伯爵令息アルロの魔法学園生活

第四話 校内新聞

　翌朝、さっそくロドニーは校内新聞を廊下に貼っていた。仕事が早すぎる。よほど気合いを入れて作ったに違いない。

「アハハッ。ハーフエルフのアルロ君について書いたよっ。楽しいねー」

　ロドニーが僕にも聞こえるようわざとらしく言っていた。勘弁してほしい。

　しかし、昼休みに先生が校内新聞を撤去して、廊下でロドニーを叱り付け始めた。

「ロドニー。調子に乗りすぎだ。生徒から通報があったぞ。魔法学園では、ハーフエルフが人間と話しても問題ない。かつて魔法学園は議論をする場所として設けられた歴史があってだなあ」

　先生の言葉に、ロドニーが怒った顔をしている。

「ふざけないでよねっ。先生へわざわざ言いに行った命知らずは誰ー。まさかルーカス君本人とか面白いことを言わないでしょーねー」

　ロドニーが大きな声で言いながら、教室内を覗いてくる。

「もちろん僕だ。アルロのこともそうだが、僕のことも適当に書かれると困る。そもそも、ハーフエルフなんて珍しい存在を研究対象にしない方がおかしい。ここは学ぶための魔法学園だろう。僕とアルロの会話を邪魔しないでくれ」
　
　ルーカスが静かに答えた。

　ロドニーがすっごく嫌そうな表情を浮かべる。ロドニーは侯爵家出身だが、ルーカスは公爵家出身であり、家的にはルーカスの方が上とされている。つまり、ロドニーはルーカスに対してケンカを売りにくい。

「いつかオモチャにしてやる。とびっきり遊んでやるんだから」

　ロドニーが小さく言った。その言葉を聞いて、先生がまた説教を開始した。教室内の生徒達は面白そうに聞いている。

「ルーカス、すまない。僕のせいで」

　小声で謝る。すると、ルーカスが眉間にしわを寄せた。僕は何か不愉快なことを言ってしまっただろうか。

「アルロ。悪くもないのに謝るのは止めろ。聞いていてうっとうしい」

　ルーカスの言葉に、僕はなんと言っていいか分からなくなる。僕はルーカスのことが苦手かもしれない。

「分かった。気をつけるよ」
　
　とりあえずこの答えでいいだろうか。弱ったな。ルーカスとの会話が難しい。

　カバンの中から魔法人形サムを取り出してみる。でも、今僕はサムと話す気にもなれないんだよな。なんでだろう。

「アルロ。図書室へ行こう。ついてきてくれ」

　唐突にルーカスが意味の分からないことを言い始めた。一体何なんだ。

「僕は一緒に行かないよ。ルーカスと僕が話すことを不快に思う人もいるだろうし、そんなリスクを踏みたくない。だから、ルーカスは僕を放っておいてくれ。僕は一人が好きなんだ」

　そう言ってみたけれど、嘘だ。僕は一人が怖いから、本当は誰かともっと一緒にいたい。ルーカスとの会話は面倒だけれど、話しかけられてそこまで嫌な気はしない。

「分かった。じゃあ僕もここにいる」

　ルーカスが落ち着いた声で言う。僕にはルーカスのことがよく分からないよ。どういう気持ちで行動しているんだろう。