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1.僕の父は国王ではなかった(アレックス視点)
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アレックスは幼少の頃は活発で聡明な子どもだった。
「兄上! 今日の稽古の後は母上の部屋に一緒に行かない? 今王都で人気のショコラが手に入ったって、今朝母上が言っていたんだ」
「いや。僕はいいよ。僕が行ったら王妃様を嫌な気持ちにさせるから」
「母上は兄上とも話したいって言ってるよ。そんな事ないって」
クロヴィスは困った顔をした。
クロヴィスは自分達親子はここに居てはいけないと言い、王妃の視界に入らないように過ごしている事をアレックスは知っている。
しかし、王妃はクロヴィスの事を嫌っていない。どうやって接して良いのか戸惑ってはいるようだが。
「アレックス。クロヴィス。遅いぞ!」
遠くから声を張り上げたのは、叔父のジョージだ。
急いでジョージの所へ向う二人。
アレックスとクロヴィスの叔父は、王の弟で騎士団長だ。そして、アレックスとクロヴィスの剣の稽古をつけてくれている。
「「遅くなってすみません」」
「未来の王になる者は時間の管理も大切だ」
「「はい」」
ジョージはクロヴィスの方を向いて言った。
自分が王太子になると思っているアレックスは納得がいかない。
父親の国王ですら、王妃の子どもだからアレックスを王太子にすると言ってるのに、叔父のジョージはクロヴィスが王太子になると思っているのだ。
それにジョージは、クロヴィスよりもアレックスに対して少しだけ厳しい。
アレックスは時々自分は叔父に嫌われているのでは? と思う事もあった。
アレックスが十三歳になった年の豊穣祭の日。
昼間の式典が終わり、夜は王宮で舞踏会が開かれた。
アレックスは気心知れた友人達と会話を楽しんだ後、クロヴィスの事が気に掛かったので探す事にした。
人混みに紛れてクロヴィスに心無い言葉をぶつける輩は何処にでもいるものだ。
クロヴィスを探していたアレックスだが、視界に入ったのは叔父のジョージだった。
愛しい人を見つめるような眼差しで誰かを見ている。
叔父上にもとうとう春が来たのか?
三十代半ばの叔父は、まだ未婚で独身だ。それなりにモテているように見えるのだが、全て断っているようだ。
アレックスはニヤリと笑ってジョージの想い人を探す。
ん? あれは母上? いや。母上の友人のバラーラ夫人か? どっちにしたって人妻。ダメだろ叔父上。
アレックスがジョージと王妃達をちらちらと見ていると、王妃がジョージの視線に気づいた。
それは一瞬。ほんの一瞬だった。
ジョージの視線に気づいた王妃は口元を緩ませた。
えっ、嘘だろ。母上、不倫はダメだって。国王の妻が不倫って…………。
だから、母上は兄上に優しいのか。だって、母上が好きなのは父上じゃなくて叔父上なのだから。
僕が生まれてきたのは奇跡だな。だって、父上と母上はお互いに別の人が好きなのだから。………………まてよ。叔父上は兄上が王になるべきだと思っている。誰もが次の王は僕がなると思っているのに。
頭の中がその事でいっぱいになったアレックスは、次の日にジョージの部屋を訪ねた。
「アレックスか。珍しいな。稽古の事か?」
「…………」
「アレックス? 何かあったのか?」
「叔父上は僕が嫌いだから、厳しくするの?」
「そんな訳ないだろう? アレックスに立派に育って欲しいからだ」
ジョージは困った顔をしてアレックスを見た。
「兄上よりも立派に育って欲しい?」
「ん? まあ、そうだな」
「王になって欲しいのは兄上なのに? 僕の方が兄上よりも立派に育って欲しいの?」
「アレックス……話が見えないのだが。私は二人共立派に育って欲しいと思っているよ」
ジョージは優しい眼差しで、アレックスを見た。
「…………叔父上は父上?」
「な、にを。何を言っている」
「だから、叔父上は僕の父上?」
ジョージの目が泳いでいる。
アレックスは真実を悟った。
「やはりそうなのか」
「誰が。誰がそんな事を言ったのだ!」
すごい剣幕でアレックスに詰め寄るジョージ。
「昨日の式典で叔父上と母上を見ていたら気づいた」
アレックスの言葉を聞いて、ソファに沈み込むように座ったジョージ。
「兄上! 今日の稽古の後は母上の部屋に一緒に行かない? 今王都で人気のショコラが手に入ったって、今朝母上が言っていたんだ」
「いや。僕はいいよ。僕が行ったら王妃様を嫌な気持ちにさせるから」
「母上は兄上とも話したいって言ってるよ。そんな事ないって」
クロヴィスは困った顔をした。
クロヴィスは自分達親子はここに居てはいけないと言い、王妃の視界に入らないように過ごしている事をアレックスは知っている。
しかし、王妃はクロヴィスの事を嫌っていない。どうやって接して良いのか戸惑ってはいるようだが。
「アレックス。クロヴィス。遅いぞ!」
遠くから声を張り上げたのは、叔父のジョージだ。
急いでジョージの所へ向う二人。
アレックスとクロヴィスの叔父は、王の弟で騎士団長だ。そして、アレックスとクロヴィスの剣の稽古をつけてくれている。
「「遅くなってすみません」」
「未来の王になる者は時間の管理も大切だ」
「「はい」」
ジョージはクロヴィスの方を向いて言った。
自分が王太子になると思っているアレックスは納得がいかない。
父親の国王ですら、王妃の子どもだからアレックスを王太子にすると言ってるのに、叔父のジョージはクロヴィスが王太子になると思っているのだ。
それにジョージは、クロヴィスよりもアレックスに対して少しだけ厳しい。
アレックスは時々自分は叔父に嫌われているのでは? と思う事もあった。
アレックスが十三歳になった年の豊穣祭の日。
昼間の式典が終わり、夜は王宮で舞踏会が開かれた。
アレックスは気心知れた友人達と会話を楽しんだ後、クロヴィスの事が気に掛かったので探す事にした。
人混みに紛れてクロヴィスに心無い言葉をぶつける輩は何処にでもいるものだ。
クロヴィスを探していたアレックスだが、視界に入ったのは叔父のジョージだった。
愛しい人を見つめるような眼差しで誰かを見ている。
叔父上にもとうとう春が来たのか?
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アレックスはニヤリと笑ってジョージの想い人を探す。
ん? あれは母上? いや。母上の友人のバラーラ夫人か? どっちにしたって人妻。ダメだろ叔父上。
アレックスがジョージと王妃達をちらちらと見ていると、王妃がジョージの視線に気づいた。
それは一瞬。ほんの一瞬だった。
ジョージの視線に気づいた王妃は口元を緩ませた。
えっ、嘘だろ。母上、不倫はダメだって。国王の妻が不倫って…………。
だから、母上は兄上に優しいのか。だって、母上が好きなのは父上じゃなくて叔父上なのだから。
僕が生まれてきたのは奇跡だな。だって、父上と母上はお互いに別の人が好きなのだから。………………まてよ。叔父上は兄上が王になるべきだと思っている。誰もが次の王は僕がなると思っているのに。
頭の中がその事でいっぱいになったアレックスは、次の日にジョージの部屋を訪ねた。
「アレックスか。珍しいな。稽古の事か?」
「…………」
「アレックス? 何かあったのか?」
「叔父上は僕が嫌いだから、厳しくするの?」
「そんな訳ないだろう? アレックスに立派に育って欲しいからだ」
ジョージは困った顔をしてアレックスを見た。
「兄上よりも立派に育って欲しい?」
「ん? まあ、そうだな」
「王になって欲しいのは兄上なのに? 僕の方が兄上よりも立派に育って欲しいの?」
「アレックス……話が見えないのだが。私は二人共立派に育って欲しいと思っているよ」
ジョージは優しい眼差しで、アレックスを見た。
「…………叔父上は父上?」
「な、にを。何を言っている」
「だから、叔父上は僕の父上?」
ジョージの目が泳いでいる。
アレックスは真実を悟った。
「やはりそうなのか」
「誰が。誰がそんな事を言ったのだ!」
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「昨日の式典で叔父上と母上を見ていたら気づいた」
アレックスの言葉を聞いて、ソファに沈み込むように座ったジョージ。
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