犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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32 動き始めた公爵令息

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 次の日、私が教室に入った時にはすでにミーグスは席に着いていて、友人たちと話をしていた。
 ミーグスの友人たちは、私の顔を見ると笑いながら「彼女が来たし移動するわ」と言って離れていこうとする。

「別にそこにいてもいいわよ」

 離れていく彼らの背中に声を掛けたけど「気にしなくていい」と笑って自分たちの席に戻っていった。
 そんな彼らの姿を不満そうに見守っていた私にミーグスが挨拶をしてきた。

「おはよう」
「おはよう。昨日はどうしたの? 体調不良とかじゃなかったみたいだけど」
「ちょっと用事があったんだ」
「フェルナンディ卿から聞いたんだけど」
「あの男、また君に近付いたの?」
「それもそうなんだけど、どういうこと? またあなたがお金を立て替えてくれたの?」

 席に座ってから尋ねると、ミーグスは頷く。

「多少はね。今回はフェルナンディ家の私財をもらうつもりだから、すぐに返ってくると思うよ」
「それはそれとしても、根本的なものをどうにかしない限り、イタチごっこじゃないの?」
「さすがにそれはない。もうどこにも借りれられなくしたから」
「……そうなの?」
「ああ。 警察は当てにならないから、ここの領主に話をしてきた」
「領主ってカイジス公爵にってこと?」
「そう。あまり野放しにしておくわけにもいかないだろ?」
「そうかもしれないけど、公爵に出てもらわないと駄目なものなの?」

 聞き返すと、ミーグスは眉根を寄せた。

「こんなことは言いたくないけど、君の家族が殺された事件、どうして犯人が捕まらなかったと思う?」
「……どういうこと?」
「警察と繋がってるからだよ」
「嘘でしょう」

 私の中では警察というものは、正義の味方だという印象しかなかった。
 よく考えればわかることだったのに、幼い頃に起きた事件ということで周りの警察官も優しかった。
 だから、そんなに悪い印象がなかったのだ。
 
「警察官の全部が全部悪いわけじゃないよ。ただ、圧力がかかったのは確かだね。フェルナンディが野放しみたいになってるのもそれがあるからだよ」
「どういうこと? お金をもらってるから悪い奴らを見逃してたってことなの?」
「それもあるし、向こうから捜査を打ち切る様に脅しもあったかもしれないね。あと、フェルナンディ子爵に何もダメージがないことがおかしい」
「それは私も思っていたのよ」

 いくら、私の家族が保証人になり、フェルナンディ子爵が病院に逃げていたとしても、何のお咎めなしだなんておかしいわ。

「悪との癒着は良いものじゃないし、表沙汰になっていないだけで、君のような思いをしている人もいるかもしれない。だから、今回はそれを潰しにかかった。面倒なことだから、かなり渋られたけど」
「……組織自体がなくなるってこと?」
「そうなるね。まあ、また新たに同じようなものが出来る可能性が高いけど。君は家族を殺した犯人を探したいみたいだけど、危険だから止めたほうがいい。明らかに相手は素人じゃないから」
「それは、そうかもしれないけど」

 ミーグスの真剣な表情に、言い返すことが出来ずにいると話を変えてくる。

「あと、そろそろフェルナンディを大人しくさせないとね。君はフェルナンディ家を潰せば、少しは気持ちはマシになるだろう」
「大人しくさせるって何をするつもりなの?」
「いつまでも君の周りをウロウロしすぎだから消すだけだよ」
「消す」

 そういえば、昨日、訳のわからないことを言われたけど、わざわざ伝えなくてもいいかしら。
 しかも、私はミーグスにフェルナンディ教会を押し付けようとしてしまったし。
 いや、だからこそ言うべきなのかしら。

 ミーグスのほうを見ると、彼は不思議そうな顔をして私を見つめ返してきた。
 勇気を出して聞いてみることにした。

「あのね、ミーグス」
「なに?」
「あなたは男性に興味はある?」
「は?」

 ミーグスの表情が訝しげなものに変わった。
 だから、焦ってさっきの発言をなかったことにしようとする。

「何でもないの。忘れてちょうだい」
「嫌だよ。気になるから、どういう意味で聞いたのか教えて」
「どういう意味って、そのままの意味でしょ」
「男性に興味って、何か僕にそんなことを聞かないといけない何かがあったんだろ。僕は君が好きなんだから男性に興味がないことくらいわかってるんだから」
「ごめん。そういう意味じゃなくて」
「なに?」

 顔を近付けられたので、背けてから答える。

「もし、何かあったとしたら近い内にわかると思う」
「気になるから君の口から教えてよ。今すぐに知りたい」
「わかったわよ! 昼休みに教える」

 話が長くなりそうなのと、ノノレイにも話したかったためそう言うと、ミーグスは眉根を寄せはしたけれど、それ以上は何も言わなかった。

 そして昼休み、食堂へ行こうと私たちが移動しようとした時だった。
 フェルナンディが教室の中に入ってくるなり言った。

「ディラン様! 俺を養って下さい!」

 フェルナンディ卿の発言を聞いたミーグスは、私を睨んできた。

「君、彼に何を言ったの」
「ごめんなさい」
「答えて」
「関係を始めたいなら、ディランとどうぞって言ってしまいました」
「意味がわからない。どうして、それで養うことになるんだよ。あとで詳しく説明してもらうけど、今はフェルナンディをどうにかする」

 そう言って、ミーグスは自分のランチボックスを私に押し付けるように渡してから言う。

「先に行ってて」
「でも、私が変なことを言ったから」
「僕は彼が君に近づかないならそれで良い。だから君の対応は間違ってない」

 ミーグスは子供扱いするように、私の頭をぽんぽんと撫でた。

「悪いと思うなら良い返事がほしいかな」
「そ、それは考えておきます」
「考えてくれるんだ」

 ミーグスは嬉しそうに笑った。
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