伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき

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第二話 クラスメイト

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「楽しいよ。人形のサムと話し合うと考えがまとまる」

 そう言って、ルーカスの様子を見てみる。ルーカスは実に渋い表情をしていた。その文句ありそうな顔はなんだ。

「その魔法人形サムは腹話術のような仕組みで動いているのだろう。つまり、アルロの一人芝居に過ぎないわけだ。なのにアルロとサムが議論している。それに一体何の意味があるのだろう。結局どちらもアルロの意見なのだから、脳内で会話をすればいい。その方が口も疲れずに済む」

 ルーカスの言うことも分かる。でも、僕は誰かと声を出して話し合いたいんだ。例え人形相手でも話し相手になって欲しい。これは孤独をかき消すための自己満足行為なんだ。なんて、他人にそんなこと言えないな。

「ノートに文章を書いて、自分の考えをまとめるようなものだよ。案外楽しいぞ。ルーカスもやってみたらどうだ」

 軽い口調で言い返してみる。すると、ルーカスは表情を少しだけ和らげた。

「悪くない理由だな。しかし、せっかく魔法学園にいるのだから他人と話したらどうだ。家でもアルロとサムは話し合えるだろう」

 ルーカスに痛いことを言われた。確かにそうなんだけど、それが出来たら苦労しない。僕に友達がいない事実を突きつけて、ルーカスは楽しいのか。性格悪いな。

「僕はハーフエルフだから、人間の生徒へたくさん話しかけたら怖がらせてしまうだろう。これは配慮だよ。ルーカスにも分かるだろう」

 声を少し潜めて伝えてみる。こんなこと言いたくないのにな。なんだかすっごく疲れた。今日家へ帰ったらすぐ寝てしまおう。ふて寝というやつだ。

「僕は気にしないが」

 ルーカスは何でもないように言った。あれ。思った反応と違う。もっと意地悪なことを言ってくるかと思った。

「そうか。じゃあもっと話そう。でも、何を語ればいいんだ。魔法の話でもすればいいのか。僕は幻覚魔法や変身魔法が好きだ。ルーカスは魔術式が飛び抜けて上手いというウワサを聞いたが、本当か。もし良かったら今度教えてくれ。ああ、すまない。ついテンションが上がって話しすぎてしまった」

 変にはしゃいでしまったことを謝る。ハーフエルフの僕なんかがこんな風に話すべきじゃない。もっと遠慮しないと怒られてしまう。

「確かに少しうるさかったが、別に構わない。なぜなら、この教室にはもっとうるさい生徒が多いからだ。アルロが多少頑張ったところで、騒音が少し増えるくらいだ」

 ルーカスは静かに言って、そして黙った。皮肉屋なのかな。ちょっと取っ付きにくい。やっぱりルーカスは僕とあまり話したくないんじゃないか。

「うん」

 とりあえず返事だけして僕も黙った。騒がしい教室の中で、ルーカスと僕の席の辺りだけが妙に静かになった。気まずい。

「また話してくれると嬉しい」

 ルーカスが小さな声で呟いた。聞き間違えかと思ったけれど、ルーカスの青い瞳は確かに僕を見ていた。
 
 僕はルーカスに嫌われていたと思っていたけれど、意外とそうでもなさそうだった。ルーカスはよく分からない奴だ。でも、求めてくれること自体は嬉しい。僕は単純だから、それだけで好きになってしまいそうだ。もちろん友情的な意味でだけど。

「ああ。またいっぱい話そう」

 笑顔で言ってみる。すると、ルーカスもほんの少しだけ笑みを浮かべたように見えた。今日は嬉しい日だな。
 
「ごほん」

 誰かがわざとらしい咳払いをした。それは周囲の生徒が意図的に行ったことで。きっと注意喚起だった。

 ハーフエルフのアルロなんかが、人間であるルーカスに近づくな。周囲はきっとそう思っている。それが被害妄想でないこともよく分かる。だって、他の生徒達の視線がとっても冷たい。もはや睨んできている。

 失敗だった。僕はルーカスに関わるべきじゃなかった。そもそもルーカスは見た目が良くて、成績優秀者でもあることから、他人から尊敬を集めているタイプだ。つまり、ルーカスのファンは意外と多い。

「ハーフエルフを観察出来る機会は少ない。僕が魔法学園を卒業すれば、こんな機会はなかなか訪れないだろう。僕は貴重な機会を逃したくない。だから、僕はアルロと話して調べたいんだ。邪魔する者には容赦しない」

 なのに、ルーカスが唐突に宣戦布告し出した。なんで周りにケンカを売り出すんだ。このルーカスって人は面白すぎだろう。ルーカスの発言を聞いた人はみんなびっくりしているじゃないか。この空気どうするんだよ。

 休憩時間終了のチャイムが鳴り響くと、ルーカスは何事もなかったように教科書を準備し始めた。肝が座りすぎていて怖いな。ルーカスはちょっとやばい人かもしれない。
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