殿下!婚姻を無かった事にして下さい

ねむ太朗

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2.遠ざかる二人

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 クロヴィスがミレリアと婚約をして数ヶ月、二人は逢瀬を重ねていた。
 今までは女性どころか、人との関わりも小数の限られた者達に減らしていたクロヴィスは、ミレリアと距離をどう縮めていいのか分からなかった。

 それでもクロヴィスの拙い話を、笑顔で聞いてくれるミレリアと一緒にいると心が安らいだ。

 二人の結婚式が近づくにつれて、クロヴィスが忙しくなりミレリアと会える時間が減るようになった。

 アレックスに回された公務が、クロヴィスの方に回ってくるようになったからだ。

「アレックス、また抜け出したのか」

「兄上、言い方が悪いよ。抜け出したのではなくて、兄上とお義姉さんの結婚式を盛り上げるべく奮闘しているのさ」

 得意気な顔で話すアレックスを、クロヴィスは呆れた顔で見た。

「兄上とお義姉さんの結婚記念のマグカップにお皿に、カップル向けのネックレス……」

 ニヤニヤして語り出すアレックス。
 アレックスは事務作業が苦手で、何かと理由を付けて執務室を抜け出す常習犯だ。
 特に祝いごとや祭りに関しては積極的で、必要以上に首を突っ込む。

 勝手なことをやっているアレックスだか、しっかり経済的に利益を出すので、止める者もいない。

 そうすると自然とクロヴィスに仕事が回ってくる訳で……クロヴィスは、結婚式が早く終わるように心から願った。



 結婚式が無事に終わり、寝室にクロヴィスが向おうとした時に、アドニスに呼び止められる。

「どうした?」

「クロヴィス殿下……ク、クロヴィス……ア、アイシャにアイシャに……ずず……」

 アドニスは泣きそうな顔をして、鼻をすすりながらクロヴィスに話をした。
 どうやら恋人のアイシャに振られたらしい。アドニスから数ヶ月前に、アイシャと付き合うと報告があったことをクロヴィスは思い出した。

 アイシャはミレリアの侍女だから、今日は忙しかったはず、いつの間に別れ話をしたのだろうか……。

 クロヴィスはアドニスを無下に出来ずに話を聞いた。
 クロヴィスがアドニスから開放される頃には、だいぶ夜が更けていた。

 ミレリアはもう寝ているだろう。こんな時間に行って、疲れているミレリアを起こすのは忍びない。

 クロヴィスは明日謝り、次の日から寝室を共にする事にした。

 しかし、結婚式が終わったのにも関わらず、次の日もクロヴィスの所にアレックスの仕事が回ってきた。

 結婚式が終わったのになぜ?
 それに、これは別の者でも出来るものだが。 

 クロヴィスは自分の事を良く思っていない、側近のラッセルを見た。

 別の者に回せばなんと言われるか……。

「ブルーノ、この書類を届けるついでに、ミレリアにこれを渡してくれないか?」

「あっ! ミレリア様への手紙は俺が行っていいですか?」

「ん? 昨日の今日で彼女に会うのは気まずくないか?」

 クロヴィスはブルーノに声を掛けたが、それを聞いていたアドニスが口を挟む。

「今朝仲直りしたんです。だから、少しでも会いたくって。昨日はありがとうございました」

 へらへらと笑ったアドニスを見て、クロヴィスは人騒がせなやつだなと思った。

 クロヴィスは昨夜の事を詫びる手紙をアドニスに託す。
 もちろんこの手紙はミレリアに届く事は無く、この日以来、クロヴィスはミレリアの侍女に恋人がいるアドニスに手紙を託すようになった。

 その日からクロヴィスは想像以上に忙しい日々を送り、夜がだいぶ更けてから自室に戻っていた。

「ミレリアから返事が返って来ないのだが、やはり怒っているのだろうか」

「今日は友人を呼んでいるようで、明日はご婦人方を呼んでお茶会を開くみたいだぞ。忙しいんじゃない?」

 クロヴィスが尋ねると呑気なアドニスの返事が返ってきた。
 この時のクロヴィスは、ミレリアの侍女に恋人がいるアドニスに聞くのが一番早くて確実な情報が得られると思っていた。

「そうか。私の事を何か言っていただろうか」

「いや、特には聞いていないな。毎日充実してそうだって、アイシャが」

「そうか」

「まあ、政略結婚なんてそんなもんだろう。亭主元気で留守がいいって、今巷で流行っている言葉みたいだし」

 どうやらミレリアにとっては、私は必要のない夫のようだ。
 それはそうか。好きで私と結婚をしたのではないのだから、顔も見たくないと思っているかもしれない。

 否定されて育ったクロヴィスは、自分の自身のなさから、嫌われているかもしれないと考え、ミレリアに会う事が怖くなる。
 仕事を理由に自分からは会いに行かず、ミレリアが会いに来てくれるのを待つようになった。
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