王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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アルフレッドへの王妃の思い

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広間に、しんとした静寂が戻る。

王妃は騒がしい王太子御一行を見送り、あとに続くヨハネスとアルフレッドの後ろ姿を視線で追った。そして、アルフレッドをそっと呼び止める。

『アル…』

その声は、思いのほか広間に響き渡った。
アルフレッドは足を止め、ゆっくりと振り返る。王妃に向かって歩みを進めるその姿は、どこか緊張を孕んでいた。

『アル、ごめんなさいね』

元来、表情の少ないアルフレッドは、わずかに首を傾げる。
王妃は深く息を吐き、静かに言葉を紡いだ。

『本当は、もっと早く決着をつけるべきだったのに』

アルフレッドは短く、しかし確かに答えた。

『いえ、絶妙なタイミングだったかと存じます』

王妃は小さく息を吐き、さらに一歩近づく。

『先程は、ひとつだけ言わなかったことがあるの。
でも、貴方には伝えたくて…』

アルフレッドは言葉を待つように静かに見つめる。

『我が国の最愛の息子――私の息子アルフレッドを、事もあろうか踏み台にしようとは言語道断。
でも、そこには触れなかったから…』

アルフレッドは珍しく口角をわずかに上げ、柔らかな声で答える。

『私を慮ってくださったのでしょう。わかっております』

王妃は安堵の微笑みを浮かべる。

『アル、私は確かに貴方やヨハネスを産んではいない。
けれど、王太子妃として、貴方たちを息子のように接してきたつもりよ。
寧ろ、フリードリヒは私との時間が少なかったから、私は貴方たちとの時間の方が長かったはず』

アルフレッドは懐かしむように目を細める。

『そうでしたね。義母上は、分け隔てなく私たちを大切にしてくださいました』

王妃は柔らかく微笑みながら、静かに続ける。

『今回、たまたまフリードリヒとその妃の問題であったけれど、これがもし貴方であっても、私は同じことをしたわ』

『そうでしょうね』

二人は小さく笑い合う。

王妃は視線を広間の奥に向け、そしてアルフレッドに告げた。

『では、そろそろ…余り長居をしていると、フリードリヒが拗ねてしまいます故』

アルフレッドは微笑み、軽く頭を下げる。王妃も小さく頷いた。

アルフレッドの背中を見送りながら、王妃は静かに声をかける。

『アル、統率者になる気持ちは、決して捨ててはいけませんよ』

驚きの色を浮かべて振り返るアルフレッドに、王妃は柔らかく、しかし重みのある口調で続けた。

『何も、陰謀を企てろと言っているのではありません。
王子である以上、いつ統率者となってもおかしくはないのです。
その時に慌てず対応できる力を、今のうちに養いなさい』

『それは、結果的にフリードリヒのためにもなるのよ。
王子たるもの、この緊張感は皆、持ち合わせていなくてはならない。
いいわね?』

義母として、そしてランズ王国王妃としての言葉は、静かにアルフレッドの胸に届く。

アルフレッドは最上級の礼を取り、静かに広間を後にした。

王妃はその背を見送りながら、心の中でそっと祈るように息をついた。

―どうか、貴方の力で、そして心で、この国を守り抜いてほしい、と。
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