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第五話 寮
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そんなある日、自宅が燃えた。僕が魔法学園へ行っている間に放火されてしまったらしい。僕はハーフエルフなので、人間達から恨まれていることは知っていた。だからこそ、自宅のセキュリティは魔法も多く使って万全にしておいたはずなのに。
「エルフ王国に伝わる複雑な結界魔法をかけておいた。でも、完全に解除されている。人間の魔法使いだったらまず知らないような魔術式も使ったのに、何が悪かったんだろう。僕は結界魔法も魔術式も苦手だけれど、何ヶ月もかけて頑張って完成させたのに」
とにかく犯人は熟練の魔法使いで間違いないだろう。なんてことをしてくれたんだ。
「せっかく親からもらった家がなくなった」
そう呟きつつ、炭だけ残った家の跡を見た。燃えた後に雨が降ったのか、消火はされていた。町外れの土地だから近くに家はなく、延焼被害はないことが幸いか。
「でも、これからどうしたらいいんだろう」
ここにテントでも張って野宿すべきか。いや、近くに敵が潜んでいる可能性もある。今度は僕自身が燃やされかねない。
「とにかく離れよう」
まずは街へ行って、衛兵へ火事について報告する。事情聴取が終わったときにはもう夜だった。
魔法学園へ一旦戻り、残っていた先生に何があったかを説明した。そうしたら、しばらくは寮へ入れてもらうこととなった。ありがたい。ただ、部屋はもういっぱいらしく、誰かと同室になる必要があるらしかった。
「アルロはハーフエルフだから、他の生徒に同室は断られるかもしれないね。屋根裏部屋なら空いているから、そこならアルロ一人でも住めるよ」
先生の提案に乗り、自分は屋根裏部屋で住むこととなった。休日に身分証明書の再発行など手続きを済ませた。銀行のお金も下ろして、日常生活用品を買いそろえる。
「隙間風が多いせいか、やっぱりこの部屋は寒いな。まあ人が住む用には作られていないから仕方がないか。魔法学園の敷地内だから防犯対策はプロ級だし、暗殺される可能性は少ないだけありがたい。感謝しないと」
そんな独り言を言いつつ、寒すぎて眠れない夜が続いた。お布団を買い足したけれど、それでも凍えてしまう。寝不足は学園生活にも影響し、つらい日々が続いた。
「アルロ。最近の君はおかしい。目の下に隈ができているし、弁当も持ってこなくなった。それに、アルロは寮の共同浴場を使っているらしいな。ハーフエルフは珍しいから、裸をジロジロ見る生徒も多いと聞く。もしアルロが寮へ入ったになら、大人しく部屋の風呂を使うべきだ」
休み時間にルーカスが話しかけてくる。意外と心配してくれているらしい。
「僕は寮の屋根裏部屋に住み始めたんだ。だから、まだ慣れなくて眠れないんだ。とりあえず睡眠をとれるよう頑張ってみるよ。設備がないから自炊は無理だし、部屋にお風呂はないけれど、何とかする」
明るく振る舞って答えてみる。そうしたら、ルーカスにすさまじい目で睨まれた。
「なんでアルロは屋根裏部屋なんかに住むんだ。寮の空き部屋がないからか。誰かと同室になればいいだろう」
なぜかルーカスは怒っていた。そう言われても困る。
「ハーフエルフである僕なんかと一緒に住みたい人間がいるわけないだろう。だから、僕は一人でいるべきだ」
なるべく笑顔で言ってみた。そう、重い雰囲気にしたくない。出来れば笑い飛ばしてほしい。
なのに、ルーカスは微笑んでくれない。むしろルーカスの機嫌はもっと悪くなっていく。
「僕は寮に住んでいる。同室者はいない。だから、アルロが僕の部屋へ入ればいい。今日の放課後、僕は先生へ話をつけにいく」
ルーカスがとんでもないことを言い出した。なんでだよ。
「いやいや。ルーカスにそんな迷惑をかけられない。これは僕の問題だ。邪魔しないでくれ」
あわてて断る。でも、眠すぎて考えが上手くまとまらない。もっと何か言わないと、ルーカスにゴリ押される予感がする。どうしよう。僕は何をいえばいい。
「いや。アルロはすでに迷惑をかけている。隣に座るクラスメイトの顔が毎日げっそりしていたら、僕だって気にしてしまう。だから、アルロに拒否権はない」
ルーカスがとんでもなく傲慢に言って、少しだけ笑った。ルーカスはちょっと変な人だな。ああもう。僕はルーカスとの同室生活なんて耐えられそうにないよ。誰か助けてくれっ。
「エルフ王国に伝わる複雑な結界魔法をかけておいた。でも、完全に解除されている。人間の魔法使いだったらまず知らないような魔術式も使ったのに、何が悪かったんだろう。僕は結界魔法も魔術式も苦手だけれど、何ヶ月もかけて頑張って完成させたのに」
とにかく犯人は熟練の魔法使いで間違いないだろう。なんてことをしてくれたんだ。
「せっかく親からもらった家がなくなった」
そう呟きつつ、炭だけ残った家の跡を見た。燃えた後に雨が降ったのか、消火はされていた。町外れの土地だから近くに家はなく、延焼被害はないことが幸いか。
「でも、これからどうしたらいいんだろう」
ここにテントでも張って野宿すべきか。いや、近くに敵が潜んでいる可能性もある。今度は僕自身が燃やされかねない。
「とにかく離れよう」
まずは街へ行って、衛兵へ火事について報告する。事情聴取が終わったときにはもう夜だった。
魔法学園へ一旦戻り、残っていた先生に何があったかを説明した。そうしたら、しばらくは寮へ入れてもらうこととなった。ありがたい。ただ、部屋はもういっぱいらしく、誰かと同室になる必要があるらしかった。
「アルロはハーフエルフだから、他の生徒に同室は断られるかもしれないね。屋根裏部屋なら空いているから、そこならアルロ一人でも住めるよ」
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「隙間風が多いせいか、やっぱりこの部屋は寒いな。まあ人が住む用には作られていないから仕方がないか。魔法学園の敷地内だから防犯対策はプロ級だし、暗殺される可能性は少ないだけありがたい。感謝しないと」
そんな独り言を言いつつ、寒すぎて眠れない夜が続いた。お布団を買い足したけれど、それでも凍えてしまう。寝不足は学園生活にも影響し、つらい日々が続いた。
「アルロ。最近の君はおかしい。目の下に隈ができているし、弁当も持ってこなくなった。それに、アルロは寮の共同浴場を使っているらしいな。ハーフエルフは珍しいから、裸をジロジロ見る生徒も多いと聞く。もしアルロが寮へ入ったになら、大人しく部屋の風呂を使うべきだ」
休み時間にルーカスが話しかけてくる。意外と心配してくれているらしい。
「僕は寮の屋根裏部屋に住み始めたんだ。だから、まだ慣れなくて眠れないんだ。とりあえず睡眠をとれるよう頑張ってみるよ。設備がないから自炊は無理だし、部屋にお風呂はないけれど、何とかする」
明るく振る舞って答えてみる。そうしたら、ルーカスにすさまじい目で睨まれた。
「なんでアルロは屋根裏部屋なんかに住むんだ。寮の空き部屋がないからか。誰かと同室になればいいだろう」
なぜかルーカスは怒っていた。そう言われても困る。
「ハーフエルフである僕なんかと一緒に住みたい人間がいるわけないだろう。だから、僕は一人でいるべきだ」
なるべく笑顔で言ってみた。そう、重い雰囲気にしたくない。出来れば笑い飛ばしてほしい。
なのに、ルーカスは微笑んでくれない。むしろルーカスの機嫌はもっと悪くなっていく。
「僕は寮に住んでいる。同室者はいない。だから、アルロが僕の部屋へ入ればいい。今日の放課後、僕は先生へ話をつけにいく」
ルーカスがとんでもないことを言い出した。なんでだよ。
「いやいや。ルーカスにそんな迷惑をかけられない。これは僕の問題だ。邪魔しないでくれ」
あわてて断る。でも、眠すぎて考えが上手くまとまらない。もっと何か言わないと、ルーカスにゴリ押される予感がする。どうしよう。僕は何をいえばいい。
「いや。アルロはすでに迷惑をかけている。隣に座るクラスメイトの顔が毎日げっそりしていたら、僕だって気にしてしまう。だから、アルロに拒否権はない」
ルーカスがとんでもなく傲慢に言って、少しだけ笑った。ルーカスはちょっと変な人だな。ああもう。僕はルーカスとの同室生活なんて耐えられそうにないよ。誰か助けてくれっ。
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