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「なぜ?」
しかし侃彌からは、歯牙にもかけない返しがある。せつなは顔を上げ、彼に返す。
「なぜって……。だって私は――」
言い終わらないうちに彼女の体が再び宙に浮いた。今度は正面から侃彌に抱き上げられる。見上げていた自分の方が彼より目線が高くなり、着物伝いとはいえ回された腕の感触がありありと伝わり、せつなは赤面する。
「妙な気を回す必要はない。なんなら今いる者たちだけでもお前を紹介しておくか?」
「や、やめてください」
間髪を容れずにせつなは答える。その様子を見て侃彌は彼女を丁寧に下ろした。
「冗談だ。とはいえ危ない真似はするな。正面から入るくらい口は利いてやろう」
「あ、ありがとうございます」
着物の裾を直し、せつなはお礼を告げる。
「あの……」
続けて、躊躇いつつ上目遣いに侃彌を見た。
「今朝、亡くなられた高野真知子さんのご実家へ弔問に参りたいのです。たしかめておきたいことがありまして……。高野家に口添えしていただけませんか?」
おずおずと頼みごとをするせつなに、侃彌は小さくため息をつく。
「わかった。先に使者を遣わせておこう」
「ありがとうございます」
侃彌の返答にせつなは顔を綻ばせた。侃彌はそっとせつなの頭を撫でる。
「どうせ私がいくら言っても聞かないんだろう。杠。くれぐれも彼女が無理をしないよう見張っておいてくれ。なにかあればすぐに知らせるように」
「承知いたしました」
杠が深々と頭を下げる。侃彌はせつなの頭から手を離し、内側にしている腕時計を確認した。
「さて、さすがにそろそろ戻らないとまずいな」
「あの……勝手を許してくださってありがとうございます」
正面玄関の方に足を向ける侃彌に、ぎこちなくもお礼を伝える。すると彼は一度せつなの方へ振り向き、口角を上げた。
「本来なら館に閉じ込めておきたいところだが、お前はそれを望まないからな。逃げ出されるくらいなら、目の届く範囲で好きにさせるまでだ」
どこまで本気で言っているのか。反応に困っていると侃彌はふっと笑みをこぼした。
「ただし無理はするなよ。自分の状況はわかっているだろう?」
「はい」
背筋を正し、せつなは答える。彼が自分を心配しているのは痛いほどわかっている。
侃彌を見送ったあと、緊張の糸が切れたように杠が息を吐いた。
「相変わらず旦那様はせつな様に対し、過保護ですね」
杠を無視して、せつなは正面玄関に向かう。
「せつな様。旦那様もおっしゃっていたように、あまり無茶をしすぎると、本当に閉じ込められちゃいますよ」
「そうならないように、あなたがいるんでしょ?」
せつなの切り返しに杠は言葉に詰まる。せつなはおそらく気づいていない。先ほど、侃彌はせつなのお目付け役として自分に頼んでおきながらも、彼女のそばにいる杠に対し、厳しい視線を送っていた。
「そうですね。あなたのためにも、自分のためにも、精いっぱい役目は努めますよ」
その言葉を受け、せつなは後藤田医院の中に足を踏み入れた。
しかし侃彌からは、歯牙にもかけない返しがある。せつなは顔を上げ、彼に返す。
「なぜって……。だって私は――」
言い終わらないうちに彼女の体が再び宙に浮いた。今度は正面から侃彌に抱き上げられる。見上げていた自分の方が彼より目線が高くなり、着物伝いとはいえ回された腕の感触がありありと伝わり、せつなは赤面する。
「妙な気を回す必要はない。なんなら今いる者たちだけでもお前を紹介しておくか?」
「や、やめてください」
間髪を容れずにせつなは答える。その様子を見て侃彌は彼女を丁寧に下ろした。
「冗談だ。とはいえ危ない真似はするな。正面から入るくらい口は利いてやろう」
「あ、ありがとうございます」
着物の裾を直し、せつなはお礼を告げる。
「あの……」
続けて、躊躇いつつ上目遣いに侃彌を見た。
「今朝、亡くなられた高野真知子さんのご実家へ弔問に参りたいのです。たしかめておきたいことがありまして……。高野家に口添えしていただけませんか?」
おずおずと頼みごとをするせつなに、侃彌は小さくため息をつく。
「わかった。先に使者を遣わせておこう」
「ありがとうございます」
侃彌の返答にせつなは顔を綻ばせた。侃彌はそっとせつなの頭を撫でる。
「どうせ私がいくら言っても聞かないんだろう。杠。くれぐれも彼女が無理をしないよう見張っておいてくれ。なにかあればすぐに知らせるように」
「承知いたしました」
杠が深々と頭を下げる。侃彌はせつなの頭から手を離し、内側にしている腕時計を確認した。
「さて、さすがにそろそろ戻らないとまずいな」
「あの……勝手を許してくださってありがとうございます」
正面玄関の方に足を向ける侃彌に、ぎこちなくもお礼を伝える。すると彼は一度せつなの方へ振り向き、口角を上げた。
「本来なら館に閉じ込めておきたいところだが、お前はそれを望まないからな。逃げ出されるくらいなら、目の届く範囲で好きにさせるまでだ」
どこまで本気で言っているのか。反応に困っていると侃彌はふっと笑みをこぼした。
「ただし無理はするなよ。自分の状況はわかっているだろう?」
「はい」
背筋を正し、せつなは答える。彼が自分を心配しているのは痛いほどわかっている。
侃彌を見送ったあと、緊張の糸が切れたように杠が息を吐いた。
「相変わらず旦那様はせつな様に対し、過保護ですね」
杠を無視して、せつなは正面玄関に向かう。
「せつな様。旦那様もおっしゃっていたように、あまり無茶をしすぎると、本当に閉じ込められちゃいますよ」
「そうならないように、あなたがいるんでしょ?」
せつなの切り返しに杠は言葉に詰まる。せつなはおそらく気づいていない。先ほど、侃彌はせつなのお目付け役として自分に頼んでおきながらも、彼女のそばにいる杠に対し、厳しい視線を送っていた。
「そうですね。あなたのためにも、自分のためにも、精いっぱい役目は努めますよ」
その言葉を受け、せつなは後藤田医院の中に足を踏み入れた。
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