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辺境伯領の未来 ーアレクー
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ずっと愕然とした顔で話を聞いているアメリア様。
それはそうだろうな。
ルカが王都に帰れと宣言したくだりは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
「これでアメリア様のお耳に入っていなかった話、全てになります。」
「‥‥‥」
アメリア様は絶句したまま動かない。
ルカも話しているうちに俯いて黙り込んでしまった。
ようやくアメリア様はふーーと細く息を吐くと
「言いたいことはたくさんあるけれど‥」
とボソリと呟くと手紙を出した。
「順を追って現状把握をして至急解決しないと。」
といった。
「これはフェトール子爵の追加の報告ね。まあ、簡単にまとめると今パインダセルビーが王都で値段が高騰しているらしいわ。」
「何で今?」疑問を口にしたルカを無視して話を進める。
「後商売をやっている者、貴族平民関わらず北の辺境での商売の状況なんかもひっきりなしに聞かれるらしいわ。支店を出すべきか本店を移すべきか、と。」
「何故今なんでしょう?」
俺も思わず疑問が口から溢れる。
「エリザベス嬢が北の辺境に来たわよね。」
アメリア様が即答した。
「え?」
思わずルカと声が揃ってしまった。
「エリザベス嬢が王都を出て滞在先でパインダセルビーの髪飾りをつけることが多かったらしいわね。それでパインダセルビーの需要が高まっているそうよ。そしてエリザベス嬢がお茶会で着ていた立派な刺繍のドレス。王都にまさにデザインが伝わったところだそうで王都中の商会が我先にと貴族たちに売り込みをかけているらしいわ。とにかく王都では女性の流行の先端は北の辺境に移った、と言われているそうよ。」
今度はこちらがポカンと口を開ける番だった。
エリザベス嬢が場所を移動しただけで経済が大きく動いたと言うのか?
「エリザベス嬢が身につけたものは飛ぶように売れる。これは王都では常識だそうよ。エリザベス嬢が悪役令嬢だなんて信じている人はいない。でも公爵令嬢を広告塔にできない商売人が悪役令嬢を身代わりに広告塔にしているというのは平民でも知っている事らしいわ。悪役令嬢断罪物と呼ばれる劇が王都で大流行しているのは、ストーリーもさることながら平民が知ることができる流行りの最先端がそこにあるからだそうよ。平民向けに値段を抑えたアクセサリーなんかが劇場で買えるらしいわ。」
言葉を失ってしまった。
「そんな貴重な御令嬢がなぜ辺境に‥?」
かろうじて言葉を紡ぐ。
「王族命令というのもあるんでしょうけど。何より前から王に謁見すると王家の息のかかった家の令嬢を勧められることが多かったわ。その点エリザベス嬢なら王家の筋である筆頭公爵家の完璧な御令嬢。王家のためにも家のためにも不利になることはしないわ。こんな得難い御令嬢を頂いたこちらも借りができたと言うべきなのかもしれないわね。確実に税収は増えるもの。」
そこまで話すと、アメリア様はもう冷めてしまったであろう紅茶を飲んだ。
「今バラルヒルガムの街の経済も活発に回りだしているわ。」
ええ、じゃあ‥
「エリザベス嬢が城から出るとなると‥」
「それはもう‥わからないわ。」
ひゅっと息を呑んだ。
もはや初恋拗らせたで済む話ではない。
「療養といえばリマポルカかしらね。」
リマポルカは辺境領だが前辺境伯、ルカの父上の従兄弟ブラハム様に任せている土地だ。
「ブラハム様のご子息とご令嬢が確かエリザベス嬢と歳が近かったですね。同年代とお喋りをすれば気分も晴れるかもしれませんが‥」
「まずはエリザベス嬢に意向を聞きましょう。実際体調は崩されているのだし療養もいいわ。でもすぐ戻ってきてもらわなければ。離れの屋敷を整えて住んでいただいてもいいわ。使用人もすべて新しい人を雇って。王都に戻りたいと言われれば公爵家とよく話し合うことになるわね。とにかく。」
そこまで言うとアメリア様は黙りこくっているルカに目を向けると
「ルカ」と静かに名前を呼んだ。
ルカも顔を動かす。
「たった今、この瞬間から、もう二度とエリザベス嬢に会わないで。」
「なっ!!」
ルカが絶句する‥が、そりゃそうだろうよ。
「少なくとも結婚式までは。偶然も勘弁して。」
「なんでそこまで‥」
「いいじゃないか。苦手なんだから。貴族ならよくある事だよ。政略的に結婚して顔も合わさず暮らす、なんてことは。」
俺も援護する。
「そうかもしれないが‥」
「お前もそれがいいと思ったからお城から出るよう提案したんだろう。」
「それは!お前が‥!」
「あなたは辺境伯よ!忘れないで。あなたの後ろには守るべき領民がいるの。辺境の立場も考えてちょうだい。あなたとエリザベス嬢は合わないわ。エリザベス嬢はストレスを溜めるだけ。本格的に体調を崩すことになれば、公爵家がエリザベス嬢を取り戻しに来るわよ。その時辺境と王家との関係はどうなると思っているの。エリザベス嬢に傾倒する者たち、経済でぶら下がった人たちの辺境を見る目はどんなものになるのか。よく考えてちょうだい!あなたの振る舞いに辺境の未来がかかっているのよ!!自覚を持って行動してちょうだい!」
ルカの言葉を遮ってアメリア様が捲し立てると、ふうと息をついた。
「いいわね?とにかく会わないでちょうだいよ!」
しっかり言い聞かせるようにアメリア様が付け足した。
ルカは無表情のまま黙っている。
何を考えているのか皆目見当もつかない。
すまんな、ルカ。
今まさに辺境伯領の岐路だ、間違うわけにはいかない。
初恋はこのまま気付かず10年くらい経って、ああ、あれが初恋だったんだなあと甘酸っぱい思いに浸ればいい。
その時にまだ結婚が続いていればそこから巻き返しもあるかもしれない。
しかしそれも辺境伯領に未来があればこそ、だ。
もっと言えばお前が辺境伯でいられるなら、だ。
これ以上やらかせば、ありうる。
北は難しい土地だが、すげかえる首がないわけではないのだ。
ん?となればリマポルカで療養してブラハム様のご子息と仲良くなってしまうのはまずいのでは?
とにかく。
俺たちは間違えたんだ。
やり直せるチャンスがあるとすれば今。
もう間違うわけにはいかない。
そのためにはルカ、大人しくしておいてくれ。
それはそうだろうな。
ルカが王都に帰れと宣言したくだりは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
「これでアメリア様のお耳に入っていなかった話、全てになります。」
「‥‥‥」
アメリア様は絶句したまま動かない。
ルカも話しているうちに俯いて黙り込んでしまった。
ようやくアメリア様はふーーと細く息を吐くと
「言いたいことはたくさんあるけれど‥」
とボソリと呟くと手紙を出した。
「順を追って現状把握をして至急解決しないと。」
といった。
「これはフェトール子爵の追加の報告ね。まあ、簡単にまとめると今パインダセルビーが王都で値段が高騰しているらしいわ。」
「何で今?」疑問を口にしたルカを無視して話を進める。
「後商売をやっている者、貴族平民関わらず北の辺境での商売の状況なんかもひっきりなしに聞かれるらしいわ。支店を出すべきか本店を移すべきか、と。」
「何故今なんでしょう?」
俺も思わず疑問が口から溢れる。
「エリザベス嬢が北の辺境に来たわよね。」
アメリア様が即答した。
「え?」
思わずルカと声が揃ってしまった。
「エリザベス嬢が王都を出て滞在先でパインダセルビーの髪飾りをつけることが多かったらしいわね。それでパインダセルビーの需要が高まっているそうよ。そしてエリザベス嬢がお茶会で着ていた立派な刺繍のドレス。王都にまさにデザインが伝わったところだそうで王都中の商会が我先にと貴族たちに売り込みをかけているらしいわ。とにかく王都では女性の流行の先端は北の辺境に移った、と言われているそうよ。」
今度はこちらがポカンと口を開ける番だった。
エリザベス嬢が場所を移動しただけで経済が大きく動いたと言うのか?
「エリザベス嬢が身につけたものは飛ぶように売れる。これは王都では常識だそうよ。エリザベス嬢が悪役令嬢だなんて信じている人はいない。でも公爵令嬢を広告塔にできない商売人が悪役令嬢を身代わりに広告塔にしているというのは平民でも知っている事らしいわ。悪役令嬢断罪物と呼ばれる劇が王都で大流行しているのは、ストーリーもさることながら平民が知ることができる流行りの最先端がそこにあるからだそうよ。平民向けに値段を抑えたアクセサリーなんかが劇場で買えるらしいわ。」
言葉を失ってしまった。
「そんな貴重な御令嬢がなぜ辺境に‥?」
かろうじて言葉を紡ぐ。
「王族命令というのもあるんでしょうけど。何より前から王に謁見すると王家の息のかかった家の令嬢を勧められることが多かったわ。その点エリザベス嬢なら王家の筋である筆頭公爵家の完璧な御令嬢。王家のためにも家のためにも不利になることはしないわ。こんな得難い御令嬢を頂いたこちらも借りができたと言うべきなのかもしれないわね。確実に税収は増えるもの。」
そこまで話すと、アメリア様はもう冷めてしまったであろう紅茶を飲んだ。
「今バラルヒルガムの街の経済も活発に回りだしているわ。」
ええ、じゃあ‥
「エリザベス嬢が城から出るとなると‥」
「それはもう‥わからないわ。」
ひゅっと息を呑んだ。
もはや初恋拗らせたで済む話ではない。
「療養といえばリマポルカかしらね。」
リマポルカは辺境領だが前辺境伯、ルカの父上の従兄弟ブラハム様に任せている土地だ。
「ブラハム様のご子息とご令嬢が確かエリザベス嬢と歳が近かったですね。同年代とお喋りをすれば気分も晴れるかもしれませんが‥」
「まずはエリザベス嬢に意向を聞きましょう。実際体調は崩されているのだし療養もいいわ。でもすぐ戻ってきてもらわなければ。離れの屋敷を整えて住んでいただいてもいいわ。使用人もすべて新しい人を雇って。王都に戻りたいと言われれば公爵家とよく話し合うことになるわね。とにかく。」
そこまで言うとアメリア様は黙りこくっているルカに目を向けると
「ルカ」と静かに名前を呼んだ。
ルカも顔を動かす。
「たった今、この瞬間から、もう二度とエリザベス嬢に会わないで。」
「なっ!!」
ルカが絶句する‥が、そりゃそうだろうよ。
「少なくとも結婚式までは。偶然も勘弁して。」
「なんでそこまで‥」
「いいじゃないか。苦手なんだから。貴族ならよくある事だよ。政略的に結婚して顔も合わさず暮らす、なんてことは。」
俺も援護する。
「そうかもしれないが‥」
「お前もそれがいいと思ったからお城から出るよう提案したんだろう。」
「それは!お前が‥!」
「あなたは辺境伯よ!忘れないで。あなたの後ろには守るべき領民がいるの。辺境の立場も考えてちょうだい。あなたとエリザベス嬢は合わないわ。エリザベス嬢はストレスを溜めるだけ。本格的に体調を崩すことになれば、公爵家がエリザベス嬢を取り戻しに来るわよ。その時辺境と王家との関係はどうなると思っているの。エリザベス嬢に傾倒する者たち、経済でぶら下がった人たちの辺境を見る目はどんなものになるのか。よく考えてちょうだい!あなたの振る舞いに辺境の未来がかかっているのよ!!自覚を持って行動してちょうだい!」
ルカの言葉を遮ってアメリア様が捲し立てると、ふうと息をついた。
「いいわね?とにかく会わないでちょうだいよ!」
しっかり言い聞かせるようにアメリア様が付け足した。
ルカは無表情のまま黙っている。
何を考えているのか皆目見当もつかない。
すまんな、ルカ。
今まさに辺境伯領の岐路だ、間違うわけにはいかない。
初恋はこのまま気付かず10年くらい経って、ああ、あれが初恋だったんだなあと甘酸っぱい思いに浸ればいい。
その時にまだ結婚が続いていればそこから巻き返しもあるかもしれない。
しかしそれも辺境伯領に未来があればこそ、だ。
もっと言えばお前が辺境伯でいられるなら、だ。
これ以上やらかせば、ありうる。
北は難しい土地だが、すげかえる首がないわけではないのだ。
ん?となればリマポルカで療養してブラハム様のご子息と仲良くなってしまうのはまずいのでは?
とにかく。
俺たちは間違えたんだ。
やり直せるチャンスがあるとすれば今。
もう間違うわけにはいかない。
そのためにはルカ、大人しくしておいてくれ。
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