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20 公爵令息の来訪 ③
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「や、やめろ、フララ! 失礼だぞ!」
「だって、お礼はしないといけないでしょう?」
にこりと微笑んだフララさんにトータムは焦った顔で答える。
「ラフリード様はそんなことは求めてない!」
「じゃあ、お兄様はどうして求めてきたの?」
「そ、それはっ……!」
私とラフリード様の視線に気がついたトータムは、フララさんの両肩を掴んで懇願する。
「頼むから今は黙っていてくれ」
「わかりましたぁ」
フララさんは頬を膨らませると、ラフリード様にカーテシーをする。
「お待ちしておりますので、私に会いたくなったらいつでも呼んでくださいね」
「フララ! いい加減にしろ!」
トータムに押し出されるようにフララさんが部屋から出ていくと、一気に室内は静まり返った。
「……あの、申し訳ございませんでした」
戻ってきたトータムが口を開いた時、遠くから雷鳴が聞こえてきた。窓の外を見ると、かなり暗くなっていて雨脚が強くなり始めていた。
「ラフリード様、今日はこちらに滞在してください。雷の中の移動は危険です。部屋をご用意いたしますので、少々こちらでお待ちください」
トータムは早口で言い終えると、逃げるように部屋から出ていった。二人きりになってしまったため、どうしようかと考えた時、ラフリード様が話しかけてきた。
「なかなか離婚できないようだな」
「お恥ずかしい話です。しっかりした証拠を掴みたくて、この家に留まっていますが、彼らも警戒しています」
「ビレディ侯爵が離婚しない理由はなんなんだ?」
「フララ様との浮気を許し、それでも妻でいてくれる人がほしいようです。私にしてみれば迷惑ですので他を当たってほしいものですけど」
「見つからないとわかっているから、君にしがみついているんだろう。もしくは、彼女に飽きてきたか」
ラフリード様が言うには、妻と遊び相手は別ものだという貴族が多いらしい。
「妹だから再婚できないと思い込んでいるだけじゃないということですね」
人を馬鹿にするのも大概にしてほしいわ。
「そうだ。ビレディ侯爵が帰って来るまでに渡しておく」
そう言って、ラフリード様が私に手渡してくれたのは、ウララ様についての報告書だった。
「ありがとうございます」
数枚の紙だったので小さく折りたたんで、ラフリード様に見えないように背を向けてから、胸元に手を突っ込み服の中に紙を押し込んだ。
向きを戻すと、ラフリード様は眉根を寄せる。
「真実を知ってどうするつもりかはわからない。ただ、馬鹿なことはするなよ」
「わかっています」
今の言葉で、義父の死にウララ様が絡んでいるのだとわかってしまった。
私が犯罪に走らないように忠告してくれているのでしょう。
「……ウララ様たちにかかわらなければ、私や義父は幸せになれていたのでしょうか」
「それはあなたが判断することで、俺がどうこう言える立場ではない」
窓にたたきつける雨音や風の音が強くなり、部屋の中にも大きな音が響く。窓に目をやった瞬間、閃光が走り、数秒後には雷鳴がとどろいた。
「殺人事件でも起こりそうなシチュエーションですね」
「殺人事件でも起こりそうなシチュエーションだな」
私とラフリード様の声が揃い、思わず顔を見合わせた。
******
特に密室殺人などが起こるわけでもなく、穏やかな朝を迎えた。
窓を開けて外を見ると、昨日の雨など嘘のように空は晴れ渡っているが、地面に目を向けるとたくさんの水たまりができていた。
夜中のうちに雨は止んだようだが、大粒の雨だったのでぬかるんでいる道が多そうだ。
それでも出発するというラフリード様を朝早くから見送ろうと、私やトータム、フララさんやウララ様がエントランスホールに集まった。
「世話になった。ありがとう」
「困った時はお互い様です! これで、以前、ジゼル公爵家のお部屋を借りたことについて色々と言わないでくださいね」
トータムが何か言う前に、フララさんが笑顔で言うと、ラフリード様は不機嫌そうな顔になる。
「もう二度とうちには来ないでくれ」
「そんなあ」
「フララ、もうやめるんだ」
トータムがフララさんの相手をしている間に、ラフリード様が小声で話しかけてくる。
「危険が及ばないとは限らない。浮気の証拠は諦めて家を出たほうが良いだろう。住む所がないのならファルナを頼れ。話はつけておく」
「ありがとうございます」
「では失礼する」
「お気をつけて」
ポーチでラフリード様の乗った馬車が見えなくなるまで見送っていると、トータムが睨みつけてきた。
「ミアリナ、余計な話はしていないだろうね」
「余計な話なんてしていないわ」
冷たく答えてから、私は厨房に向かって歩き出す。
フララさんの我慢もそろそろ限界を迎える頃だ。もう少しでここを出れそうなので、報告書に書かれていたウララ様のことについて確認することにした。
「だって、お礼はしないといけないでしょう?」
にこりと微笑んだフララさんにトータムは焦った顔で答える。
「ラフリード様はそんなことは求めてない!」
「じゃあ、お兄様はどうして求めてきたの?」
「そ、それはっ……!」
私とラフリード様の視線に気がついたトータムは、フララさんの両肩を掴んで懇願する。
「頼むから今は黙っていてくれ」
「わかりましたぁ」
フララさんは頬を膨らませると、ラフリード様にカーテシーをする。
「お待ちしておりますので、私に会いたくなったらいつでも呼んでくださいね」
「フララ! いい加減にしろ!」
トータムに押し出されるようにフララさんが部屋から出ていくと、一気に室内は静まり返った。
「……あの、申し訳ございませんでした」
戻ってきたトータムが口を開いた時、遠くから雷鳴が聞こえてきた。窓の外を見ると、かなり暗くなっていて雨脚が強くなり始めていた。
「ラフリード様、今日はこちらに滞在してください。雷の中の移動は危険です。部屋をご用意いたしますので、少々こちらでお待ちください」
トータムは早口で言い終えると、逃げるように部屋から出ていった。二人きりになってしまったため、どうしようかと考えた時、ラフリード様が話しかけてきた。
「なかなか離婚できないようだな」
「お恥ずかしい話です。しっかりした証拠を掴みたくて、この家に留まっていますが、彼らも警戒しています」
「ビレディ侯爵が離婚しない理由はなんなんだ?」
「フララ様との浮気を許し、それでも妻でいてくれる人がほしいようです。私にしてみれば迷惑ですので他を当たってほしいものですけど」
「見つからないとわかっているから、君にしがみついているんだろう。もしくは、彼女に飽きてきたか」
ラフリード様が言うには、妻と遊び相手は別ものだという貴族が多いらしい。
「妹だから再婚できないと思い込んでいるだけじゃないということですね」
人を馬鹿にするのも大概にしてほしいわ。
「そうだ。ビレディ侯爵が帰って来るまでに渡しておく」
そう言って、ラフリード様が私に手渡してくれたのは、ウララ様についての報告書だった。
「ありがとうございます」
数枚の紙だったので小さく折りたたんで、ラフリード様に見えないように背を向けてから、胸元に手を突っ込み服の中に紙を押し込んだ。
向きを戻すと、ラフリード様は眉根を寄せる。
「真実を知ってどうするつもりかはわからない。ただ、馬鹿なことはするなよ」
「わかっています」
今の言葉で、義父の死にウララ様が絡んでいるのだとわかってしまった。
私が犯罪に走らないように忠告してくれているのでしょう。
「……ウララ様たちにかかわらなければ、私や義父は幸せになれていたのでしょうか」
「それはあなたが判断することで、俺がどうこう言える立場ではない」
窓にたたきつける雨音や風の音が強くなり、部屋の中にも大きな音が響く。窓に目をやった瞬間、閃光が走り、数秒後には雷鳴がとどろいた。
「殺人事件でも起こりそうなシチュエーションですね」
「殺人事件でも起こりそうなシチュエーションだな」
私とラフリード様の声が揃い、思わず顔を見合わせた。
******
特に密室殺人などが起こるわけでもなく、穏やかな朝を迎えた。
窓を開けて外を見ると、昨日の雨など嘘のように空は晴れ渡っているが、地面に目を向けるとたくさんの水たまりができていた。
夜中のうちに雨は止んだようだが、大粒の雨だったのでぬかるんでいる道が多そうだ。
それでも出発するというラフリード様を朝早くから見送ろうと、私やトータム、フララさんやウララ様がエントランスホールに集まった。
「世話になった。ありがとう」
「困った時はお互い様です! これで、以前、ジゼル公爵家のお部屋を借りたことについて色々と言わないでくださいね」
トータムが何か言う前に、フララさんが笑顔で言うと、ラフリード様は不機嫌そうな顔になる。
「もう二度とうちには来ないでくれ」
「そんなあ」
「フララ、もうやめるんだ」
トータムがフララさんの相手をしている間に、ラフリード様が小声で話しかけてくる。
「危険が及ばないとは限らない。浮気の証拠は諦めて家を出たほうが良いだろう。住む所がないのならファルナを頼れ。話はつけておく」
「ありがとうございます」
「では失礼する」
「お気をつけて」
ポーチでラフリード様の乗った馬車が見えなくなるまで見送っていると、トータムが睨みつけてきた。
「ミアリナ、余計な話はしていないだろうね」
「余計な話なんてしていないわ」
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フララさんの我慢もそろそろ限界を迎える頃だ。もう少しでここを出れそうなので、報告書に書かれていたウララ様のことについて確認することにした。
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