王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

文字の大きさ
55 / 85

王族エリアの侵入者

しおりを挟む
ファビウスの肩を抱き、アルフレッドは部屋を後にすると、ヨハネスも側近のアンドラを連れて出ていこうとした。

「ヨハネス、ご苦労であった。」

フリードリヒは弟を労い、微笑む。

「まぁ、半分は僕の責任だからね?でも、あんなにあっさり罠にハマるとは思わなかったよ。」

ヨハネスも執務室を後にした。

一息ついたクラリスが私室に戻ろうとしたその時――

「まだ残っていましたわ!殿下、ここにも無断侵入者がおりますわ!すぐに取り押さえなければ!」

眠そうに頬杖をつくミハエルを指差すクラリスに、

「義兄上は私が招待しているのだから無断侵入ではないよ。」

「ね?酷いと思わない?実の兄を捕らえよという妹ってどうなの?」

ミハエルはたまたま横にいたフィリップスに向かって訊く。

「君、妹は?」

「先日デビュタントを迎えた妹が一人おります。」

「そうか~初々しくて可愛い盛りだね?」

…何言ってるの?この人は…

クラリスは怪訝そうにミハエルを見つめる。

「見えない所に愛だね、クラリス。」

フリードリヒは、かつてクラリスから贈られた言葉をそのまま返すように微笑んだ。

…?

ポカンと考え込むクラリスにフリードリヒが微笑む。その二人を見守るミハエルは、突然口を開いた。

「ねえ、ところでクラリスが狙われてるってどういうことかな?」

…。

側近二人も思わず固まる…。

「ねえ、狙われてるってまさか命じゃないよね?」

少しきつめの物言いに、クラリスは慌てて釈明する。

「お、お兄様。そんなわけありませんわよ~。ほら、私を女性として手に入れたい!すなわち狙っている方が多い、って話ですのよ!」

…おいおい。女性として狙う男なんて一人も聞いたことないんだけどな…。

テオドールは怪訝そうにクラリスを見つめるも、この場で突っ込むことはできない。

ミハエルはにやりと笑い、破顔する。

「なるほどね、そりゃあリントン王女だから致し方ないよね。でもよほどの身の程知らずもいるもんだな?すでに王太子妃なのに。」

クラリスは首を傾げてその様子を見つめる。ミハエルは視線に気づき、にやりとする。

「うん?」

…やはりおかしいわ。

「お兄様、今宵は早めにお休みになられた方がよろしいかと。疲れがたまっていらっしゃるようですもの。」

このような砕けた会話をするのはいつぶりだろうか。立太子してから、ミハエルとこんな会話をした記憶はクラリスにはない。

昔を懐かしむクラリスをよそに、ミハエルはフリードリヒの前に歩み寄った。

「本当だね?」

完璧な王太子スマイルを向けるミハエルに、フリードリヒは事の詳細を包み隠さず話し出した。

…!

驚く三人を気にせず、フリードリヒは正直に話す。ミハエルは安堵するかのように耳を傾ける。

「ねえ、ヨハネス殿下って…さっきの英雄?」

…英雄って…。

頷くフリードリヒを見て、ミハエルは考え込む。

「なに?こじらせちゃってた感じ?」

思わず王太子の仮面を外し、隣のフィリップスに尋ねる。フィリップスは苦笑する。

「でもまぁ、色々あって今は解決済みってことだね。良かった!後はあのミケル殿だけか。あのまま諦めてくれるかどうか…」

ブツブツと呟きながら、ミハエルは踵を返す。フィリップスに何気なく訊ねた。

「で?何て媚薬だったの?」

「へ?」

固まるフィリップスに、ミハエルは笑いながら言う。

「だから、クラリスとその使えない側近が嗅がされた媚薬だよ。媚薬にも色々あるだろ?王族や上位貴族なら一度は経験するものだけどね?南国のアントワじゃなきゃ、まあそこそこ耐性持ってるだろうし。」

…。

…。

固まるランズ王国の親ガラスと二羽のガラス。

三人を見てミハエルは、

「まさか…」

振り返りフリードリヒを見ると、フリードリヒは静かに頷いた。

ミハエルは顔をしかめ、穏やかな様子とは程遠い表情で言った。

「側近を呼んでくれ。」

三人に向けられたその高ぶる感情に、誰も動けない。テオドールは先程からすでにミハエルと一緒にこの部屋にいるのだ。

それでもミハエルは隣のフィリップスに向かい、なおも低く真剣な声で繰り返す。

「側近を呼べ。」

そのとき、テオドールが一歩前に出て最上級の礼を取った。

ミハエルは驚き、フリードリヒに顔を向ける。

「何でここにいるの?罰は?お咎めなしなの?この国は。フリードリヒ殿の友人だからなの?」

「お兄様!テオは私を助けてくれたのよ!何てことをおっしゃるの!」

クラリスはテオドールの前に立つも、ミハエルはクラリスを軽く押しのける。

「お前は黙っていろ!」

初めて見るミハエルの乱暴さに、クラリスは言葉を失った。

ミハエルは静かにテオドールの前に立ち、低く問いかける。

「聞かせてくれ。アントワの威力は通常の媚薬の10倍、いや100倍とも言われている。それに侵された男女が狭い牢に閉じ込められて、何もなかったと言えるその根性は見上げたものだ。狭い密室にお腹の空かせたライオンと姫。その上、姫も食ってほしそうにしていたはずだ。罪人でなくても、その姫を助けるという建前がある以上、助けるよね?君たちは?」

ミハエルはフリードリヒとフィリップスに視線を送り、二人は静かに頷く。

「これが普通なんだよ。じゃあ言い方を変えよう。クラリスの兄としてではなく、リントン王国王太子として聞く。」

テオドールはゴクリと唾を飲み込む。

「友好国なら、嘘やごまかしがあれば先には進めない。そのくらいわかるよね?」

真っ直ぐにミハエルを見るテオドールは、静かに頷く。

「君は檻の中のライオンだったよね?」

「はい。」

「お腹の空かせたライオンの前に、物欲しそうな姫がいたよね?」

「はい。」

「姫も体が焦げ付くように火照り、瞳はウルウルしていたはずだ。そんな姫を救おうとは思わなかったのか?」

「はい。」

ミハエルは大きくため息をつく。

「とにかく君は使えない。君がクラリスの側でノウノウとしているなんて許せない。」

ミハエルは焦るクラリスの腕を掴む。

「殿下、恐れながら私は妃殿下の側近でございます。いくら妃殿下の兄上でも、妃殿下を強引に連れ出すなど黙って見ているわけには参りません。」

ミハエルは目を見開く。

「お前!誰に向かって言ってる?そもそも己の義務も果たせぬお前が偉そうに言うな!」

クラリスは初めて見るミハエルの姿に、声も出せなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

『めでたしめでたし』の、その後で

ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。 手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。 まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。 しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。 ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。 そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。 しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。 継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。 それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。 シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。 そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。 彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。 彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。 2人の間の障害はそればかりではなかった。 なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。 彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。

処理中です...