72 / 85
夜会に挑むテオドール
しおりを挟む
フリードリヒが帰還して間もなく、グラン公爵とソレイン侯爵はそれぞれ国王より召喚を受けた。
二人はランズ王国の貴族籍を抜け、正式にガルフ王国の貴族籍へ移ることが決まり、最後の夜会に意気揚々と現れた。
夜会前、王太子自ら二人を呼び出し、王族エリアでの最後の謁見が行われる。
毒牙を抜き、にこやかな笑顔を浮かべるグラン公爵。
相変わらず媚びへつらう笑顔が癇に障るソレイン侯爵。
二人が広間の扉を開けると、そこにはフリードリヒ夫妻をはじめ、アルフレッド第一王子、ヨハネス第一王子、そしてそれぞれの側近が正装で後方に控えていた。
「お忙しい中、お呼び立てし申し訳ありません」
親子ほど年の離れた二人に、最後の挨拶をするフリードリヒに二人は余裕の笑みを浮かべる。
「今までご苦労様でしたね。ガルフ王国でもご無事で…我が国で大役を担っておられたお二人は、あちらではどのようなことを?」
フリードリヒの問いに、グラン公爵は大きく笑い声を上げた。
「まぁ何でも来いですな! 我々なら何でもできましょうから、ご心配は無用です」
「そうでしたか。あちらは貴族数は大陸一ですが、領地は我が国の三分の一ほどですので、案じておりました。こちらがガルフから正式に送られてきた書面です。既にお二方もお持ちかとは存じますが」
二人は余裕の笑みを浮かべる。
「はい、もちろん。ガルフ王国ミケル殿下より直々に賜りました。さぁ、今宵は最後の夜会ですから、ゆっくり楽しませてもらいましょう」
ソレイン侯爵はご満悦でグラン公爵を見た。グラン公爵も楽しそうに笑っている。
…
「せっかくですからお楽しみ頂きたいのは山々ですが、お二方は夜会への参加は出来ませんよ?」
ヨハネスは、フリードリヒとは対照的に、面倒くさそうに告げる。二人は怪訝そうにヨハネスを見やる。
「何を仰る? 第3王子はご存じないかもしれませんが、これは二か国間の友好的な取引ですからね?」
「そんなことを言っているのではありません。書面をご覧ください。除籍日は本日です。上級貴族のみ参加の夜会ですので、既に我が国に籍の無いお二方――いや、グラン家とソレイン家の参加は認められません」
二人はヨハネスを睨むと、視線をフリードリヒに向ける。フリードリヒは安堵の笑みを浮かべ、冷静に応えた。
「ヨハネスの言う通りです。今宵は我が国の上級貴族のみの参加です。来賓には友好国王族と帝国の皇帝もお呼びしています。ご理解ください」
驚いた二人は顔を見合わせ、声をあげる。
「いやいや、それならば殿下の後ろに控えるテオドール殿も同じでは?」
フリードリヒは大袈裟に首を傾げる。
「どうして?」
先程まで徹底した敬語を用いていたフリードリヒは、敢えて素に返ったように問うた。
二人はニヤリと笑う。
「そういうことですか? まぁ、テオドール殿はお父上が宰相ですから、なかなか言い出しにくいのは分かりますが…彼もガルフから誘いを受けていたのですよ?」
…別に隠してないけどね?
テオドールは表情を変えず答える。
「おっしゃる通り、こちらも頂きましたが?」
分厚い条件の書面を差し出すと、二人は己の書面との違いに驚きを隠せない。
「私はお二人とは違い、爵位をまだ持っておりませんからね。国同士のやり取りは不要です」
「だとしても、お前はもうこの国の王太子側近ではないはずだろう?」
憤る元公爵をよそに、元侯爵はテオドールが出した書面を注意深く眺める。
「私は今もこれからも代わりません。ランズ王国筆頭公爵家の嫡男ですよ?」
敢えて筆頭公爵と名乗るテオドールに、あからさまに嫌悪感を示す元公爵。
「公爵家には他にも跡取りはおろう」
「それが何か? 我が家の後継を案じて頂くとは、心が広くて結構なことです」
「そんなことを言っておるのではない。お前は何故、この取引の条件がこれほど多いのだ? それに夜会に出られないのに何故正装なのだ?」
恥も外聞も捨て疑問を口にする元公爵に、テオドールは冷静に答える。
「ですから、私は今もこれからも王太子側近、正確には王太子妃側近ですけど…」
「そんなことはどちらでも構わん! 何故お前は両方に籍を置けるのだ?」
「先程から誤解されているようですが、私はガルフ王国のお誘いは受けていません」
「な、何と。国と国の取引だぞ? お前の意思など通らんぞ?」
「だから、頭大丈夫ですか? これは国と国の取引ではないと、さっきから言っております。そもそもミケル殿には、私はテオドールを渡さないと意思を伝えましたからね」
ヨハネスは辟易した様子で吐き捨てる。
二人は混乱した頭を整理しながら、テオドールを見つめていた。
二人はランズ王国の貴族籍を抜け、正式にガルフ王国の貴族籍へ移ることが決まり、最後の夜会に意気揚々と現れた。
夜会前、王太子自ら二人を呼び出し、王族エリアでの最後の謁見が行われる。
毒牙を抜き、にこやかな笑顔を浮かべるグラン公爵。
相変わらず媚びへつらう笑顔が癇に障るソレイン侯爵。
二人が広間の扉を開けると、そこにはフリードリヒ夫妻をはじめ、アルフレッド第一王子、ヨハネス第一王子、そしてそれぞれの側近が正装で後方に控えていた。
「お忙しい中、お呼び立てし申し訳ありません」
親子ほど年の離れた二人に、最後の挨拶をするフリードリヒに二人は余裕の笑みを浮かべる。
「今までご苦労様でしたね。ガルフ王国でもご無事で…我が国で大役を担っておられたお二人は、あちらではどのようなことを?」
フリードリヒの問いに、グラン公爵は大きく笑い声を上げた。
「まぁ何でも来いですな! 我々なら何でもできましょうから、ご心配は無用です」
「そうでしたか。あちらは貴族数は大陸一ですが、領地は我が国の三分の一ほどですので、案じておりました。こちらがガルフから正式に送られてきた書面です。既にお二方もお持ちかとは存じますが」
二人は余裕の笑みを浮かべる。
「はい、もちろん。ガルフ王国ミケル殿下より直々に賜りました。さぁ、今宵は最後の夜会ですから、ゆっくり楽しませてもらいましょう」
ソレイン侯爵はご満悦でグラン公爵を見た。グラン公爵も楽しそうに笑っている。
…
「せっかくですからお楽しみ頂きたいのは山々ですが、お二方は夜会への参加は出来ませんよ?」
ヨハネスは、フリードリヒとは対照的に、面倒くさそうに告げる。二人は怪訝そうにヨハネスを見やる。
「何を仰る? 第3王子はご存じないかもしれませんが、これは二か国間の友好的な取引ですからね?」
「そんなことを言っているのではありません。書面をご覧ください。除籍日は本日です。上級貴族のみ参加の夜会ですので、既に我が国に籍の無いお二方――いや、グラン家とソレイン家の参加は認められません」
二人はヨハネスを睨むと、視線をフリードリヒに向ける。フリードリヒは安堵の笑みを浮かべ、冷静に応えた。
「ヨハネスの言う通りです。今宵は我が国の上級貴族のみの参加です。来賓には友好国王族と帝国の皇帝もお呼びしています。ご理解ください」
驚いた二人は顔を見合わせ、声をあげる。
「いやいや、それならば殿下の後ろに控えるテオドール殿も同じでは?」
フリードリヒは大袈裟に首を傾げる。
「どうして?」
先程まで徹底した敬語を用いていたフリードリヒは、敢えて素に返ったように問うた。
二人はニヤリと笑う。
「そういうことですか? まぁ、テオドール殿はお父上が宰相ですから、なかなか言い出しにくいのは分かりますが…彼もガルフから誘いを受けていたのですよ?」
…別に隠してないけどね?
テオドールは表情を変えず答える。
「おっしゃる通り、こちらも頂きましたが?」
分厚い条件の書面を差し出すと、二人は己の書面との違いに驚きを隠せない。
「私はお二人とは違い、爵位をまだ持っておりませんからね。国同士のやり取りは不要です」
「だとしても、お前はもうこの国の王太子側近ではないはずだろう?」
憤る元公爵をよそに、元侯爵はテオドールが出した書面を注意深く眺める。
「私は今もこれからも代わりません。ランズ王国筆頭公爵家の嫡男ですよ?」
敢えて筆頭公爵と名乗るテオドールに、あからさまに嫌悪感を示す元公爵。
「公爵家には他にも跡取りはおろう」
「それが何か? 我が家の後継を案じて頂くとは、心が広くて結構なことです」
「そんなことを言っておるのではない。お前は何故、この取引の条件がこれほど多いのだ? それに夜会に出られないのに何故正装なのだ?」
恥も外聞も捨て疑問を口にする元公爵に、テオドールは冷静に答える。
「ですから、私は今もこれからも王太子側近、正確には王太子妃側近ですけど…」
「そんなことはどちらでも構わん! 何故お前は両方に籍を置けるのだ?」
「先程から誤解されているようですが、私はガルフ王国のお誘いは受けていません」
「な、何と。国と国の取引だぞ? お前の意思など通らんぞ?」
「だから、頭大丈夫ですか? これは国と国の取引ではないと、さっきから言っております。そもそもミケル殿には、私はテオドールを渡さないと意思を伝えましたからね」
ヨハネスは辟易した様子で吐き捨てる。
二人は混乱した頭を整理しながら、テオドールを見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
シナモンと葡萄酒と白銀の魔杖
柳葉うら
恋愛
リーツェル王国の王都の片隅に、夜の間だけ現れるカフェがある。
名前はカフェ銀月亭。店主のエーファは元・氷晶の賢者こと王国最高峰の魔法使い。彼女が早過ぎる引退後に開いた、一風変わった店だ。
エーファは看板フェンリルのシリウスと一緒に店をきりもりするかたわら、大切な「お嬢様」を国外追放した忌々しい王太子に復讐するべく暗躍している。
ある日、エーファと年が近く顔見知りの騎士団長のランベルト・フォン・ロシュフォールが店を訪れた。
エーファの行動を訝しんだランベルトは、見張りのために毎日来るようになる。それに気づいたエーファだが、ランベルトから情報を引き出すためにわざと彼に近づき――腹の探り合いが始まった。
警戒し合っていた二人が、交流を重ねていく間に恋に落ちてしまうお話です。
エーファがカフェで出すスパイスが効いたお菓子やホットワイン、そして頼もしいモフモフ相棒の活躍もお楽しみください。
※アドベントカレンダーとして毎日更新する予定ですので応援いただけますと嬉しいです
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる