王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

文字の大きさ
73 / 85

夜会前の策略と信頼

しおりを挟む
「そもそも、第3王子が勝手に決めて良いはずがない!」

ヨハネスはテオドールを見て、ため息をひとつ落とす。テオドールも同じく頷いた。

「まあね、たまたま王宮で話しただけさ。正式にガルフ王国からの話がある前だからね。秘密裏に進んでいた話は知らないけど、あくまで正式な話の前のことさ」

「だけどさっきは『テオドールは渡さない』って…!」

「だから、それはあくまで第3王子の意思だよ。国の決定が既にあったなら、そんなことは口にしない。だが、そんなものは存在しなかった。だから、私は我が国の騎士ひとりでさえ、駒のように扱うガルフ王国にはやれないと話したまでだ」

…。

「付け加えますと、私はそもそもそんな話はお断り。己が忠誠を誓うのは生涯一度きり。それが我が公爵家の教えです。我が身果てるまでランズ王国に身を捧げる所存です」

静まり返る謁見の間に、各国王族到着の知らせが届く。まだ終わらないこの時間。即座に席を立つのは第1王子アルフレッドだった。

「皇帝もいらっしゃる。私が先に行く」

すかさず後ろに控えるファビウスも部屋を後にしようとした時、ヨハネスが声をかける。

「待て、ファビウス。貴方はリディア嬢のエスコートがあるわ!」

アルフレッドも頷く。

「ファビウス、今宵は侯爵令息として夜会に出るんだ。私なら一人で構わん」

「そんなわけにはいきませんわ!では私が」

後に続こうとしたクラリスに、ヨハネスとテオドールの心の声が揃って漏れる。

「『それが一番危ないよ』」

アルフレッドも困惑していると、フリードリヒが穏やかに声をかけた。

「フィリップス、護衛にランドールを付けて、お前は兄上に付き合ってくれるか?」

後ろに控えていたフィリップスは小さく頷き、アルフレッドを促して部屋を出る。その後ろからクラリスも小走りで追って行った。

…行くのかよ。

テオドールは心の中で突っ込む。

「で?テオドールがガルフ王国へ移籍しないと何か困るのですか?」

二人は顔を見合わせ、頷く。

「ま、まぁ別に困ることは…無いな」

「そうですね。テオドール殿も行かれるものと思っていましたので、取り乱しましたが…問題は無いですね」

二人は頭を巡らせながら最後の挨拶を終え、王宮を後にした。

二人が去った後、ヨハネスは足を投げ出してつぶやく。

「はぁ…何であんなに頭が悪いかね。夜会前にほとほと疲れたよ」

フリードリヒも疲れ果て、足を投げ出す。夜会前の第2王子と第3王子の姿とは思えぬ有様だ。

「殿下、お言葉ですが、ヨハネス殿下はお気楽ではありませんよ。此度の事も全てご存知でした。侯爵領への視察も全てそのためです」

テオドールの言葉に、フリードリヒは驚いて姿勢を正す。ヨハネスは呆れたように言った。

「誰だって分かるよ。兄上の留守に、いきなりミケル殿下が王宮に居たんだ。大方、あの二人を始末するためにテオドールをダシにしたんだろ?」

ヨハネスの言葉に、テオドールはフリードリヒを睨む。

「待て待て、説明をさせてくれ。グラン公爵は、マリネットが機密情報をガルフ王国に漏らした時点で取潰しだ。しかし、いきなり公爵家を潰すのは他国の目もある。そもそも秘密ルートを知ったのは、お前、ヨハネスだろ?」

大きく頷くテオドールを、ヨハネスは睨みつけた。

「だから少し泳がせたんだ。公爵は公爵で、娘が修道院にいるから家の行く末を案じて試行錯誤する。国への恩も忘れず、あちこち手をつけていたのは分かってた。ソレイン侯爵も同じ。王太子派を装いつつ、四方八方にいい顔をするから信用できない。だからまとめて片付けた」

…まとめてってな。

「でも我が国が罰するまではまだ早い。そんな時、ガルフ王国がテオドールに目をつけていると知った。だから極秘でミケル殿下と密会したってわけ」

…。

「取引じゃないよ? 婚約者の返す返さないの話で、あまりに必死だから(笑)。テオドールが欲しいっていうから、直接本人に打診するよう促したんだ」

…で、何でこうなる?

ヨハネスの心の声を聞いたかのように、テオドールが説明する。

「テオドールの性格からして、外堀から埋めるといいんじゃないかとね」

「外堀?」

テオドールは怪訝そうにフリードリヒを見る。

「そう、寂しがり屋だから一人では心細いかも。同じ公爵を担う者らがいれば動くかもしれないと。だから私は何も取引していない」

…さみしがりやさん♡

ヨハネスはクスクスと笑う。

「なるほど、それでミケル殿下は急いで王宮に乗り込んだ。私と話して、まず外堀からと公爵家に直々に打診したわけ。公爵にとっては棚からぼた餅。喜んで飛びついたろうね。ガルフ王国からすれば、外堀だけしか手に入らなかったわけさ」

ヨハネスは笑顔でテオドールを見るが、テオドールはそっぽを向く。

「…何だか、やり口がミハエル王太子と似てきてないか?」

テオドールは頭を抱え、リントン王国王太子の名を出す。

「まぁ、義理とはいえ兄弟だからね。で、あの二人、ガルフ王国で今まで通り生活できると思ってるのかね?」

ヨハネスの言う通り、ガルフ王国は領地が狭く貴族も多数。上下関係が希薄で、勤勉ではあるが、ランズ王国の生活に慣れた者には不自由である。

「それに気づいた時には時すでに遅し。我が国に籍はない。こちらの預かり知るところではない」

…お前たちはいつの間に?

不思議そうにフリードリヒを見る二人に、フリードリヒは嬉しそうに笑った。

「だって、犬猿の仲以上に、敵対関係いや、あの件では加害者と被害者の仲だろ(笑)?」

あの件――クラリス拉致事件。

バツの悪そうなヨハネスと照れくさそうなテオドールは黙り込む。

「流石はテオドール殿。どんな相手の心も解くお力は見上げたものですね」

アンドラの言葉に、フリードリヒは嬉しそうに頷く。

「さぁ、アンドラ。今宵はお前たちのお披露目だ。しっかり頼むぞ。ファビウスもリディア嬢と共にフォローを」

二人は最上級の礼を取った。

…。

ヨハネスとテオドールは、照れくさそうに顔を見合わせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな
恋愛
 愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。 自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。 どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。 それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。 嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。 悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!  そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

悪役令嬢は六度目の人生を平穏に送りたい

柴田はつみ
恋愛
ループ6回  いずれも死んでしまう でも今回こそ‥

処理中です...