呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ

文字の大きさ
11 / 21

11

しおりを挟む
 刹那、部屋に断末魔が響く。目を見開いて亜里沙を見ると、彼女は倒れ込んで苦しんでいた。亜里沙に飛ばされた術符が目に入る。

「触るな。成仏の為損ないごときが、誰のものに手を出そうとしている?」

 冷たい声にせつなが視線を遣ると、そこには軍服を着た侃彌の姿があった。どうして彼がこの時間にここにいるのか。

 様々な疑問が浮かぶが、それどころではない。侃彌は迷わずせつなのそばにやってきて亜里沙と対峙する。髪を振り乱し、亜里沙は叫んだ。

「私の邪魔をするなら、誰であろうと許さない!」

「ま、待ってください!」

 せつなが止めに入ったのは亜里沙にではなく、侃彌に対してだ。彼は強い霊力を持ち、このまま亜里沙を強制的に常世へ送るのではないかと危惧する。

 ところが侃彌は懐から形代かたしろを取り出し、優しく亜里沙の方へ放り投げた。

「え?」

 真っ白な形代は、すぐに人の形へとなっていく。

「ほら。お前の望み通り、高野真知子を連れ来た」

 亜里沙の前に現れたのは高野真知子だ。亜里沙と同じ小袖に短めの袴を着て、穏やかな顔をしている。間違いなく彼女の魂だ。

「真知子!」

 粗ぶっていた亜里沙が落ち着きを取り戻し、彼女は真知子と抱き合った。

「ごめん、ごめんね。私のせいで、真知子まで……」

「大丈夫。亜里沙のせいじゃないから。これからふたりで楽しいことをしよう」

 涙を流す亜里沙の背中を真知子が優しくさする。

  晃々きらきらと彼女たちの周りが柔らかい光が包む。そのまま彼女たちの姿はゆっくりと消えていった。何度見ても、温かい光に包まれて常世へと導かれる様子はホッとする。

 辺りは急に静けさに包まれ、せつなはその場に腰を落とした。

「まったく。無理をするなと言っただろう」

 侃彌は外套を脱ぎ、背中からせつなをすっぽりと包む。せつなとしては、状況に頭がついていかない。

「なぜ、こんな時間にこちらへ? それに高野真知子さんの魂をどうして?」

 次々と疑問が湧いてくる。

「後藤田医院での一連の飛び降りは、偶然に起きたものではない。異常存在まれびとが噛んでいたらしく、その件については極夜が……今しがた、月朔げっさく組が解決した」

 異常存在マレビト――この世界に存在する人ではない者の総称を指す。普段は交わることなどけっしてない。互いに干渉せず、不可侵を貫いている。おかげで異常存在を知らない者や信じない者も多い。しかし、時折境界線を越える者がいるのも事実だ。

 超えるだけならいざ知れず、人間の生活に危険や危害を及ぼす者も現れる。大和国日神軍は元々、異常存在に対抗するために作られた組織だ。それを知る者はごくわずか。

 そして、天明家は陰陽道を受け継いできた家系で強い霊力を持ち、祓除の技を持つ。侃彌が軍に特別な立場で所属し、こうして命を受けるのはたいてい死者が絡んでいる。

「高野真知子の霊がいないことは最初から妙だと感じていた。後藤田医院は静かすぎる」

 それはせつなも感じていた。病院という場は、亜里沙みたいにはっきりした意思を持っていなくても、多少霊の数も活動も活発になっている場合が多い。

 真知子の霊は異常対象によって隠されていたのか、囚われていたのか。

「詳しくはまた今度だ。杠のことは心配しなくていい。霊気に当てられたようだが回復したらまた姿を現すだろう」

 ふうっと息を吐いた侃彌に、せつなは胸が締めつけられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...