呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ

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前日譚

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「だいじょうぶ。光のある方に進んでごらん」

 空の方を指差し、紲は笑う。

 紲は生まれたときから浄霊能力に長け、人と同じように霊が見えた。彼女は自分の行為が浄霊と呼ばれるものとは知らないうちから、ごく自然なことのように道案内をするかのごとく霊を導いていく。

 彷徨う死者は自分が死んだことに気づいていない者、この世に強い未練を残す者、成仏したいのにできない者など様々だ。

「お母様。昨日のお友達、ちゃんと光の方へ行ったよ」

「そう、よかったわ。お友達、笑顔だった?」

「うん!」

 生まれたときから父の顔も存在も知らない。けれど優しい母がいれば紲は寂しくなかった。

「紲は寄り添ってあげられる子なのね。人にも霊にも」

 母から力の使い方を教わり、笑顔になるのが霊でも人でも、それだけで嬉しくなる。

「憐れみは必要ないの。時には鬱陶しがられるかしれないし、まどろっこしいと感じるかもしれない。でもね、紲の優しさや力は、きっと誰かの助けになるから」

 霊が見えるのは普通ではない。自分は人とは違うのだと意識しだした頃、母が亡くなった。紲が七つのときだ。

 しばらく知り合いのところを転々し、落ち着かない日々を過ごす。

 そんな折、可惜夜あらたよ家の使者と名乗る者が紲を迎えにきたと現れたのだ。

 紲はつい最近亡くなった可惜夜の次期当主の娘である可能性があると。次期当主は、死ぬ直前に結婚する前に恋仲になっていた女性との間に子どもがいたことを告げ、探すように命じていたらしい。

 可惜夜家は代々続く巫女の家系で、生まれる女子は穢れを祓う能力を持つ者が多く、時の神事に関わり、その地位を確かなものにしてきた。

 死ぬ前の罪滅ぼしか、可惜夜家の血が途絶えることを恐れ、血を引く者を家に縛りたかったのか。今となっては定かではない。

 紲に浄霊の能力が備わっており、その力の高さを当主である紲の祖父は大いに評価した。どうやら紲は可惜夜でも数百年に一度の逸材になるらしい。

 力を認められても褒められても紲の心は満たされなかった。

 紲の父である次期当主と妻との間には、紲よりふたつ年下の娘と四つ年下の息子がいる。可惜夜家の跡継ぎの息子と能力を継ぐ娘がいて、夫を亡くしたものの可惜夜家を仕切る存在となった継母は、突然現れた紲が気に入らなかった。

 見えないところで冷たくあしらわれ、実子たちとあからさまな差をつける。それでも紲の能力が評価されたときは自分の手柄だと言わんばかりに出しゃばる。

 母とふたりで暮らしていたときより、着る物も食べる者も一流のものばかりだ。でも心はなにも満たされない。できればあの頃に戻りたい。

 可惜夜に伝わる方法で霊力を鍛え高めながら、祖父や継母に言われ浄霊をこなす日々。

 想像以上に可惜夜家は――浄霊の能力は求められた。この世界には異常存在と言われる、人にあらざる者があふれ、世を乱している。

 とはいえ紲は霊に対しては対話したり浄化の力を持つが、それ以外はからっきしだ。

 そういった者たちに対抗するため、大和国日神軍は設立されたらしい。

 長い間、異常存在と人間の間に立ち、調和と統制をとって両者の均衡のために尽力してきた極夜家の一声が始まりだったそうだ。背景はともかく軍の歴史は、まだ新しい。

 圧倒的な能力と上に立つ者の資質を兼ね備えた極夜家に、紲も祖父に連れられ挨拶に行った。可惜夜家も必要があれば極夜家や軍に力を貸す協定が結ばれている。
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