【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】

道雪ちゃん

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灰色の回廊と「看破」の覚醒

11層の白い静寂を抜けた先、12層へのゲートを潜った一行を待ち受けていたのは、重苦しい「灰色」の世界だった。

そこは通路という概念すら曖昧な、広大な空洞。

しかし、その内部は濃密な「灰色の霧」に満たされている。

松明の火を近づけても光は数センチ先で吸い込まれ、隣に立つ仲間の気配すら、霧が音を吸収するために極端に希薄に感じられた。

「……気持ち悪い場所だな。音が死んでやがる」

涼がマグナムを握り直し、低く吐き捨てる。

彼の声ですら、まるで水中にいるかのようにこもって聞こえた。

ひよりは『察知』を広げようとしたが、眉をひそめる。

「霧が乱してるね。……正確な位置が掴みづらい。あちこちに『偽物』の反応があるよ」

知力275を誇るひよりですら翻弄される五感の遮断。

並の探索者なら、ここで方向感覚を失い、霧の奥から迫る「何か」に気づかぬまま命を落とすだろう。

「ひよりん、全員の意識を私に繋いで。……視界はいらないわ。私の頭脳(ロジック)を共有して」

透が静かに告げる。彼女は眼鏡の端に触れ、スキル『念波展開』を発動させた。 

瞬間、ひより、涼、そしてフウとライの脳内に、鮮明な「青い座標(グリッド)」が直接投影された。

霧に邪魔されない、透が構築した三次元マップだ。

「これなら見えるね……。透、指示を」 

「了解。ひよりん、右30度、距離15。副官はそのまま10時方向へ牽制射撃。……来るよ」

透の合図と同時に、霧の奥から「カチカチ」と硬質な音が響いた。

12層の徘徊者、ミスト・ストーカーだ。 

視界ゼロ、音響死滅。その中で、ひより組の連携が炸裂する。

涼が指示された座標へマグナムを叩き込む。

放たれた魔弾が霧を切り裂き、隠れていた魔物の姿勢を崩す。

そのわずかな隙を逃さず、ひよりの愛刀が「最短ルート」を抜けた。 

『影差し』。 

足元の影に刺した刀身が、指定した影から現れる、霧の抵抗を一切受けずに飛び出す。 

断魔の火炎を纏った『鬼灯・焔』が、見えない敵の首を正確に貫いた。

「……完璧。このまま最短ルートでボスの部屋まで行くよ」 

透のナビゲートにより、迷宮はただの「直進通路」へと成り下がった。


………


2時間後。一行は層の最深部、霧が最も濃く渦巻く「深淵の間」へと到達した。

そこには、生理的な嫌悪感を催す異形の魔物が鎮座していた。

深淵の監視者『百目(ハンド アイズ)』。 

巨大な「手」の形をした肉塊。

その手のひら、指の節々、あらゆる場所に無数の「眼球」が埋め込まれ、それらが一斉に、異なる方向を向いて激しく瞬いている。

「……趣味が悪いね」 

ひよりが吐き捨てる。

その瞬間、ボスの体に埋め込まれた目の一部が、肉を割って浮遊し始めた。

数十、数百という「浮遊する目」が霧の中に散らばり、ひよりたちを全方位から包囲する。

「散ったね。……あれがボスの端末。視界を共有して、死角からレーザーを撃ってくる」

透の警告が終わるより早く、四方八方の霧の奥から、細く鋭い魔力レーザーが飛来した。 

音もなく、光すら霧に減衰されるため、目視での回避は不可能。

「ライ! 前!」 

「――ッ!!」

ライが巨体を割り込ませ、スキル『前進防壁』を発動する。

575という圧倒的な耐久力を持つ彼が、盾と魔力の障壁を組み合わせてレーザーの雨を正面から受け止める。 

だが、レーザーは止まらない。

ボスの「目」が位置を変え続け、ライが届かない背後から、ひよりたちの隙を狙い続ける。

「副官、フウ! 私の送る座標に『掃除』をお願い! 盤面をクリアにするわ!」

透の知力が加速する。

彼女の脳内では、数百の「目」の移動軌跡、レーザーの屈折率が、複雑な数式となって解かれていく。

「今! 右上45度から時計回りに一掃!」

「おうよ!」 

「――ッ!」

涼の乱射と、フウの『乱気裂線』が空を裂いた。

透の指示通りに放たれた攻撃は、霧の中に隠れていた「目」を次々と正確に粉砕していく。

「ボスがパニックを起こしたね。……本体の真の座標、特定完了。ひよりん!」

「待ってたよ」

ひよりが低く構える。 

「霧の奥、正面20メートル。そこから左に3度、ボスの『核』がある。……ただし、残りの『目』が全門、貴方に照準を合わせている。……行ける?」

「透、俺を信じられないの?」

ひよりが不敵に微笑んだ。

その時、ひよりの脳内に無機質なシステム音声が響く。

《熟練度が一定に達しました。スキル:察知 Lv.MAX が上位スキル:看破 へ進化します》

脳を突き抜けるような、極限の透明感。 

これまで「レーダーの点」のように捉えていた周囲の情報が、意味を持った「真実」として流れ込んでくる。

霧による魔力の偽装、ボスの放つブラフ、そしてレーザーの射線上の空気が加熱する微細な変化。

すべてが、丸裸に見える。

「……行くよ」

ひよりが踏み込んだ。 

ドォン!! と空気が爆ぜる音が遅れて響く。 飛来する数十本のレーザー。

だが、ひよりはその光の網を、予知を超えた「看破」による直感ですり抜けていく。 

ボスの「目」がどこを向き、どの指が次に動くのか。

敵の嘘がすべて見えているひよりにとって、この霧の中はもはや自分だけの独壇場だった。

霧を切り裂く紅い閃光。 

ひよりの手元で『鬼灯・焔』が逆手に持ち替えられた。

「これで……終わりだよ」

『散華ノ太刀』。 

一瞬のうちに放たれた斬撃。

ボスの巨大な「手」が切り裂かれ、その断面から噴き出した魔力の血が、霧を真っ赤な花弁のように染め上げた。

ひよりが背を向け、刀を鞘に納める。 

背後で12層の主が音もなく崩壊し、灰色の霧が急速に晴れていく。

「……ふぅ。お疲れ様、みんな」

ひよりが振り返ると、ライの巨体から降りた透が、満足げな笑みを浮かべていた。 

「12層攻略、完了ね。……ひよりん、その目。何か掴んだね?」

「うん。今まで見えなかったものが、少しだけはっきり見えるようになった気がするよ」

ひよりは、新しく得た『看破』の感覚を確かめながら、微笑み返した。 

この力があれば、どんな嘘も、どんな隠蔽も、もう自分の前では通用しない。

「さあ、戻ろうか。……妃那さんに、いい報告ができそうだ」

ライが誇らしげに鼻を鳴らし、フウが静かにその影に並ぶ。 

前人未到の12層を、たった数時間で粉砕したひより組だった。
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