って頭を切り替える。

「とにかく駄目です。妻としては、旦那様の健康管理を怠るわけにはいきません!」
「ごめんって」

 リアムが抱きしめてきて、額や頬、最終的には口にキスしてくるので、顔を押しやってから言う。

「駄目です。反省して下さい。ちゃんと反省したなと思ったら考えます。次の日の仕事に支障をきたすなんてありえません!」
「……わかりました」

 リアムは私からはなれて頷くと、がっくりと肩を落とした。
 そんな彼を見て、私は思わず眉を寄せる。

「リアムは最近、おかしいです」
「何が?」
「昔はこんな人じゃなかったじゃないですか。人を愛せないって言ってたのに……」
「アイリスを好きになってから変わったんだよ」

 照れる様子もなく、にっこりと微笑んで言われてしまった。
 
「あ、ありがとうございます」
「アイリス、顔が真っ赤」
「言われなくてもわかります!」

 今日からは城内にある客室に泊まることになるので、トランクケースから出していた荷物を、トランクの中に入れる作業に取りかかった。


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