王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

文字の大きさ
80 / 85

夜会での真実とクラリスの宣言

しおりを挟む
『どうした?何の騒ぎだ?』

人混みの向こうから、帝国皇太子アルビオンが悠然と歩み寄る。人々は自然と左右に分かれ、皇太子のオーラが場を支配するかのように現れた。

クラリスたちは皆カーテシーで迎える。だが、拘束されている女は皇太子に向かって必死に声をあげる。

『殿下!お助けください!』

先ほどまでの勢いは消え、アルビオンを見るその目には涙が浮かんでいた。

アルビオンはまずエリザベスに視線を向ける。凛と背筋を伸ばした美しい姿の王女は、微かに震えながらも儚く、誰もが手を差し伸べずにはいられないほどの存在感を放つ。

その場に慌てて駆けつけたのは、白馬の王子──帝国第3皇子ハビエルであった。

『どうされました?兄上』

エリザベスを庇うように肩を抱き、自身の胸に引き寄せながら、アルビオンを見据える。

『いや、私も今来たところだ。何があったのか確認しているまでだ』

ハビエルは慣れ親しんだであろうその女に視線を向けると、女は息を吹き返したかのように饒舌に語り始めた。エリザベス側に有利な話の内容に、ハビエルの怒りは次第に顕わとなり、顔を赤く染める。

…落ち着くのよ。

クラリスは心の中で自らに言い聞かせる。窮地のときこそ冷静に。王女として、慌てふためくことは許されぬ。

ハビエルは怒りを滲ませつつテオドールに向かい、鋭く問う。

『真か?』

テオドールは最上級の礼を取り、ゆっくりと視線を上げる。

『この者を捕らえた経緯は概ねその通りでございます』

事実のみを端的に述べるテオドールに、女は抗議の声を上げる。

『離しなさい!』

テオドールは片腕で女をしっかりとホールドしたまま、クラリスはゆっくりと二人の前に立つ。

『この者は、私の命により捕らえたまでのことです。問題がございましたら、どうぞ私に仰せください』

ハビエルは怪訝そうにクラリスを見つめる。

『問題しかないではないか!何故エリザベスの好意を無下にする?エリザベスが心を痛めているのが分からぬか?』

クラリスは冷静に答える。

『殿下、恐れながら私が命じたのはパナン王国の侍従です。エリザベス様ではございません。今、問われているのはそこでしたよね?』

『ミランダはエリザベスを守っただけであろう?』

…この女、ミランダというのか。

テオドールは今更ながらミランダを見た。

『素晴らしい忠誠心には頭が下がります。しかし、他国の王族への無礼は許されませんわ。私への個人的な無礼はこれまで咎めたことはございません。ですが今宵は公の場。この者は一線を越えたということです』

沈黙の中、ミランダは涙を溜めて小さく答える。

『あまりにエリザベス様を無下になさるので、つい…』

アルビオンは埒のあかないやり取りに苛立ちを隠せず、声を張る。

『そもそも事の発端は?どうしてこうなるのだ?ここは夜会の場であるぞ!』

『妃殿下がエリザベス様の好意を無下にし、無礼を働きました。私も少々言い過ぎました。申し訳ありません』

一見、自らの非を認めたかのような発言は、実は墓穴であった。

『何の無礼だ?』

ハビエルがミランダに問うと、女はアルビオンを見て得意げに答える。

『皇后様の椅子を狙っているのか、と』

アルビオンとハビエルは目を見開き、クラリスを射止める。クラリスは真正面からその視線を受け止めた。

『恐れながら、話には前後がございます。その詳細をお話ししてもよろしいですか?』

クラリスはエリザベスに視線を送る。ハビエルも不思議そうにエリザベスを見つめる。アルビオンは静かにうなずいた。

『よい、申してみよ』

クラリスは静かに、しかし力強く語り始める。

『エリザベス様が我が国第1王子の妃であったことは、ご存知かと存じます』

『聞いている』

アルビオンは頷き、ハビエルは怒りを顕にする。

『それのどこが問題なのだ!』

『こちらで申し上げるのも憚れますが、僅かな王太子妃としての期間、堕胎薬を盛られたことがあり、その実行犯がスラムの人間でした。その者と繋がっていたのがエリザベス様です』

『違うわ!』

ミランダが声を荒げる。クラリスは冷静に続ける。

『どう解釈されようと、この件はパナン王太子も召喚され認められた事実です。その詳細が明らかになるうち、パナン王国は第1王子妃を踏み台に王太子妃を目論んでいたと決着し、その処分は我が国王妃がパナン王太子に一任しました』

『その件は既に終わった事。現に堕胎薬と言われますが、妃殿下は王子をお産みになられたではないか!エリザベス様はそれを乗り越え今があるのです』

…乗り越えてってお前ね。

テオドールは隣で騒ぐミランダを怪訝そうに見つめる。

『終わった事…。そう、エリザベス様がこちらにいらっしゃるということは、すでに罰を受けられたのだと思いますので、そちらについては構いません』

『な、ならば!』

衝撃の事実の前で、ハビエルは言葉を失い、複雑な表情でクラリスを見つめる。

『私がエリザベス様と親しくなれないと申し上げたのは、今の今までエリザベス様はアルフレッド様に詫び一つもしていないからです。国同士のことは置いておき、個人としてエリザベス様はアルフレッド様に何も思われていないのでしょう?政略結婚の使命を果たすべき者が、その相手ではない者との結婚を目論んでいたなど、あまりに非道です。王族として生まれたなら、その非道は理解できるはずです』

クラリスの声は会場の空気を支配し、雅楽団の音だけが、無情にも鳴り響く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな
恋愛
 愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。 自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。 どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。 それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。 嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。 悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!  そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。

シナモンと葡萄酒と白銀の魔杖

柳葉うら
恋愛
リーツェル王国の王都の片隅に、夜の間だけ現れるカフェがある。 名前はカフェ銀月亭。店主のエーファは元・氷晶の賢者こと王国最高峰の魔法使い。彼女が早過ぎる引退後に開いた、一風変わった店だ。 エーファは看板フェンリルのシリウスと一緒に店をきりもりするかたわら、大切な「お嬢様」を国外追放した忌々しい王太子に復讐するべく暗躍している。 ある日、エーファと年が近く顔見知りの騎士団長のランベルト・フォン・ロシュフォールが店を訪れた。 エーファの行動を訝しんだランベルトは、見張りのために毎日来るようになる。それに気づいたエーファだが、ランベルトから情報を引き出すためにわざと彼に近づき――腹の探り合いが始まった。 警戒し合っていた二人が、交流を重ねていく間に恋に落ちてしまうお話です。 エーファがカフェで出すスパイスが効いたお菓子やホットワイン、そして頼もしいモフモフ相棒の活躍もお楽しみください。 ※アドベントカレンダーとして毎日更新する予定ですので応援いただけますと嬉しいです

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

処理中です...