呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ

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前日譚

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 顔面蒼白になっていると、侃彌がくっくっと喉を鳴らして笑いだす。

「冗談だ。この程度、なにも問題はない」

 謀られたと気づき、怒るよりも先に安堵する。これ以上、迷惑をかけるのは御免だった。

「よかった……です」

 ホッと胸を撫で下ろしていると侃彌に抱きしめた。

「いつか私がすべてを取り戻す、紲の力も体も。だからなにも心配せず、私のそばにいたらいいんだ」

 安心させる声に、紲の涙腺が再び緩みだす。

「……だからって、あなた様の妻でいる必要はありますか?」

 戻った暁のことを考えているのなら、あまりにも不確実だ。鏖月の正体も恐ろしさも計り知れない。

「あるさ。言っただろう、私には紲が必要なんだ」

 侃彌は腕の力を緩め、紲と視線を合わせる。

「余計なことは考えず、堕ちた霊は祓えばいい。そう教えられてきたし、正直今もその考えはあまり変わっていない。それが自分の使命であり、天明家に生まれた宿命だと私は信じて疑わなかった」

 強い霊力を持ち、名の通る天明家は知っていても、侃彌自身のことはなにも知らない。紲は彼の話に耳を傾けた。

「だが、紲に言われて改めて思ったんだ。私の進む道は、己の意思なのかと」

『とはいえ、あなたにはあなたの考えがあるでしょうから……』

 侃彌はそっと紲の頬を撫でた。

「私は紲みたいに、己のやり方に対して、信念も大事にするものもない。孤独だと感じるのは間違いで、認めるなどありえない。でも、そういった弱さや自分の甘さも全部受け止めている紲が眩しく感じたんだ」

 そう言って、侃彌は軽く微笑むと、納得したようにかすかに頷いた。

「そうだな。私もきちんと向き合おう。天明家が引き継いできたものだからと、己の意思を放棄するのは。これからは自分の行いに、自分で責任を持つ。だから、天明家の次期当主である前に天明侃彌というひとりの人間として、紲にそばにいてもらいたい。私にはない、お前の強さに惹かれたんだ」

『でもね、紲の優しさや力は、きっと誰かの助けになるから』

 私は、誰かの力になれる? 私の力は関係なく、必要としてもらえる? 同じ孤独を背負う彼と寄り添っていけるのかな?

 目の端から涙がこぼれ落ち、侃彌の手を濡らす。天明家の当主とか関係ない、絶望に落ちそうになった自分を掬い上げてくれたのは、彼自身だ。

「私でよかったら……どうかおそばにいさせてください」

 小さく呟くと、侃彌は穏やかに笑った、。初めて見る彼の表情に胸が高鳴る。

 子どもの姿のときは、紲は“せつな”と名乗ることになった。侃彌が作った護符の包帯を首に巻き、鏖月の烙印を隠して、少しでも効力を抑える。

 なにもかも偽りだ。けれど、侃彌がこうして紲として接してくれるおかげで、紲は希望を捨てずに前を向ける。

 どんな暗闇に覆われそうになってもしっかりと掴まえてくれる、この手があるからだ。
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