王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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王族エリアの侵入者

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ファビウスの肩を抱き、アルフレッドは部屋を後にすると、ヨハネスも側近のアンドラを連れて出ていこうとした。

「ヨハネス、ご苦労であった。」

フリードリヒは弟を労い、微笑む。

「まぁ、半分は僕の責任だからね?でも、あんなにあっさり罠にハマるとは思わなかったよ。」

ヨハネスも執務室を後にした。

一息ついたクラリスが私室に戻ろうとしたその時――

「まだ残っていましたわ!殿下、ここにも無断侵入者がおりますわ!すぐに取り押さえなければ!」

眠そうに頬杖をつくミハエルを指差すクラリスに、

「義兄上は私が招待しているのだから無断侵入ではないよ。」

「ね?酷いと思わない?実の兄を捕らえよという妹ってどうなの?」

ミハエルはたまたま横にいたフィリップスに向かって訊く。

「君、妹は?」

「先日デビュタントを迎えた妹が一人おります。」

「そうか~初々しくて可愛い盛りだね?」

…何言ってるの?この人は…

クラリスは怪訝そうにミハエルを見つめる。

「見えない所に愛だね、クラリス。」

フリードリヒは、かつてクラリスから贈られた言葉をそのまま返すように微笑んだ。

…?

ポカンと考え込むクラリスにフリードリヒが微笑む。その二人を見守るミハエルは、突然口を開いた。

「ねえ、ところでクラリスが狙われてるってどういうことかな?」

…。

側近二人も思わず固まる…。

「ねえ、狙われてるってまさか命じゃないよね?」

少しきつめの物言いに、クラリスは慌てて釈明する。

「お、お兄様。そんなわけありませんわよ~。ほら、私を女性として手に入れたい!すなわち狙っている方が多い、って話ですのよ!」

…おいおい。女性として狙う男なんて一人も聞いたことないんだけどな…。

テオドールは怪訝そうにクラリスを見つめるも、この場で突っ込むことはできない。

ミハエルはにやりと笑い、破顔する。

「なるほどね、そりゃあリントン王女だから致し方ないよね。でもよほどの身の程知らずもいるもんだな?すでに王太子妃なのに。」

クラリスは首を傾げてその様子を見つめる。ミハエルは視線に気づき、にやりとする。

「うん?」

…やはりおかしいわ。

「お兄様、今宵は早めにお休みになられた方がよろしいかと。疲れがたまっていらっしゃるようですもの。」

このような砕けた会話をするのはいつぶりだろうか。立太子してから、ミハエルとこんな会話をした記憶はクラリスにはない。

昔を懐かしむクラリスをよそに、ミハエルはフリードリヒの前に歩み寄った。

「本当だね?」

完璧な王太子スマイルを向けるミハエルに、フリードリヒは事の詳細を包み隠さず話し出した。

…!

驚く三人を気にせず、フリードリヒは正直に話す。ミハエルは安堵するかのように耳を傾ける。

「ねえ、ヨハネス殿下って…さっきの英雄?」

…英雄って…。

頷くフリードリヒを見て、ミハエルは考え込む。

「なに?こじらせちゃってた感じ?」

思わず王太子の仮面を外し、隣のフィリップスに尋ねる。フィリップスは苦笑する。

「でもまぁ、色々あって今は解決済みってことだね。良かった!後はあのミケル殿だけか。あのまま諦めてくれるかどうか…」

ブツブツと呟きながら、ミハエルは踵を返す。フィリップスに何気なく訊ねた。

「で?何て媚薬だったの?」

「へ?」

固まるフィリップスに、ミハエルは笑いながら言う。

「だから、クラリスとその使えない側近が嗅がされた媚薬だよ。媚薬にも色々あるだろ?王族や上位貴族なら一度は経験するものだけどね?南国のアントワじゃなきゃ、まあそこそこ耐性持ってるだろうし。」

…。

…。

固まるランズ王国の親ガラスと二羽のガラス。

三人を見てミハエルは、

「まさか…」

振り返りフリードリヒを見ると、フリードリヒは静かに頷いた。

ミハエルは顔をしかめ、穏やかな様子とは程遠い表情で言った。

「側近を呼んでくれ。」

三人に向けられたその高ぶる感情に、誰も動けない。テオドールは先程からすでにミハエルと一緒にこの部屋にいるのだ。

それでもミハエルは隣のフィリップスに向かい、なおも低く真剣な声で繰り返す。

「側近を呼べ。」

そのとき、テオドールが一歩前に出て最上級の礼を取った。

ミハエルは驚き、フリードリヒに顔を向ける。

「何でここにいるの?罰は?お咎めなしなの?この国は。フリードリヒ殿の友人だからなの?」

「お兄様!テオは私を助けてくれたのよ!何てことをおっしゃるの!」

クラリスはテオドールの前に立つも、ミハエルはクラリスを軽く押しのける。

「お前は黙っていろ!」

初めて見るミハエルの乱暴さに、クラリスは言葉を失った。

ミハエルは静かにテオドールの前に立ち、低く問いかける。

「聞かせてくれ。アントワの威力は通常の媚薬の10倍、いや100倍とも言われている。それに侵された男女が狭い牢に閉じ込められて、何もなかったと言えるその根性は見上げたものだ。狭い密室にお腹の空かせたライオンと姫。その上、姫も食ってほしそうにしていたはずだ。罪人でなくても、その姫を助けるという建前がある以上、助けるよね?君たちは?」

ミハエルはフリードリヒとフィリップスに視線を送り、二人は静かに頷く。

「これが普通なんだよ。じゃあ言い方を変えよう。クラリスの兄としてではなく、リントン王国王太子として聞く。」

テオドールはゴクリと唾を飲み込む。

「友好国なら、嘘やごまかしがあれば先には進めない。そのくらいわかるよね?」

真っ直ぐにミハエルを見るテオドールは、静かに頷く。

「君は檻の中のライオンだったよね?」

「はい。」

「お腹の空かせたライオンの前に、物欲しそうな姫がいたよね?」

「はい。」

「姫も体が焦げ付くように火照り、瞳はウルウルしていたはずだ。そんな姫を救おうとは思わなかったのか?」

「はい。」

ミハエルは大きくため息をつく。

「とにかく君は使えない。君がクラリスの側でノウノウとしているなんて許せない。」

ミハエルは焦るクラリスの腕を掴む。

「殿下、恐れながら私は妃殿下の側近でございます。いくら妃殿下の兄上でも、妃殿下を強引に連れ出すなど黙って見ているわけには参りません。」

ミハエルは目を見開く。

「お前!誰に向かって言ってる?そもそも己の義務も果たせぬお前が偉そうに言うな!」

クラリスは初めて見るミハエルの姿に、声も出せなかった。
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