呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ

文字の大きさ
19 / 21
前日譚

しおりを挟む
 今まで霊を怖いと思ったことはない。けれど今初めて、紲は彼らが怖しいと感じた。

『そのやり方はいずれ身を滅ぼすぞ』

『奴らは所詮人だったもの。甘い顔をするとつけ入れられる』

 あの人の言うとおりだった。

 首にある鏖月の烙印が原因なのだとしたら、この場をやり過ごしても同じだ。こんな体で、力を奪われた自分は対抗する術は持ち合わせておらず、それどころか、誰にも必要とされていない。

 可惜夜の家でも、浄霊を頼んできた人も、天明様も――。

 ふっとなにかが切れ、必死に木の幹にしがみたいていた腕の力が抜ける。

 もういい。もういいや。……私も落ちていこう――。

 ところが次の瞬間、木の幹に集っていた黒い塊がすべて消え去る。

「え?」

「紲!」

 信じられない光景に目を瞠る。しかしそれよりも名前を呼ばれたことに、驚きが隠せない。木のそばに大股で歩み寄ってきたのは、天明侃彌だった。彼が、あの黒いものたちを一掃したらしい。

 続けて侃彌は、両手を紲の方に伸ばす。

「遅くなって悪かった。もう、大丈夫だ」

 なにかを考える余裕も、迷う間もない。その言葉に、紲は侃彌の方に手を伸ばし、彼の腕の中に落ちていった。

 たくましい腕にしっかりと抱き留められ、伝わる温もりに安堵し、紲の瞳から涙があふれ出す。

「ふっ……」

「大丈夫だ。もうなにも心配しなくてもいい」

 泣くなんて久しぶりだ。体だけではなく、心も幼くなってしまったのか。

 少しだけ気持ちが落ち着くと、冷静さが駆け巡ってくる。

 身動ぎし、紲は少しだけ侃彌から距離をとった。

「も、申し訳ありません。このような事態になり……」

 なんて説明すればよいのか。迷っていると、侃彌の長い指が紲の首筋に触れた。

「鏖月の烙印、か」

 侃彌の指摘に、紲は再度頭を下げようとしたが、先に侃彌に止められる。

「謝るな。状況は粗方わかっている」

「なら……」

 縁談は言うまでもなく破談だ。彼の相手として、可惜夜家なら紬がいる。

 侃彌は自身の外套を脱ぎ、包み込むように紲にかけた。

「ひとまず、可惜夜家に結婚の許可をもらう」

 それは誰を相手に言っているのか。

「侃彌様!」

 理解できずにいると義妹の声が聞こえた。おそらく侃彌を探しに来たのだろう。紬は紲に気づくや否や眉をひそめた。

「なんでまだいるの? 出ていきなさいよ、この化け物!」

 嫌悪感あふれ、今にも手を上げそうな紬から侃彌は紲を庇う。

「彼女に手を出すな」

 凛とした声に紬は硬直する。そこに継母もやってきた。同じく紲の存在に気づき、不快感で顔を歪める。

「あなた、どうして……」

 しかしそんな彼女たちに侃彌は冷ややかな視線を向けた。

「気をつけてください。私の妻になる女性に無礼を働いたら、可惜夜家だろうと容赦しない。彼女への振る舞いひとつで、あなた方は天明家を敵に回すことになる」

 彼の発言に紬も継母も、そして紲も狼狽える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...