56 / 85
忠誠と誓いの夜
しおりを挟む
「お待ちください。」
声を掛けたのはフリードリヒだった。
フリードリヒはクラリスの手をミハエルからそっと取り、後ろに下がらせる。
「友好国の外交において、ごまかしはご法度だよ?それとも何?友好国だと思っていたのは私だけかな?」
フリードリヒは首を静かに横に振り、言葉を続ける。
「義兄上、私も信じられませんでした。もしテオドールがクラリスに手をつけていたら、私は彼を切っていたでしょう。二度と会うこともなかったと思います。」
ミハエルは驚き、フリードリヒを見つめた。
「…あの日、救出したクラリスを馬車の中で、そして宮のベッドで眠ることなく慰め、解毒させたのは間違いなくこの私です。」
何も覚えていないクラリスは、赤面して俯く。フィリップスもまた、ミハエルに頭を垂れ、口を開いた。
「恐れながら、私からもよろしいでしょうか?」
ミハエルは少し驚いたようにフィリップスを見ると、頷いた。
「…あの日、第1王子に連れられ宮に戻ってきたテオドールは、体中傷だらけでした。己の体を傷め耐えていたのでしょう。その晩、彼の体から媚薬を解毒させるために、一晩で7人も使いました。」
「7人?」
思わず声を上げたミハエルは、テオドールを驚いたように見る。フィリップスに尋ねた。
「それは彼がタフなのか?それともアントワの威力か?」
フィリップスは苦笑いを浮かべ、答える。
「双方かと…」
ミハエルは呆れたようにテオドールを見つめる。
「君はその…淡白ではなく、むしろタフな方だと思うが、そこまでさせたのはフリードリヒ殿下への忠誠か?」
テオドールはミハエルを真っ直ぐに見据え、静かに答えた。
「それもあります。」
「それも?」
「私は『借りは必ず返す』ように育てられました。以前、リントン王国から使者が来られた時、その使者は王女としてすぐに帰るように命じられました。しかし、私は…」
ミハエルはバツが悪そうに苦笑する。
「ああ、あの時ね…。ってか君、何でそこまで知ってるの?本当に恥ずかしいね。秘密裏に進める話だろうに…」
眉間にシワを寄せるミハエルに、テオドールは静かに答える。
「はい、私の知るべき話ではありません。ですから部屋を出ようとしました。しかし、妃殿下は私に部屋を出るよう促すのではなく、その者を“切れ”と…」
「切れ?」
「正確には『少し痛めつけろ』と。そうすれば、リントン使者として他国での使命を果たせず、恩情が与えられるのではないかと考えられたのです。」
「使命を果たさせてやってほしかったけどね。」
「そうすれば…その使者が使命を果たしたならば、私が妃殿下にみすみす逃げられた汚名を着せられる。主従関係ではあるけれど、裏切られた感情を側近である私に味わせたくはない、と。」
…静まり返る一同。
「使者は言いました。『リントンが大切でないのか?』と。妃殿下はもちろん大切です。ですが、母国リントンの使者の使命よりも、側近になって間もない私のことを気にかけてくださいました。その時、私は命ある限り妃殿下をお守りすると誓いました。」
ここまで詳細を知らされていないフリードリヒも、驚いた表情で固まる。
ミハエルは黙りこくり、テオドールを見つめる。しかしテオドールの真っ直ぐな視線に耐えきれず、やがていつものミハエルに戻る。
「クラリス、では夜会までゆっくりさせてもらうよ。」
…え?
「お兄様、夜会までこちらに残られるのですか?」
ミハエルは眉を下げ、フリードリヒに向かって言う。
「ね?冷たい妹だろ?」
…いやいや、いつも自国の用だけ済ませてさっさと帰ってくるのがデフォでしたよね?
クラリスは目の前のミハエルを不思議そうに見つめ、しばらく放心していた。
声を掛けたのはフリードリヒだった。
フリードリヒはクラリスの手をミハエルからそっと取り、後ろに下がらせる。
「友好国の外交において、ごまかしはご法度だよ?それとも何?友好国だと思っていたのは私だけかな?」
フリードリヒは首を静かに横に振り、言葉を続ける。
「義兄上、私も信じられませんでした。もしテオドールがクラリスに手をつけていたら、私は彼を切っていたでしょう。二度と会うこともなかったと思います。」
ミハエルは驚き、フリードリヒを見つめた。
「…あの日、救出したクラリスを馬車の中で、そして宮のベッドで眠ることなく慰め、解毒させたのは間違いなくこの私です。」
何も覚えていないクラリスは、赤面して俯く。フィリップスもまた、ミハエルに頭を垂れ、口を開いた。
「恐れながら、私からもよろしいでしょうか?」
ミハエルは少し驚いたようにフィリップスを見ると、頷いた。
「…あの日、第1王子に連れられ宮に戻ってきたテオドールは、体中傷だらけでした。己の体を傷め耐えていたのでしょう。その晩、彼の体から媚薬を解毒させるために、一晩で7人も使いました。」
「7人?」
思わず声を上げたミハエルは、テオドールを驚いたように見る。フィリップスに尋ねた。
「それは彼がタフなのか?それともアントワの威力か?」
フィリップスは苦笑いを浮かべ、答える。
「双方かと…」
ミハエルは呆れたようにテオドールを見つめる。
「君はその…淡白ではなく、むしろタフな方だと思うが、そこまでさせたのはフリードリヒ殿下への忠誠か?」
テオドールはミハエルを真っ直ぐに見据え、静かに答えた。
「それもあります。」
「それも?」
「私は『借りは必ず返す』ように育てられました。以前、リントン王国から使者が来られた時、その使者は王女としてすぐに帰るように命じられました。しかし、私は…」
ミハエルはバツが悪そうに苦笑する。
「ああ、あの時ね…。ってか君、何でそこまで知ってるの?本当に恥ずかしいね。秘密裏に進める話だろうに…」
眉間にシワを寄せるミハエルに、テオドールは静かに答える。
「はい、私の知るべき話ではありません。ですから部屋を出ようとしました。しかし、妃殿下は私に部屋を出るよう促すのではなく、その者を“切れ”と…」
「切れ?」
「正確には『少し痛めつけろ』と。そうすれば、リントン使者として他国での使命を果たせず、恩情が与えられるのではないかと考えられたのです。」
「使命を果たさせてやってほしかったけどね。」
「そうすれば…その使者が使命を果たしたならば、私が妃殿下にみすみす逃げられた汚名を着せられる。主従関係ではあるけれど、裏切られた感情を側近である私に味わせたくはない、と。」
…静まり返る一同。
「使者は言いました。『リントンが大切でないのか?』と。妃殿下はもちろん大切です。ですが、母国リントンの使者の使命よりも、側近になって間もない私のことを気にかけてくださいました。その時、私は命ある限り妃殿下をお守りすると誓いました。」
ここまで詳細を知らされていないフリードリヒも、驚いた表情で固まる。
ミハエルは黙りこくり、テオドールを見つめる。しかしテオドールの真っ直ぐな視線に耐えきれず、やがていつものミハエルに戻る。
「クラリス、では夜会までゆっくりさせてもらうよ。」
…え?
「お兄様、夜会までこちらに残られるのですか?」
ミハエルは眉を下げ、フリードリヒに向かって言う。
「ね?冷たい妹だろ?」
…いやいや、いつも自国の用だけ済ませてさっさと帰ってくるのがデフォでしたよね?
クラリスは目の前のミハエルを不思議そうに見つめ、しばらく放心していた。
0
あなたにおすすめの小説
『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』
鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」
婚約破棄をきっかけに、
貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。
彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく――
働かないという選択。
爵位と領地、屋敷を手放し、
領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、
彼女はひっそりと姿を消す。
山の奥で始まるのは、
誰にも評価されず、誰にも感謝せず、
それでも不自由のない、静かな日々。
陰謀も、追手も、劇的な再会もない。
あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、
「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。
働かない。
争わない。
名を残さない。
それでも――
自分の人生を、自分のために選び切る。
これは、
頑張らないことを肯定する物語。
静かに失踪した元貴族令嬢が、
誰にも縛られず生きるまでを描いた、
“何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました
ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」
公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。
留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。
※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。
【完結】
隠された第四皇女
山田ランチ
恋愛
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
やっかいな幼なじみは御免です!
ゆきな
恋愛
有名な3人組がいた。
アリス・マイヤーズ子爵令嬢に、マーティ・エドウィン男爵令息、それからシェイマス・パウエル伯爵令息である。
整った顔立ちに、豊かな金髪の彼らは幼なじみ。
いつも皆の注目の的だった。
ネリー・ディアス伯爵令嬢ももちろん、遠巻きに彼らを見ていた側だったのだが、ある日突然マーティとの婚約が決まってしまう。
それからアリスとシェイマスの婚約も。
家の為の政略結婚だと割り切って、適度に仲良くなればいい、と思っていたネリーだったが……
「ねえねえ、マーティ!聞いてるー?」
マーティといると必ず割り込んでくるアリスのせいで、積もり積もっていくイライラ。
「そんなにイチャイチャしたいなら、あなた達が婚約すれば良かったじゃない!」
なんて、口には出さないけど……はあ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる