王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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裏切りの街角、冷徹な王太子

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クラリスは重いまぶたを、ゆっくりと持ち上げた。

……ここは?

視界が徐々に焦点を結び、見慣れた天井と家具が目に入る。
自室だと理解したその瞬間、意識を手放す直前の出来事が、電流のように脳裏をよぎった。
慌てて起き上がったクラリスの視界に、優しいまなざしの側近――フィリップスが映る。

「フィリップス……」

フィリップスはほっと息をつき、穏やかに微笑んだ。

「良かった。ご気分はいかがですか?」

「どうして……あなたがここに?」

不安げなクラリスを落ち着かせるように、フィリップスはゆっくりと言葉を選ぶ。

「妃殿下は……スラム街の裏路地で拉致されかけたのを覚えていらっしゃいますか?」

「ええ……」

フィリップスは小さく頷き、安心させるように続けた。

「テオドールが護衛に当たっておりましたから、幸いでした。
彼が難なく妃殿下を救い出し、ここへ連れ帰ったのですよ」

クラリスは目を見開く。

「テオドールが?……だって、あれほどの人数がいたのよ?」

「はい。しかし、相手が悪かったのです。彼はテオドールですからね。
正直、私ではああもいきません」

……

クラリスは眉をひそめる。

「テオドールは……?」

「ご無事ですよ。ただ――」

「ただ?」

「妃殿下が目を覚まされたとき、自分がそばにいてはご機嫌を損ねるだろうと。
すでに執務に戻っておりますので、ご安心を」

クラリスは馬車での自分の態度を思い出し、胸がちくりと痛んだ。
それを見透かしたように、フィリップスは話題を切り替える。

「喉が渇いていませんか? 飲み物を用意させますね」

フィリップスがベルを鳴らすと、クラリスは素直に笑みを返した。

「フィリップス……ありがとう。あなたがいてくれて助かるわ」

その言葉が部屋に溶け始めたちょうどその時、
果実水を抱えたフリードリヒが、のんきに扉を開けて入ってきた。

クラリスは“裏切者”を見るようにフィリップスへ視線を送るが、
本人は「何か?」と言いたげに首をかしげるだけ。

……フィリップス、あなたまで。


バツの悪さを隠しきれないままフリードリヒを見上げると、彼は相変わらずの軽やかな声で口を開いた。

「具合はどう?」

「……おかげさまで」

「で? 理解できたかな。自身が置かれている“立場”というものを」

……どこまでも嫌味な男ね。

クラリスが言い返し方を探していると、フリードリヒはさらに追い打ちをかける。

「確か……君は護身術に長けている、とか?」

……テオドールね。ほんと余計なことを!

「違います! あれはいきなりだったのよ。
あんな薬品を急に嗅がされたら、誰だって!」

フリードリヒはわずかに口角を上げた。

「クラリス。
騎士の決闘じゃあるまいし、拉致というのは“いきなり”だから成功するんだよ。
奴らが『これから襲います』なんて、親切に教えてくれるわけないだろう?」

言葉は柔らかく、しかし刃のように冷たい。

「そういう輩が多い場所に、君は自らノコノコと出向いている――そういうことだ」

……

クラリスは何も言い返せなかった。
彼の言葉が正しいからこそ。


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