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前日譚
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「妻? 侃彌様、本気ですか? その者は鏖月の烙印を捺されているんですよ? そんな人にあらざる者を娶ったなど知られたら、天明家の名は地に落ちます」
「娘の言うとおりです。しかもその子は呪いで無能なうえ、哀れな子どもの姿。妻にするなら紬の方がよっぽど……」
「ご心配には及びません」
紬と継母の言い分を侃彌はきっぱりはねのける。
「私よりもご自身たちを心配したらどうです? 今の可惜夜家の名声のほとんどは紲の力によるものでしょう」
継母と紬が口を噤んだのは、事実だからだ。彼はため息をつき、紲を抱き上げる。
「わっ」
「これ以上、ここにいる必要はない」
そう言って門へと向かっていく。紬と継母は納得できず、最後まで不満をぶつけてきた。
もう二度とここに帰ってくることはない。
憎しみに満ちた視線をぶつけられ、紲はなんとも言えない気持ちになる。
「その体ではなにかと不自由だろうから、今日から天明の館で暮らすといい。結界も十分に張っている」
馬車がゆっくり動き出し、車内で彼から切りだされた言葉に、紲はぎこちなく頷く。
「ありがとう……ございます」
どうやら彼は紲の身を案じ、天明家で匿うために、あの場で結婚などと言ってくれたらしい。納得して、かけられた外套の袷の部分をぎゅっと握った。
「あの……私、このような姿ですが、家事も一通りできますし、使用人扱いでかまいません。なんらかの形で恩返しいたしますので」
ただで置いてもらうわけにはいかない。きちんと役に立たなくては。
「その必要はない」
しかし紲の想いとは裏腹に、はっきりと拒否される。小さく肩を震わせ、ならばどうすればいいのか必死に考える。
「言っただろう。紲は私の妻として天明家に迎え入れるつもりだ」
ところが、侃彌から続けられた言葉に紲の頭は真っ白になった。わずかな沈黙のあと、紲は小さく首を横に振る。
「で、ですが私は能力がないばかりか、体もこのように――」
言いかけて突然、侃彌が紲の両頬を包むように手を添えた。額が重ねられ、至近距離でふたりの視線は交わり、彼のかすかに青みがかった虹彩が揺れるのがわかるほど近い。
次の瞬間、信じられない出来事が起こる。
「え?」
手足が伸び、視界がやや高くなる。身長よりも大きかった外套が体に添い、髪も伸びた。七つほどの少女の姿だったのに、どういうわけか元の年齢の体に戻っている。
「な、なぜ?」
侃彌から離れ、紲は自身の手をまじまじ見つめ、顔に触れる。
「お前のその姿も、鏖月に霊力を奪われていることに起因していると考えて、物は試しにと、私の霊力を分けたんだ。だから、生憎一時的なものだ」
なるほど、と理解するのと同時に同時に考えが考えが別の角度に移る。
「で、では私に霊力を分け与え、天明様は大丈夫なのですか?」
切羽詰まる問いかけに、侃彌は苦笑する。
「大丈夫、ではないな」
「そ、そんな……どうすれば?」
霊力は各々の持つ力の質も量も異なるが、無限ということはない。
「娘の言うとおりです。しかもその子は呪いで無能なうえ、哀れな子どもの姿。妻にするなら紬の方がよっぽど……」
「ご心配には及びません」
紬と継母の言い分を侃彌はきっぱりはねのける。
「私よりもご自身たちを心配したらどうです? 今の可惜夜家の名声のほとんどは紲の力によるものでしょう」
継母と紬が口を噤んだのは、事実だからだ。彼はため息をつき、紲を抱き上げる。
「わっ」
「これ以上、ここにいる必要はない」
そう言って門へと向かっていく。紬と継母は納得できず、最後まで不満をぶつけてきた。
もう二度とここに帰ってくることはない。
憎しみに満ちた視線をぶつけられ、紲はなんとも言えない気持ちになる。
「その体ではなにかと不自由だろうから、今日から天明の館で暮らすといい。結界も十分に張っている」
馬車がゆっくり動き出し、車内で彼から切りだされた言葉に、紲はぎこちなく頷く。
「ありがとう……ございます」
どうやら彼は紲の身を案じ、天明家で匿うために、あの場で結婚などと言ってくれたらしい。納得して、かけられた外套の袷の部分をぎゅっと握った。
「あの……私、このような姿ですが、家事も一通りできますし、使用人扱いでかまいません。なんらかの形で恩返しいたしますので」
ただで置いてもらうわけにはいかない。きちんと役に立たなくては。
「その必要はない」
しかし紲の想いとは裏腹に、はっきりと拒否される。小さく肩を震わせ、ならばどうすればいいのか必死に考える。
「言っただろう。紲は私の妻として天明家に迎え入れるつもりだ」
ところが、侃彌から続けられた言葉に紲の頭は真っ白になった。わずかな沈黙のあと、紲は小さく首を横に振る。
「で、ですが私は能力がないばかりか、体もこのように――」
言いかけて突然、侃彌が紲の両頬を包むように手を添えた。額が重ねられ、至近距離でふたりの視線は交わり、彼のかすかに青みがかった虹彩が揺れるのがわかるほど近い。
次の瞬間、信じられない出来事が起こる。
「え?」
手足が伸び、視界がやや高くなる。身長よりも大きかった外套が体に添い、髪も伸びた。七つほどの少女の姿だったのに、どういうわけか元の年齢の体に戻っている。
「な、なぜ?」
侃彌から離れ、紲は自身の手をまじまじ見つめ、顔に触れる。
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なるほど、と理解するのと同時に同時に考えが考えが別の角度に移る。
「で、では私に霊力を分け与え、天明様は大丈夫なのですか?」
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