11 / 16
4.弟のおもりは試行錯誤
しおりを挟む
「父上、どういう事ですか」
クロヴィスは今、アドニスの事で国王と話をしていた。
「どうにもこうにもエルー伯爵家には多額の賠償金を請求した」
「エルー家の経済状況では支払えないかと……」
「支払えなければ、爵位を返上してもらうまでだ」
「そこまでの事を。アドニスの家族まで巻き込む事では」
「それは違う。エルー家の人間がクロヴィスの事を裏で何と言っていたかお前が一番分かっているのではないか」
「それは……」
クロヴィスには心あたりがあり、言葉を詰まらせた。
「それでも、アドニスだけは私に良くしてくださいました」
「ああ。だから儂も目を瞑っていた。だが今回の事があり、それでもアドニスと友人でいられるのか」
クロヴィスの答えは否だった。今のクロヴィスにとって一番大切なのはミレリアだ。
アドニスはミレリアとクロヴィスの関係に亀裂が入るきっかけを作ったのだ。
「無理です」
「クロヴィス、お前は王子だ。もっと人を見る目を養いなさい。確かにお前の母親は平民だ。だが、お前は儂の息子だ。金色の髪も深い緑の瞳も儂と同じ。誰に何を言われても堂々とし、必要がないものは手放しなさい。お前は人を選べる立場にいる」
「っっ……はい、分かりました」
国王はクロヴィスに対する誹謗中傷に気づいていた。
クロヴィスが思うに全てではないが、ある程度は把握していたのであろう。
その後クロヴィスは身辺整理を行う。
クロヴィスに対し文句を言った者は一刀両断され、出世の道を絶たれた。
この噂はすぐに広まり、王宮内で働く者達は手のひらを返したように、クロヴィスに振る舞うようになった。
クロヴィスは働きやすい環境になり、書類仕事が早く片付くようになって平和な日々を過ごせるように思われたが、新たな仕事に四苦八苦していた。
「兄上! 小便が……あ、漏れちゃう」
「ならば一緒に行こうか」
「やめてよ! 兄上と連れション? しかも、僕達の手首は今手錠で繋がれているんだよ。この状態で一緒に入る所なんか見られたら、みんなの妄想が膨らんじゃうよ」
「………………。だが、外して執務室を出たら戻って来ないだろう」
「大丈夫だよ。信頼できる護衛がお供してくれるから」
その護衛がアレックスを執務室から毎日逃がすから、頭を抱えているんだろうが! と、クロヴィスは叫びたかったが飲み込んだ。
連日に渡るアレックスの脱走により、クロヴィスはアレックスと一緒の執務室で仕事をする事にした。
しかし、アレックスは何かと理由を付けて脱走。
さすがに弟を椅子に紐で括り付けられなかったクロヴィスは、自分の手首とアレックスの手首を手錠で繋いた。
鍵はクロヴィスが持っている。
「そう言って昨日も逃げただろう」
「今日は逃げないよ。信じて」
全く信じられない。
眉間にしわを寄せて唸るクロヴィス。
「兄上、良く考えてご覧よ。僕達がこの状態で王宮内をうろついたら、みんななんて思うかな? しかも一緒にお手洗いでしょ。巷では男同士の恋の物語が流行ったり流行らなかったりしているみたいだよ。兄上と僕のこんな噂が広まっていいの? まあ、僕にはヨアンナがいるからいいけどさ。兄上は今婚約者募集中でしょう? 探すの大変になるんじゃない」
流行っているのか流行っていないのか。確かに、そのような噂が広まるのはやめてほしいが、クロヴィスはミレリア以外と結婚する気がなかった。
だから新しい婚約者が見つからない事はどうでもいい。ただ、ミレリアにまで勘違いされるのは切ないが。
それにアレックスは、昨日も似たような理由でクロヴィスに手枷を外させ逃走した。
ちなみにヨアンナとは、アレックスの婚約者だ。
「構わない」
「そうだろう? うんうん。やっぱり兄上も僕と恋人同士なんて思われた……えっ? なんだって」
「だから、アレックスとそういう噂が立っても構わなないから、このまま行くと言っている」
「えっ? あっ、いや。まさか、兄上って男の人が恋愛対象!?」
アレックスは両腕で自分を抱きしめて、クロヴィスから距離をとろうと離れた。
「何を勘違いしている。そんな訳無いだろ。莫迦な事を言っていないでさっさと行くぞ。いつまで経っても仕事が片付かないだろう」
アレックスはクロヴィスに引きづられるように、執務室を後にしたのだった。
クロヴィスは今、アドニスの事で国王と話をしていた。
「どうにもこうにもエルー伯爵家には多額の賠償金を請求した」
「エルー家の経済状況では支払えないかと……」
「支払えなければ、爵位を返上してもらうまでだ」
「そこまでの事を。アドニスの家族まで巻き込む事では」
「それは違う。エルー家の人間がクロヴィスの事を裏で何と言っていたかお前が一番分かっているのではないか」
「それは……」
クロヴィスには心あたりがあり、言葉を詰まらせた。
「それでも、アドニスだけは私に良くしてくださいました」
「ああ。だから儂も目を瞑っていた。だが今回の事があり、それでもアドニスと友人でいられるのか」
クロヴィスの答えは否だった。今のクロヴィスにとって一番大切なのはミレリアだ。
アドニスはミレリアとクロヴィスの関係に亀裂が入るきっかけを作ったのだ。
「無理です」
「クロヴィス、お前は王子だ。もっと人を見る目を養いなさい。確かにお前の母親は平民だ。だが、お前は儂の息子だ。金色の髪も深い緑の瞳も儂と同じ。誰に何を言われても堂々とし、必要がないものは手放しなさい。お前は人を選べる立場にいる」
「っっ……はい、分かりました」
国王はクロヴィスに対する誹謗中傷に気づいていた。
クロヴィスが思うに全てではないが、ある程度は把握していたのであろう。
その後クロヴィスは身辺整理を行う。
クロヴィスに対し文句を言った者は一刀両断され、出世の道を絶たれた。
この噂はすぐに広まり、王宮内で働く者達は手のひらを返したように、クロヴィスに振る舞うようになった。
クロヴィスは働きやすい環境になり、書類仕事が早く片付くようになって平和な日々を過ごせるように思われたが、新たな仕事に四苦八苦していた。
「兄上! 小便が……あ、漏れちゃう」
「ならば一緒に行こうか」
「やめてよ! 兄上と連れション? しかも、僕達の手首は今手錠で繋がれているんだよ。この状態で一緒に入る所なんか見られたら、みんなの妄想が膨らんじゃうよ」
「………………。だが、外して執務室を出たら戻って来ないだろう」
「大丈夫だよ。信頼できる護衛がお供してくれるから」
その護衛がアレックスを執務室から毎日逃がすから、頭を抱えているんだろうが! と、クロヴィスは叫びたかったが飲み込んだ。
連日に渡るアレックスの脱走により、クロヴィスはアレックスと一緒の執務室で仕事をする事にした。
しかし、アレックスは何かと理由を付けて脱走。
さすがに弟を椅子に紐で括り付けられなかったクロヴィスは、自分の手首とアレックスの手首を手錠で繋いた。
鍵はクロヴィスが持っている。
「そう言って昨日も逃げただろう」
「今日は逃げないよ。信じて」
全く信じられない。
眉間にしわを寄せて唸るクロヴィス。
「兄上、良く考えてご覧よ。僕達がこの状態で王宮内をうろついたら、みんななんて思うかな? しかも一緒にお手洗いでしょ。巷では男同士の恋の物語が流行ったり流行らなかったりしているみたいだよ。兄上と僕のこんな噂が広まっていいの? まあ、僕にはヨアンナがいるからいいけどさ。兄上は今婚約者募集中でしょう? 探すの大変になるんじゃない」
流行っているのか流行っていないのか。確かに、そのような噂が広まるのはやめてほしいが、クロヴィスはミレリア以外と結婚する気がなかった。
だから新しい婚約者が見つからない事はどうでもいい。ただ、ミレリアにまで勘違いされるのは切ないが。
それにアレックスは、昨日も似たような理由でクロヴィスに手枷を外させ逃走した。
ちなみにヨアンナとは、アレックスの婚約者だ。
「構わない」
「そうだろう? うんうん。やっぱり兄上も僕と恋人同士なんて思われた……えっ? なんだって」
「だから、アレックスとそういう噂が立っても構わなないから、このまま行くと言っている」
「えっ? あっ、いや。まさか、兄上って男の人が恋愛対象!?」
アレックスは両腕で自分を抱きしめて、クロヴィスから距離をとろうと離れた。
「何を勘違いしている。そんな訳無いだろ。莫迦な事を言っていないでさっさと行くぞ。いつまで経っても仕事が片付かないだろう」
アレックスはクロヴィスに引きづられるように、執務室を後にしたのだった。
19
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
さようなら、臆病な私
Rj
恋愛
夫の優しさを愛だと勘違いした妻は臆病な自分に別れを告げる。
亡くなった姉に罪悪感と恨みをつのらせる妹は姉の夫を刺す。
亡くなった妻との美しい思い出にひたる夫は事実を知らない。
死が題材です。
*一話完結で投稿したものに二話加え全三話になりました。(3/28変更)
ただ誰かにとって必要な存在になりたかった
風見ゆうみ
恋愛
19歳になった伯爵令嬢の私、ラノア・ナンルーは同じく伯爵家の当主ビューホ・トライトと結婚した。
その日の夜、ビューホ様はこう言った。
「俺には小さい頃から思い合っている平民のフィナという人がいる。俺とフィナの間に君が入る隙はない。彼女の事は母上も気に入っているんだ。だから君はお飾りの妻だ。特に何もしなくていい。それから、フィナを君の侍女にするから」
家族に疎まれて育った私には、酷い仕打ちを受けるのは当たり前になりすぎていて、どう反応する事が正しいのかわからなかった。
結婚した初日から私は自分が望んでいた様な妻ではなく、お飾りの妻になった。
お飾りの妻でいい。
私を必要としてくれるなら…。
一度はそう思った私だったけれど、とあるきっかけで、公爵令息と知り合う事になり、状況は一変!
こんな人に必要とされても意味がないと感じた私は離縁を決意する。
※「ただ誰かに必要とされたかった」から、タイトルを変更致しました。
※クズが多いです。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
【完結】聖女は国を救わないと決めていた~「みんなで一緒に死にましょうよ!」と厄災の日、聖女は言った
ノエル
恋愛
「来たりくる厄災から、王国を救う娘が生まれる。娘の左手甲には星印が刻まれている」
――女神の神託により、王国は「星印の聖女」を待ち望んでいた。
完璧な星印を持つ子爵令嬢アニエスと、不完全な星印しか持たない公爵令嬢レティーナ。
人々はこぞってアニエスを“救いの聖女”と讃え、レティーナを虐げた。
だが、本当に王国を救うのは、誰なのか。
そして、誰にも愛されずに生きてきたレティーナの心を誰が救うのか。
旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。
クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」
平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。
セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。
結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。
夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。
セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。
夫には愛人がいた。
愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される…
誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる