犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

文字の大きさ
32 / 36

31 復縁を求める元婚約者

しおりを挟む
 借金取りの話を聞いたミーグスは「僕に任せて」と微笑んだあと、私を寮の入り口まで送ってくれた。

「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。今日はバイトはないよね」
「ええ。バイトには当分、行けそうにないけれど」
「バイトの出勤日は明後日だよね」

 以前、バイトの日にちをミーグスに教えていたから、それで覚えてくれていたようだった。
 
「それまでには何とかするから安心していいよ。あと、フェルナンディのこともね」

 ミーグスは笑顔で言った。
 迷惑をかけてばかりいて、私は何も返せていない。

「……ディラン」
「どうかした?」
「やっぱり、なんでもない」

 苦笑してから首を横に振る。
 ミーグスは眉根を寄せて、私の手を掴んだ。

「逃げるなよ」
「何から?」
「僕から」
「逃げたりなんかしないわよ」
「そうかな。まあいいよ。君が逃げても嫌われていない間は追いかけるから」

 ミーグスは真剣な表情でそう言うと、私の手を離して距離を取ると手を振る。

「じゃあ、また明日」

 ミーグスの姿が見えなくなってから両頬を押さえる。

「おかしい。顔がすごく熱い」

 絶対、ミーグスのせいだわ。
 どうしてこんな気持ちになるのよ!
 って、ああ、あいつは私をこんな気持ちにさせようとしてるんだった。

 ふらふらとした足取りで、自分の部屋に向かいながら考える。

 この関係は終わらせないといけないわ。
 フェルナンディ卿をどうにかしてしまえば、私とミーグスの関係も卒園後には絶対に切れる。
 ミーグスだって私と関わらなくなれば冷静に戻るはずよ。
 これは逃げなんかじゃない!

 気持ちを切り替えるために立ち止まって、自分の両頬を手で叩く。

「しっかりしなさい、ビアラ。私には恋愛にかまけている時間はないわ。やらないといけないことがあるんだから!」

 そう気合いを入れてから、すでにエアリスが帰っているであろう部屋に向かった。
 

*****


 次の日、ミーグスは登園してこなかった。
 何かあったのかと心配になって、昼休みに担任の先生に彼が休んだ理由を尋ねてみた。
 
「私用って言ってたな」
「私用、ですか」
「使いの人から連絡が来ただけで、本人とは話せてないんだ、悪いな」
「いえ。ありがとうございました」

 何か、良くないことがあったわけじゃないわよね。

 先生の言葉を聞いて不安になった。
 ミーグスが来ていない理由に昨日の話が関係がなければ良いんだけど、そのせいで休んでいるとしか思えない。

 借金取りたちは公爵令息に何かする様なバカではないと思いたいけど、常識が通じる人たちじゃない。

 なんとなく落ち着かない、学園での1日を終えて帰り支度を始めた。
 色々と考えながらだったから、気が付いたら教室には人がいなくなっていた。
 ノノレイたちに手を振った覚えはあるから、長い間、ぼんやりしていたのかもしれない。

「ビアラ、やっぱりお前は金を隠し持っていたんだな!?」

 帰ろうと思って立ち上がると、フェルナンディ卿が教室に入ってきて叫んだ。

「何の話をしているの?」
「しらばっくれるなよ。俺を追い回していた奴らの姿が見えなくなったんだ。しかも実家にいた奴らもいなくなったと聞いた。こんなことができるなら、なぜ、こんなに物事が大きくなるまで放っておいたんだ! 最初から払っておけばいいものを!」
「あなた、ディランから私に近付くなと言われていたでしょう。また、忘れたの。本当に寝たら忘れる頭ね」
 
 鼻で笑うと、フェルナンディ卿が怒り始める。

「そんなことはいい! あとは、俺の寮費代を支払えよ」
「払うわけないでしょう」

 相手にしていられないのでフェルナンディ卿の横を通り過ぎ、彼を置いて教室を出る。

「おい、待てよ! お前まで冷たくするのか!?」

 フェルナンディ卿が追いかけてきて訴えてくる。

「ここのところ、フレシアがおかしいんだ! 両親に反対されているから駄目だとか、怪しい奴らに付きまとわれてるから嫌だとか言って、俺のことを相手にしてくれないんだ!」
「フレシア様が目を覚まされたみたいで良かったわ」

 店長の存在があるから目を覚ました可能性が高いけど、むくわれるかはどうかはおいておいて、フレシア様の男性の好みがマシになったみたいで何よりだわ。

 そんな風に考えていると、フェルナンディ卿が私の両腕を掴んで叫ぶ。

「ビアラ、やり直そう!」
「はい? やり直すも何も始まってもいなかったでしょう。婚約者といっても名ばかりだったわけだし」
「じゃあ、始めよう」
「嫌よ」

 私はフェルナンディ卿の手を振り払い、距離を取ってから続ける。

「私にはお金はないの! 今まで払ってくれたのはディランよ! 今回も借金取りがいなくなったというのなら、ディランのおかげだろうから感謝するならディランにだし、何か始めたいならディランと始めたら?」

 吐き捨てるように言ったあと、フェルナンディ卿に背を向ける。
 フェルナンディ卿は何も言わずに、呆気にとられた顔をして、追いかけてくることはなかった。

  まさか、ディランにのりかえるとか言わないわよね? 
 同性愛を否定するわけではないし、個人の勝手だとは思うけど。
 
 そんなことを思いながら、私は学園をあとにした。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...