王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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真実の香り

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「ねえ、テオドール。貴方、いつまでピンチヒッターなわけ?」

デビュタントのエスコートを終えたフィリップスは、未だクラリスの元へ戻って来ない。それどころか、最近ではフリードリヒの側で仕えているらしい。

「さぁ、いつまででしょうね? 大方フィリップスが音を上げたということでしょうか」

テオドールはクラリスを見ることなく、目の前の書類と格闘している。

「そんなわけないわ! 私はそれはそれは大切にしていたのよ?」

クラリスが不満げに言っても、テオドールは相変わらず執務に集中している。フリードリヒはクラリスの護衛を強化するため、テオドールを彼女に付けたのだ。

「ねえ、テオドール。スラム街で私を襲ったのは、殿下の差し金じゃないわよね?」

この問いには、さすがのテオドールも手を止め、クラリスを怪訝そうに見た。

「違うわよね……そうじゃなくて、あの時、殿下は“そういう輩がいる場所に私がノコノコ行く”って話されてわよね?だけど……私を襲ったのは、スラム街の人間ではないと思うの」

テオドールは眉をピクリと上げた。

「何故そう思われるのですか?」

「確信はないのだけど……ただ、あの時ふわりと香ったのよ。いい香りが……あれは恐らく貴族か何か……間違いなくスラムの人間の香りじゃないの」

「……スラムの人間の香りが分かるのですか?」

「そうではないけど……何ていうのかしら。スラムのあの殺伐とした空気感じゃなくて、夜会などで香る香りだったの。それにあの薬品……かすかに甘い香りがしたの。詳しくはないけど、恐らく滅多に出回らない代物だと思うの」

テオドールは少し考え込む。

「だから、殿下の差し金だと? そこまでする理由はありませんが……」

「……スラムに行かせないためとか?」

「貴女がスラムに行くのを喜んで送り出す者はいませんよ。しかし、殿下がそれを許さないなら、そう言うはずです。殿下が許可しなければ、貴女はスラムに行くことなど出来ませんからね」

「そうよね……だから確認したの。誰か他に、私がスラムに行くのを邪魔したい人がいるのかと思って」

「何のために?」

「……」

沈黙が流れる。テオドールはじっとクラリスを見つめ、やがて立ち上がった。

「思い当たることがありそうですね?」

クラリスはテオドールの真剣な視線に、自然と背筋を伸ばす。

「何よ?」

「ピンチヒッターでも何でもありません。今の私は、貴女の護衛を兼ねた側近です。命に代えても、貴女を守り抜くのが私の使命です」

初めて見るテオドールの真剣な眼差しに、クラリスはただ頷くほかにできなかった。
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