【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】

道雪ちゃん

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白き静寂と「リビング・スタチュー」

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神楽坂ダンジョンの入口ロビー。そこには昨日とは明らかに違う「色」が満ちていた。

昨日、同じ場所で深々と頭を下げ、誠実そのものの顔で謝罪して回っていた三上ひよりと白鷺透。

しかし、今日その場に立っている二人の周りには、他者を容易に寄せ付けない、鋭利な刃物のような緊張感が漂っていた。

ひよりの腰には、抜けば紅蓮の炎が舞う名刀『鬼灯』。

透の背には、鈍い金属光沢を放つ魔銃『Alligator』。

ひよりの足元には、音もなく控える、56名にまで増員された黒スーツの「影」たち。

そして、その指のリングには、双子のようなオーラを持つゴブリンの特殊進化種、フウとライが封じられている。

昨日の「謝りたいお兄さん」を期待して近づこうとした探索者たちは、その圧倒的な「格」の違いに足を止め、遠巻きに見守ることしかできなかった。

「いよいよ11層ですね」

受付のカウンター越しに、妃那が少しだけ緊張した面持ちで声をかける。彼女もまた、今日のひよりから放たれる「攻略者」としてのオーラを感じ取っていた。

「はい。いけるところまで行ってみます。……終わったら、例の約束、行きましょう」

ひよりがふっと表情を和らげ、妃那を見つめて微笑む。その一瞬だけ見せた優しさに、妃那は頬を染めながらも、力強く頷いた。

「待ってます。……気をつけて! 必ず、無事に戻ってきてくださいね!」

「行ってきます」

ひよりが背を向け、ゲートへと歩き出す。その背中を追う透がゲートを潜った瞬間、ロビーに残された探索者たちの間で、止まっていた呼吸が一気に吐き出された。


………


転送された先は10層の転移石のフロア。

「……やるよ」

ひよりの短い一言で、攻略が再開された。



眼前に立ち塞がるのは10層のフロアボス。

だが、今のひより組にとってそれはもはや障害ですらなかった。

ひよりが発動した「強欲」のスキルが、ボスの巨体をどす黒い闇で包み込み、悲鳴を上げる暇すら与えず、一瞬にしてその存在を塵へと帰した。

「次は11層だ。止まらずに行くよ」

一行はドロップアイテムを回収するや否や、未踏の11層へと足を踏み入れた。

一行の目に飛び込んできたのは、眩いばかりの「白」だった。 

11層。そこは天然の洞窟ではなく、磨き上げられた大理石のような白い石材で組まれた、広大な人工通路だった。

壁には青白い魔導灯が灯り、これまでの階層とは一線を画す静謐な空気が流れている。

だが、その静寂はすぐに金属の擦れる嫌な音によって破られた。

通路の先から現れたのは、中身の抜けた甲冑――リビングアーマーの群れだ。

「アンデッド系か。物理耐性が高いね」

ひよりが『鬼灯・焔』の柄に手をかける。

本来、物理攻撃が効きにくい相手だが、今のひよりの刀には紅蓮の火属性が付与されている。

抜刀するだけで、周囲の白い冷気が蒸発する。

だが、主が動くよりも早く、一筋の「緑の突風」が通路を駆け抜けた。

「――ッ!」

フウだ。言葉を持たない彼は、ただひよりの行く手を阻む敵を排除することだけに全神経を研ぎ澄ませている。

風属性を纏った鋭い爪撃がリビングアーマーの隙間を切り裂き、物理耐性を無視して中の魔核を粉砕していく。

崩れ落ちる甲冑の山。 

それでも数に任せて押し寄せる敵に対し、影の構成員たちが即座に短刀を盾にして構え、鉄壁の前線を維持する。

「……掃討開始」

盾の隙間から、涼が大口径のマグナムを突き出した。
放たれたのは物理弾ではない。魔力を凝縮した「弾丸」だ。 

ドォォン! ドォォン! 

涼の銃撃がリビングアーマーの胸部を貫き、内側から魔力を爆発させて吹き飛ばす。

ひよりが刀を抜く隙すら与えないほどの、完璧な連携。

「……みんな、頼もしいね」

ひよりが小さく笑う。

透もまた、Alligatorを背負ったまま、冷静に戦況を分析し続けていた。

「11層のエネルギー効率が上がっている。この先……おそらく、この層のギミックの核心があるわ」

道中のアンデッドたちを文字通り「掃除」しながら進むこと2時間。

一行は、ひよりが「察知」で捉えていた巨大な広間へと到着した。

そこには、これまでのリビングアーマーとは比較にならない威圧感を放つ、6体の巨大な騎士型石像「ガーディアン」が鎮座していた。

「ひよりん、全員ストップ。……30秒ちょうだい。これはギミックが張り巡らされている。パズルを解くよ」

リビング・スタチュー。

侵入者が一歩でも踏み込めば、石像同士が魔力で繋がり、無限に修復し合う絶望的な初見殺しの間。 

透が眼鏡のブリッジを指先で押し上げ、知力440のフル演算を開始する。

彼女の視界には、床の幾何学模様を流れる魔力の脈動、壁のレリーフに隠された供給回路が、一つの巨大な「図面」として浮かび上がっていた。

「……見えた。あれは単なる石像じゃない。部屋全体が一つの魔法回路。……ひよりん、副官、フウ、ライ。指示を出すよ。一瞬で終わらせよう」

透の声は冷徹で、一点の迷いもない。 

ライが低く喉を鳴らし、透の前に出る。

筋力515を誇る巨体が、透の腰と銃をガッチリと掴み、自身の足を岩のように床へ固定した。

ライ自身が巨大なバイポッド(二脚)となり、盾となりながら透の魔銃から放たれる規格外の反動を、物理的に「消す」ための陣形だ。

「フウ、北西の3番! ひよりん、南東の5番! 同時に核を露出させて!」

「行くぞ、フウ!」 「――ッ!」

フウが鋭い呼気と共に弾けた。 

敏捷410を誇るひよりと、その影に寄り添うように加速する敏捷430のフウ。

二人の姿は、もはやほかの探索者は見えないだろう。 

ドォォン!! 

雷鳴のような衝突音が二つ重なる。

ひよりの『鬼灯・焔』が石像の胸部を溶断し、フウの爪がその魔核を露出させる。

援護に入ろうと槍を構える他の石像たち。 

透が涼に指示を出そうとしたが、そこには既に涼の銃口が向けられていた。

「……おっと、お行儀が悪ぃな。ボスの邪魔をするんじゃねぇよ」

涼が正確に石像の膝関節を撃ち抜き、援護のタイミングをコンマ数秒、強制的に遅延させる。

その「コンマ数秒」が、透の計算した絶対の勝機。

「ひよりん、そのまま11時方向の壁のレリーフを叩いて! 回路を逆流させる!」

「ここだね!」

ひよりが空中で体を翻し、壁に刻まれた特定の模様を一撃で粉砕する。

その瞬間、石像同士を繋いでいた魔力のラインが激しく火花を散らし、修復機能が完全にダウンした。

無敵を誇ったガーディアンたちが、ただの「脆い岩石」へと成り下がった。

「フィニッシュは私がもらうよ……出力全開(オーバーブースト)」

ライの強固な固定があるからこそ可能な、反動無視の全開射撃。透が引き金を引き、Alligatorが咆哮した。

――――ズドォォォォォン!!!

昨日、1層で周囲を恐怖させた「あの音」が響く。

だが、その意味は昨日とは全く異なっていた。

放たれた特大の魔弾は、機能停止した6体の石像を串刺しにするように直線状に貫通し、一撃でそれらを砂塵へと変えた。

静まり返る11層の大広間。

ひよりは鬼灯を鞘に納め、額の汗を拭いながら透に笑いかけた。

「完璧な指示だったよ、透。……ライくんも、ありがとう」

ライは満足げに鼻を鳴らし、フウは既に次の通路を見据えている。 

11層の攻略を終えたひより組が、その「真の実力」という暴力的なまでの輝きを、神楽坂の深淵へと刻み始めた。
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