伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき

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第三話 嫌がらせ

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 その日の放課後のことだった。教室から廊下へ出て少し歩いた場所で、とある人物に絡まれた。赤い髪と瞳をもつ生徒で、確かロドニーという名前だったと思う。

「ルーカス君に近寄るとか何のつもりー。アルロみたいなハーフエルフは一人で這いつくばっておけばいいのに。それが出来ないなら、アルロは魔法学園をとっとと出ていけばいいんだよー」

 ロドニーはそう言って水魔法を放ってきた。避けられるとは思った。でも、僕が水魔法に当たらないと、ロドニーはもっと怒るだろう。だから、僕は甘んじて全身ずぶ濡れになった。寒いな。早く乾かしたい。

「すまない。僕はルーカスとほんの少し話しただけなんだ。僕とルーカスは隣の席だから、どうしても会話せざるを得ないときもある。今後なるべく関わらないよう気をつけるから、どうか許してくれないか」

 謝りつつ事情を説明してみる。

「アルロ君の言い分は分かったけどー。ルーカス君がアルロ君を研究するって言ってきかないの。アルロ君はどうやってルーカス君をたぶらかしたのかなあ。いつの間にか恋仲にでもなったのー。ハーフエルフはハニートラップがお得意なのかなあ。ああでも、人間にもなれない、エルフにもなれない、そんな出来損ないのハーフエルフには色仕掛けなんて難しいかもねー」

 ロドニーの言っていることはめちゃくちゃだった。でも、ロドニーは他人に言いがかりをつけて怒る性格でもなかった気がする。

 ロドニーは何か意図があって、僕へ話しかけてきている可能性があるな。ロドニーは情報部副部長だから、情報部部長の指示で動いているのか。それとも、エルフ嫌いな情報部部長のご機嫌取りのため、ロドニーが単独で動いているか。もちろん、単純にロドニーが気まぐれで僕へイタズラしに来た疑惑もなくはない。

「僕はルーカスの恋人なんかじゃないぞ。なんなら友達ですらない。今日初めて、僕はルーカスとまともに話したんだ。それに、男同士で恋愛とか一般的じゃないだろう」

 とにかくちゃんと説明する。ルーカスとカップルとか意味不明な妄想を垂れ流さないでほしい。

「この国では男同士でイチャイチャするの割と普通だよー。アルロ君は知らないのー。さすがアルロ君は両親に見放されただけあって、親からの教育が足りてないねー。今すぐアルロ君は図書室へ行って調べてきたらあ。あーあ。からかってやろうと思ったのに、こんな相手じゃつまんないー。やっぱりアルロ君はエルフでもない人間でもない、ただの出来損ないかあ。アルロ君との会話は退屈だから、ルーカス君もすぐ飽きちゃうと思うよー。アルロ君はいらない子だねえ。誰もアルロ君を必要としていないんだよ。今すぐアルロ君がいなくなっても、みんな喜ぶだけなんだよー」
 
 ロドニーの言葉が心に刺さって痛い。確かに今の自分は、誰からも求められていない存在だ。でも、いつかみんなに認められる存在になりたい。

「ありがとう。今度図書室へ行って本を探してみるよ」

 頑張って笑顔を作って返事してみる。僕は上手く笑えているだろうか。

「なんで笑っているのー。笑う許可を誰にもらったわけー。ハーフエルフの分際で幸せそうに笑わないでよね。人間じゃないんだから一生不幸面していなよー」

 ロドニーの言葉を受けて困ってしまう。僕が笑わないと、それはそれで礼儀がなっていないと怒る人もいる。人によって意見が違うとどうしていいか分からなくなる。上手く合わせないといけないのだろうけれど。

「すまない」

 とりあえず謝ってみる。困ったな。もうなんて言ったらいいのか分からない。

 そのとき、どこからか水魔法が飛んできてロドニーの顔にかかった。ロドニーは一瞬驚いた顔をした後、すぐさま怒り出す。

「ボクに水をかけたのは誰かなー。ボクは割と地位が高い貴族だと知っての行いなのかな。ずいぶんと面白いことをしてくれるね。今すぐ出てきなよ。こらしめてやるからー」

 ロドニーがそう言って辺りを見回す。気がつけば周囲には野次馬が集まっていて、誰が行ったのか分からないような状況だった。

「だって、ロドニーいくら何でもやり過ぎじゃね。ロドニーは水を被って冷静になるべきだよ。ハーフエルフが嫌いなのは分かるけどさ」

 誰かが小さく言った。

「そうだよ。アルロがちゃんと受け答えしているのに、ロドニーは言いがかりが過ぎるよ」

 他の声も聞こえてきた。誰なのかは分からないけれど、大勢いる生徒の内の一人であることには間違いない。

「へー。面白くなってきたじゃん。いいよ。今回の件をまとめて校内新聞にしてあげるっ。ボクが情報部副部長ってことを思い知らしめてやるんだからっ」

 ロドニーがそう言って、乱暴な足取りで立ち去った。周囲の生徒達もだんだんといなくなっていく。

 一人取り残された自分はどうしていいか分からなくなった。身体の震えが止まらない。怖いせいか。いや、単純に全身が濡れて寒いせいかもしれない。
 
「アルロ。早く帰ろう」

 カバンの中から魔法人形サムが顔を出してきて言ってくる。サムの金茶色の瞳が無機質に見つめてきた。優しさはないけれど、怒りもないその目に、自分はとても安心してしまった。

「うん。家のお風呂で温まろう」

 そう言って学園から出て、飛行魔法で家まで飛んで帰った。正直言って凍えそうだった。明日風邪を引かないといいんだけど。
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