殿下!婚姻を無かった事にして下さい

ねむ太朗

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4.弟のおもりは試行錯誤

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「父上、どういう事ですか」

 クロヴィスは今、アドニスの事で国王と話をしていた。

「どうにもこうにもエルー伯爵家には多額の賠償金を請求した」

「エルー家の経済状況では支払えないかと……」

「支払えなければ、爵位を返上してもらうまでだ」

「そこまでの事を。アドニスの家族まで巻き込む事では」

「それは違う。エルー家の人間がクロヴィスの事を裏で何と言っていたかお前が一番分かっているのではないか」

「それは……」

 クロヴィスには心あたりがあり、言葉を詰まらせた。

「それでも、アドニスだけは私に良くしてくださいました」

「ああ。だから儂も目を瞑っていた。だが今回の事があり、それでもアドニスと友人でいられるのか」

 クロヴィスの答えは否だった。今のクロヴィスにとって一番大切なのはミレリアだ。
 アドニスはミレリアとクロヴィスの関係に亀裂が入るきっかけを作ったのだ。

「無理です」

「クロヴィス、お前は王子だ。もっと人を見る目を養いなさい。確かにお前の母親は平民だ。だが、お前は儂の息子だ。金色の髪も深い緑の瞳も儂と同じ。誰に何を言われても堂々とし、必要がないものは手放しなさい。お前は人を選べる立場にいる」

「っっ……はい、分かりました」

 国王はクロヴィスに対する誹謗中傷に気づいていた。
 クロヴィスが思うに全てではないが、ある程度は把握していたのであろう。

 その後クロヴィスは身辺整理を行う。
 クロヴィスに対し文句を言った者は一刀両断され、出世の道を絶たれた。

 この噂はすぐに広まり、王宮内で働く者達は手のひらを返したように、クロヴィスに振る舞うようになった。


 クロヴィスは働きやすい環境になり、書類仕事が早く片付くようになって平和な日々を過ごせるように思われたが、新たな仕事に四苦八苦していた。

「兄上! 小便が……あ、漏れちゃう」

「ならば一緒に行こうか」

「やめてよ! 兄上と連れション? しかも、僕達の手首は今手錠で繋がれているんだよ。この状態で一緒に入る所なんか見られたら、みんなの妄想が膨らんじゃうよ」

「………………。だが、外して執務室を出たら戻って来ないだろう」

「大丈夫だよ。信頼できる護衛がお供してくれるから」

 その護衛がアレックスを執務室から毎日逃がすから、頭を抱えているんだろうが! と、クロヴィスは叫びたかったが飲み込んだ。

 連日に渡るアレックスの脱走により、クロヴィスはアレックスと一緒の執務室で仕事をする事にした。
 しかし、アレックスは何かと理由を付けて脱走。

 さすがに弟を椅子に紐で括り付けられなかったクロヴィスは、自分の手首とアレックスの手首を手錠で繋いた。
 鍵はクロヴィスが持っている。

「そう言って昨日も逃げただろう」

「今日は逃げないよ。信じて」

 全く信じられない。
 眉間にしわを寄せて唸るクロヴィス。

「兄上、良く考えてご覧よ。僕達がこの状態で王宮内をうろついたら、みんななんて思うかな? しかも一緒にお手洗いでしょ。巷では男同士の恋の物語が流行ったり流行らなかったりしているみたいだよ。兄上と僕のこんな噂が広まっていいの? まあ、僕にはヨアンナがいるからいいけどさ。兄上は今婚約者募集中でしょう? 探すの大変になるんじゃない」

 流行っているのか流行っていないのか。確かに、そのような噂が広まるのはやめてほしいが、クロヴィスはミレリア以外と結婚する気がなかった。
 だから新しい婚約者が見つからない事はどうでもいい。ただ、ミレリアにまで勘違いされるのは切ないが。

 それにアレックスは、昨日も似たような理由でクロヴィスに手枷を外させ逃走した。
 ちなみにヨアンナとは、アレックスの婚約者だ。

「構わない」

「そうだろう? うんうん。やっぱり兄上も僕と恋人同士なんて思われた……えっ? なんだって」

「だから、アレックスとそういう噂が立っても構わなないから、このまま行くと言っている」

「えっ? あっ、いや。まさか、兄上って男の人が恋愛対象!?」

 アレックスは両腕で自分を抱きしめて、クロヴィスから距離をとろうと離れた。

「何を勘違いしている。そんな訳無いだろ。莫迦な事を言っていないでさっさと行くぞ。いつまで経っても仕事が片付かないだろう」

 アレックスはクロヴィスに引きづられるように、執務室を後にしたのだった。
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