伯爵令息アルロの魔法学園生活

第六話 同室

　寝不足で頭が回っていない僕は上手く抵抗することが出来ず、ルーカスの寮の手続きを止められなかった。

　そしてルーカスの部屋へ入ることとなったが、そこはとても殺風景な場所だった。必要最低限の物しか置いていない。目立つのは本棚が多いことくらいか。

　ルーカスの部屋はなんか寂しいな。自分は室内をインテリアで飾ることが好きだったけれど、綺麗にしていた家はもう燃えちゃったから存在しない。ああ、思い出したら寂しくなってきた。

「お邪魔します」

　そう言って入って、自分の物も配置させてもらった。荷物は少ないのですぐ片付いた。

「アルロ。大丈夫だよ。僕も一緒だ」

　魔法人形サムが声をかけてくれる。感情のこもっていない声だけれど嬉しい。自分の気持ちが少し落ち着く。

「ありがとう。一緒に頑張っていこうな」

　僕がサムとそんな会話をしていると、ルーカスが近寄ってきた。ルーカスはサムをあまり良く思っていないようで、微妙な表情をしていた。

「アルロには僕がいるだろう」

　ルーカスが不満そうに言う。なんか嫉妬しているように見えるのは気のせいだろうか。

「そうだな。ルーカスもいたら安心だ」

　とりあえずそんな返事をしてみる。すると、ルーカスの雰囲気が少しだけ柔らかくなった。このルーカスって人、本当によく分からないな。

　ちなみに、ルーカスの部屋の冷蔵庫を開けたら、食材も何も入っていなかった。なんなら、氷魔石すらセットされていない。この世界の冷蔵庫は電気ではなく、氷魔石で冷やされているというのに。つまり、ルーカスは冷蔵庫を使っていないらしい。

「自炊はしなかった。面倒だから」

　ルーカスが悪びれもなく言う。確かにルーカスがお弁当とか作って持ってきたことないな。魔法学園のお昼休みはいつも、食堂へ行くか、売店で購入しているイメージだ。

「僕は料理をしたいんだけど、買いに行ってもいいか」

　一応お伺いを立てる。この部屋にはキッチンが備え付けられているが、匂いが嫌と言われるかもしれない。

「構わない。できれば俺の分も作ってくれ。食費は出す」

　ルーカスが手料理を要求してくる。今まで僕は他人に料理を作ったことがないんだけれど大丈夫だろうか。魔法人形サムは魔力を動力源に動いているから、ご飯なんか食べないし。

「分かった。任せておけ」

　とりあえずそう言ってみたけれど、不安でしかなかった。街へ行って冷蔵庫用氷魔石や食材を買い、寮へ戻って色々と試す。

　まずは簡単なスープとか作ればいいのかな。とにかく無難なお料理を作って提供してみる。

「おいしいが、もっと素早く食べられるものだと嬉しい」

　ルーカスに感想をいただいた。味を褒められて嬉しいが、なんで食べる速度を気にするんだ。ルーカスはすでに食べるの早いだろ。

「褒めてくれてありがとう。でも、よく噛まないと胃の負担が大きいぞ」

　さすがに指摘させてもらう。多分自分の声には呆れが入っていたと思う。

「アルロが消化にいい料理を作ってくれるなら大丈夫だ」

　ルーカスの言っている意味が分からない。どうしてそうなる。

「僕はルーカスとずっと一緒にいるわけじゃないと思う。だから、自分の身は自分で管理したい方がいいぞ。ルーカスの健康が心配だ」

　思わず強く言ってしまったが、言いすぎただろうか。

「いいや。アルロにはずっと一緒にいてもらう。なぜなら、アルロは他に行くあてもないはずだ。君の燃えてしまった家よりセキュリティが高い場所は、魔法学園の寮くらいじゃないか。少なくとも卒業まで、アルロは僕の部屋にいるだろう」

　ルーカスの発言は割と正論なので言い返せなかった。ちょっと悔しい。

「分かった。お料理の作れないルーカスの代わりに、とびっきりのご馳走を用意してやる。覚悟しておけよ」

　勢いよく伝えたら、ルーカスに微妙な目で見られた。

「別に俺も料理は出来る。料理本で学んだ知識がある体。ただ、普段僕は料理しないだけだ。まあいいだろう。たまには知識を実践するのも悪くない」

　ルーカスはそう言って、おいしいご飯を作ってくれた。こんなものを作れるなら、普段から自炊すればいいのに。あと、ルーカスの好きな食べ物がなんとなく分かった。サンドイッチ系だ。多分手でつかめるものがいいんだと思う。この国ではあまり見かけないが、おにぎりとかもルーカスは好きそうだ。

「ありがとう。おいしいよ」

　素直に褒めてみた。すると、ルーカスがちょっぴり自慢げな表情を浮かべた。なんか意外と分かりやすい人なのかもしれない。