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夜会に挑むテオドール
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フリードリヒが帰還して間もなく、グラン公爵とソレイン侯爵はそれぞれ国王より召喚を受けた。
二人はランズ王国の貴族籍を抜け、正式にガルフ王国の貴族籍へ移ることが決まり、最後の夜会に意気揚々と現れた。
夜会前、王太子自ら二人を呼び出し、王族エリアでの最後の謁見が行われる。
毒牙を抜き、にこやかな笑顔を浮かべるグラン公爵。
相変わらず媚びへつらう笑顔が癇に障るソレイン侯爵。
二人が広間の扉を開けると、そこにはフリードリヒ夫妻をはじめ、アルフレッド第一王子、ヨハネス第一王子、そしてそれぞれの側近が正装で後方に控えていた。
「お忙しい中、お呼び立てし申し訳ありません」
親子ほど年の離れた二人に、最後の挨拶をするフリードリヒに二人は余裕の笑みを浮かべる。
「今までご苦労様でしたね。ガルフ王国でもご無事で…我が国で大役を担っておられたお二人は、あちらではどのようなことを?」
フリードリヒの問いに、グラン公爵は大きく笑い声を上げた。
「まぁ何でも来いですな! 我々なら何でもできましょうから、ご心配は無用です」
「そうでしたか。あちらは貴族数は大陸一ですが、領地は我が国の三分の一ほどですので、案じておりました。こちらがガルフから正式に送られてきた書面です。既にお二方もお持ちかとは存じますが」
二人は余裕の笑みを浮かべる。
「はい、もちろん。ガルフ王国ミケル殿下より直々に賜りました。さぁ、今宵は最後の夜会ですから、ゆっくり楽しませてもらいましょう」
ソレイン侯爵はご満悦でグラン公爵を見た。グラン公爵も楽しそうに笑っている。
…
「せっかくですからお楽しみ頂きたいのは山々ですが、お二方は夜会への参加は出来ませんよ?」
ヨハネスは、フリードリヒとは対照的に、面倒くさそうに告げる。二人は怪訝そうにヨハネスを見やる。
「何を仰る? 第3王子はご存じないかもしれませんが、これは二か国間の友好的な取引ですからね?」
「そんなことを言っているのではありません。書面をご覧ください。除籍日は本日です。上級貴族のみ参加の夜会ですので、既に我が国に籍の無いお二方――いや、グラン家とソレイン家の参加は認められません」
二人はヨハネスを睨むと、視線をフリードリヒに向ける。フリードリヒは安堵の笑みを浮かべ、冷静に応えた。
「ヨハネスの言う通りです。今宵は我が国の上級貴族のみの参加です。来賓には友好国王族と帝国の皇帝もお呼びしています。ご理解ください」
驚いた二人は顔を見合わせ、声をあげる。
「いやいや、それならば殿下の後ろに控えるテオドール殿も同じでは?」
フリードリヒは大袈裟に首を傾げる。
「どうして?」
先程まで徹底した敬語を用いていたフリードリヒは、敢えて素に返ったように問うた。
二人はニヤリと笑う。
「そういうことですか? まぁ、テオドール殿はお父上が宰相ですから、なかなか言い出しにくいのは分かりますが…彼もガルフから誘いを受けていたのですよ?」
…別に隠してないけどね?
テオドールは表情を変えず答える。
「おっしゃる通り、こちらも頂きましたが?」
分厚い条件の書面を差し出すと、二人は己の書面との違いに驚きを隠せない。
「私はお二人とは違い、爵位をまだ持っておりませんからね。国同士のやり取りは不要です」
「だとしても、お前はもうこの国の王太子側近ではないはずだろう?」
憤る元公爵をよそに、元侯爵はテオドールが出した書面を注意深く眺める。
「私は今もこれからも代わりません。ランズ王国筆頭公爵家の嫡男ですよ?」
敢えて筆頭公爵と名乗るテオドールに、あからさまに嫌悪感を示す元公爵。
「公爵家には他にも跡取りはおろう」
「それが何か? 我が家の後継を案じて頂くとは、心が広くて結構なことです」
「そんなことを言っておるのではない。お前は何故、この取引の条件がこれほど多いのだ? それに夜会に出られないのに何故正装なのだ?」
恥も外聞も捨て疑問を口にする元公爵に、テオドールは冷静に答える。
「ですから、私は今もこれからも王太子側近、正確には王太子妃側近ですけど…」
「そんなことはどちらでも構わん! 何故お前は両方に籍を置けるのだ?」
「先程から誤解されているようですが、私はガルフ王国のお誘いは受けていません」
「な、何と。国と国の取引だぞ? お前の意思など通らんぞ?」
「だから、頭大丈夫ですか? これは国と国の取引ではないと、さっきから言っております。そもそもミケル殿には、私はテオドールを渡さないと意思を伝えましたからね」
ヨハネスは辟易した様子で吐き捨てる。
二人は混乱した頭を整理しながら、テオドールを見つめていた。
二人はランズ王国の貴族籍を抜け、正式にガルフ王国の貴族籍へ移ることが決まり、最後の夜会に意気揚々と現れた。
夜会前、王太子自ら二人を呼び出し、王族エリアでの最後の謁見が行われる。
毒牙を抜き、にこやかな笑顔を浮かべるグラン公爵。
相変わらず媚びへつらう笑顔が癇に障るソレイン侯爵。
二人が広間の扉を開けると、そこにはフリードリヒ夫妻をはじめ、アルフレッド第一王子、ヨハネス第一王子、そしてそれぞれの側近が正装で後方に控えていた。
「お忙しい中、お呼び立てし申し訳ありません」
親子ほど年の離れた二人に、最後の挨拶をするフリードリヒに二人は余裕の笑みを浮かべる。
「今までご苦労様でしたね。ガルフ王国でもご無事で…我が国で大役を担っておられたお二人は、あちらではどのようなことを?」
フリードリヒの問いに、グラン公爵は大きく笑い声を上げた。
「まぁ何でも来いですな! 我々なら何でもできましょうから、ご心配は無用です」
「そうでしたか。あちらは貴族数は大陸一ですが、領地は我が国の三分の一ほどですので、案じておりました。こちらがガルフから正式に送られてきた書面です。既にお二方もお持ちかとは存じますが」
二人は余裕の笑みを浮かべる。
「はい、もちろん。ガルフ王国ミケル殿下より直々に賜りました。さぁ、今宵は最後の夜会ですから、ゆっくり楽しませてもらいましょう」
ソレイン侯爵はご満悦でグラン公爵を見た。グラン公爵も楽しそうに笑っている。
…
「せっかくですからお楽しみ頂きたいのは山々ですが、お二方は夜会への参加は出来ませんよ?」
ヨハネスは、フリードリヒとは対照的に、面倒くさそうに告げる。二人は怪訝そうにヨハネスを見やる。
「何を仰る? 第3王子はご存じないかもしれませんが、これは二か国間の友好的な取引ですからね?」
「そんなことを言っているのではありません。書面をご覧ください。除籍日は本日です。上級貴族のみ参加の夜会ですので、既に我が国に籍の無いお二方――いや、グラン家とソレイン家の参加は認められません」
二人はヨハネスを睨むと、視線をフリードリヒに向ける。フリードリヒは安堵の笑みを浮かべ、冷静に応えた。
「ヨハネスの言う通りです。今宵は我が国の上級貴族のみの参加です。来賓には友好国王族と帝国の皇帝もお呼びしています。ご理解ください」
驚いた二人は顔を見合わせ、声をあげる。
「いやいや、それならば殿下の後ろに控えるテオドール殿も同じでは?」
フリードリヒは大袈裟に首を傾げる。
「どうして?」
先程まで徹底した敬語を用いていたフリードリヒは、敢えて素に返ったように問うた。
二人はニヤリと笑う。
「そういうことですか? まぁ、テオドール殿はお父上が宰相ですから、なかなか言い出しにくいのは分かりますが…彼もガルフから誘いを受けていたのですよ?」
…別に隠してないけどね?
テオドールは表情を変えず答える。
「おっしゃる通り、こちらも頂きましたが?」
分厚い条件の書面を差し出すと、二人は己の書面との違いに驚きを隠せない。
「私はお二人とは違い、爵位をまだ持っておりませんからね。国同士のやり取りは不要です」
「だとしても、お前はもうこの国の王太子側近ではないはずだろう?」
憤る元公爵をよそに、元侯爵はテオドールが出した書面を注意深く眺める。
「私は今もこれからも代わりません。ランズ王国筆頭公爵家の嫡男ですよ?」
敢えて筆頭公爵と名乗るテオドールに、あからさまに嫌悪感を示す元公爵。
「公爵家には他にも跡取りはおろう」
「それが何か? 我が家の後継を案じて頂くとは、心が広くて結構なことです」
「そんなことを言っておるのではない。お前は何故、この取引の条件がこれほど多いのだ? それに夜会に出られないのに何故正装なのだ?」
恥も外聞も捨て疑問を口にする元公爵に、テオドールは冷静に答える。
「ですから、私は今もこれからも王太子側近、正確には王太子妃側近ですけど…」
「そんなことはどちらでも構わん! 何故お前は両方に籍を置けるのだ?」
「先程から誤解されているようですが、私はガルフ王国のお誘いは受けていません」
「な、何と。国と国の取引だぞ? お前の意思など通らんぞ?」
「だから、頭大丈夫ですか? これは国と国の取引ではないと、さっきから言っております。そもそもミケル殿には、私はテオドールを渡さないと意思を伝えましたからね」
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